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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
23/33

23話目

「ここかな」

 映し出された映像にはハヤテとアヤメが写っている。武装を見ると戦闘中なのが分かる。

「なんだ?」

「ハヤテ君が第2部隊、カグラ君の部隊を救出に向かった時の映像だね」

「それがどうした?」

「表情を見てくれ。君必死だね?」

 モニターの中の自分は、確かに酷い顔をしていた。

 人型を追いながら、何度もアヤメ達の方を確認している。

「……戦闘中なんだから当たり前だろ」

「いやいや。君、普段はもっと楽しそうに戦うじゃないか」

「言い方が最悪だなお前」

「事実だとも」

 博士が映像を止める。

 そこには、アヤメへ向かおうとする人型へ割り込むハヤテが映っていた。

「君、自分に向いた攻撃にはかなり雑だ」

「は?」

「避けられる前提で動く。多少斬られても止まらない」

「まぁ……そうだな」

「だが、他人へ向くと急に慎重になる」

 博士がニヤニヤしながら言う。

「特にアヤメ君絡みだと顕著だねぇ」

「おい」

「おや図星かな?」

「違ぇよ」

「反論が遅い」

 ハヤテが露骨に顔をしかめる。博士は楽しそうだった。

「まぁ冗談はさておき」

「今の絶対本題だろ」

「君、自分の扱いが軽すぎるんだよ」

 不意に、博士の声色が少しだけ落ちた。

「……」

「単独行動が多かったせいかな。自分なら多少無理してもどうにかなる、が染み付いてる」

 モニターには、これまでの戦闘記録が並ぶ。

 崩落へ飛び込む姿。大型種へ単独で噛みつく姿。味方を庇って被弾する姿。

「見返すと酷いねこれ」

「勝ってるからいいだろ」

「研究素材としては最高だ」

「人としては?」

「最低寄りかな」

 即答だった。ハヤテが呆れたように息を吐く。

「……なんだよ急に」

「別に?」

 博士は肩を竦める。

「ただ、君が死ぬと困る」

「便利な駒的な意味で?」

「もちろんそれもある」

「それもって言うな」

「だが、それだけじゃないさ」

 博士は端末を閉じる。研究室が少し静かになった。

「君はね、“無茶を無茶と思わない側”なんだよ」

「褒めてんのか?」

「警告してる」

 珍しく即答だった。

「ハンターは大体二種類いる。恐怖で動けなくなる者と、恐怖に慣れすぎる者」

「……」

「後者は長持ちしない」

 博士は軽く笑う。

「シドウ君みたいに管理できるタイプは別だが、君は勢いで踏み込むからね」

「勢いって」

「実際そうだろう?」

 否定できなかった。

 人型戦も。ウシオニ戦も。気づけば踏み込んでいた。

「だから今後は単独行動を減らす」

「またその話か」

「重要だからね」

 博士が指を立てる。

「君一人が強くなっても意味がない。周囲が君を止められるようにならないと困る」

「止めるってお前」

「絶対暴走するだろう?」

「しねぇよ」

「今日だけで三回してる」

 ハヤテが黙る。博士は勝ち誇ったように笑った。

「まぁ、安心したまえ。北海道支部は割と人材に恵まれている」

「……シドウとか?」

「カグラ君もだね。アヤメ君は胃痛枠だが」

「分かる」

「レイナ君辺りも君の手綱くらいは握れるかもしれない」

「嫌な言い方すんなぁ……」

「だから組むんだよ」

 博士が静かに言う。

「色んな部隊と。色んな人間と」

 その声は軽い。だが、どこか真面目だった。

「君は一人で完成しすぎている」

「褒めてんのか?」

「欠点の話だよ」

 研究室の照明が小さく瞬いた。

「一人で戦える人間は、一人で死にやすい」

 博士は笑う。いつもの胡散臭い笑み。なのに、今だけ少しも目が笑っていなかった。

「だからせめて、“死にづらい戦い方”を覚えてきたまえ」

 ハヤテはしばらく黙り込んでから、頭を掻いた。

「……善処はする」

「うん。それで十分」

 博士は満足そうに頷いた。

「さて。真面目な話は終わりだ」

「急だな」

「君、こういう話長引くと逃げるだろう?」

「否定できねぇ」

「だから遠征へ行ってきたまえ」

 博士が笑う。

「素材集めに、実戦訓練。ついでにコミュニケーション能力の改善も期待しているよ」

「最後の余計だろ」

 ハヤテは立ち上がる。モニターには、まだ白い人型の輪郭が映っていた。

 未知。脅威。だが同時に、少しずつ輪郭が見え始めてもいる。

「……ま、やるしかねぇか」

「そういうこと」

 博士が軽く手を振る。

「人類は案外しぶとい。簡単には滅びないさ」

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