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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
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2話目

2話目です。よろしくどうぞ

司令室のレーダーに映る赤い点が、一つ消える。

 続けてもう一つ。

 さらに一つ。

「え……?」

 思わず声が漏れた。

 レーダー上のマガツ反応が、通信音声と連動するように消えていく。

 それも異常な速度で。

「……速すぎる」

 指先がわずかに震える。

 モニターには複数の反応。それが一人分の識別信号を中心に減り続けていた。

「本当に一人なんですよね……?」

 誰に向けた言葉でもない。

 確認したくなるほど現実味がなかった。

 大型種救援。それも通信途絶区域。本来なら複数部隊が動く案件だ。

 なのに今向かっているのは一人。

 独立部隊所属。

 ハヤテ。

 資料上では何度も見た名前だが、実際に担当するのは初めてだった。

 マイクを握る。

「まもなく問題の大型マガツへ接触します」

 なるべく冷静に。なるべく落ち着いて。

「数・種類ともに不明です。十分警戒してください」

『了解』

 返事は軽い。

 散歩にでも行くみたいな声だった。数秒後。

『あー、視認した』

「状況を」

『ライジュウ一体。サルガミ複数』

 そこで少し間が空く。

『……いや、違うな』

「何がですか?」

『ライジュウが飼われてる』

「はい?」

 一瞬思考が止まった。

『少なくとも群れの中心じゃない』

「ちょ、ちょっと待ってください」

 慌てて記録端末を操作する。

「ライジュウは危険度B相当です! それを統率する個体なんて記録に――」

『ないよな』

「ないです!」

『俺もそう思う』

 妙に落ち着いた声だった。

 ミヤの方が混乱している。

「なら撤退を――」

『ところで』

「聞いてます?」

『周辺十キロ以内の反応見てくれる?』

「え?」

『増援来そうか確認したい』

 慌ててレーダーを操作する。

 索敵範囲を広げる。数秒。

「あ……ありません」

『よし』

「よし?」

『じゃあ遠慮なく暴れられるな』

「よくないですよ!?」

 思わず立ち上がった。周囲の職員がこちらを見る。

 気まずい。だがそれどころじゃない。

「撤退推奨です!」

『却下』

「早い!」

『救援対象いるんだろ?』

「それはそうですけど!」

『なら行くしかない』

「規模が違うんです!」

 資料を叩く。

「推定Aランク案件ですよ!?」

『そのための独立だろ』

「便利な言葉みたいに使わないでください!」

『便利だからな』

「全然便利じゃありません!」

 沈黙が数秒。そして通信越しに笑い声が聞こえた。

『じゃあ報告頼む』

「だから待ってください!」

『大丈夫』

「何がですか!?」

『死なないように頑張る』

「頑張るで済む話じゃ――」

 ブツッ。

 通信が切れた。司令室に静寂が戻る。ミヤはしばらく固まった。

 数秒後。

「勝手に切らないでくださいよ!!」

 叫びだけが室内へ響いた。




 枯れた草木に崩れた建物。

 かつて市街地だった場所は、今ではマガツキの縄張りになっていた。

 風が吹く。

 転がる看板が軋み、遠くで鉄骨が鳴った。

「……オペレーターは新人だったか。悪いことしたな」

 足元には黒い染みが残っている。

 血か、焦げ跡か。もう判別もつかなかった。

 マガツキが現れて五十年。人類は生き残った。

 だが取り戻したわけではない。今もこうして、奪われた土地は残っている。

「っと」

 思考を切り替える。感傷に浸る仕事じゃない。

 今日は救援だ。生き残りがいるなら急ぐ必要がある。

 ハヤテは双剣を抜いた。

 カン。

 軽く打ち合わせる。乾いた音が響いた。反応はすぐだった。瓦礫の陰。崩れた建物の屋上。複数の視線がこちらへ向く。

「来るか」

 双剣へマガを流す。刃が淡く発光する。

 白い光が刀身を包み込み、輪郭が変わる。

 マガツ化。

 素材となったマガツキの特性を引き出す技術。

 今やハンターにとっては生命線だった。

「ガァァ!!」

 最初に飛び出してきたのはサルガミ。

 一直線。

 考えなしの突撃。

「一体だけか」

 ハヤテは半歩だけ動く。

 拳が頬を掠める。

 その勢いのまま首元へ刃を滑らせた。

 黒い血が飛ぶ。

 着地する頃には首が落ちていた。

 だが確認はしない。

 もう次が来ている。

 左右。

 後方。

 三方向。

「なるほど」

 視線を巡らせる。

「ちゃんと囲む気はあるらしい」

 以前ならあり得なかった。

 サルガミは基本的に単純だ。

 数で押すことはあっても、ここまで連携することは少ない。

 だからこそ違和感があった。

 ハヤテは視線を上げる。

 高所。崩れたビルの上。

 そこにライジュウがいた。

 動かない。ただ見ている。

「お前か?」

 返事はない。

 当然だ。

 だが。

「……違う気もするな」

 ライジュウは強い。

 だが統率するタイプには見えない。

 むしろ獲物が弱るのを待っているようにも見える。

 なら。どこだ。

 誰が群れを動かしている。

「ガァッ!!」

 考える時間は終わりだった。

 横から二体。

 同時。

 タイミングを合わせて飛び込んでくる。

「おっと」

 後ろへ飛ぶ。

 そのままポーチから円筒を引き抜いた。

 スタングレネード。

 ピンを抜き、転がす。

「サービスだ」

 閃光。

 サルガミ達が怯む。

 その隙を逃さない。

 一歩。

 二歩。

 距離を詰める。

 喉。

 眼。

 関節。

 急所だけを正確に斬り裂いていく。

「三」

 首が落ちる。

「四」

 膝を断つ。

「五」

 心臓を貫く。

 息を吐く。

 だがまだ終わらない。

 周囲には気配が残っている。

 そして高所にはライジュウ。

 さらに――

 見えない何か。

 ハヤテは双剣を構え直した。

 新人オペレーターの言葉を思い出す。

 大型種。複数。通信途絶。

「さて」

 口元が僅かに上がる。

「救援対象が生きてるといいんだがな」

ありがとうございます!しばらくは日に1話は投稿したい所存。

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