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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
1/33

1話目

初めまして

霞山と申します!初作品、初投稿でドキドキですが、見ていただければ幸いです。

 人類の礎となれ。

 その文字が印刷されたポスターの上から、新しいポスターを貼り付ける。

 端をしっかり押さえ、空気を抜く。

 これで基地内に残っていた募集ポスターも、だいたい潰せただろう。

 我ながら地味な作業だ。

「お疲れ様」

 後ろから声がした。

 振り返ると白衣姿の男が歩いてくる。

 相変わらず胡散臭い。

「いやぁ、上から貼るとは思わなかったよ」

 博士が肩を竦めた。

「剥がしたら怒られるだろ」

「隠しても怒られると思うけど?」

「なら見つからなきゃセーフだ」

「その理屈で生きてるから問題児扱いされるんだよ」

 眼鏡を押し上げながら博士が笑う。

 こいつはこうして笑っている時が一番怪しい。

 白衣、研究職、中身は不明。

 どう見ても裏で何かやっている側だ。

「……今ろくでもないこと考えたね?」

「言ってないだろ」

「顔に出てる」

「便利な能力だな」

「褒めてない」

 工具箱を担ぎ直す。

 視線の先には、さっき貼ったポスター。

 そこには大きく書かれていた。

『ナポリタン ~あの懐かしい味を完全再現~』

「で、結局これ何なんだ」

 博士は振り返った。

「ああ、それか」

 少しだけ嬉しそうな顔になる。

「昔の食べ物だよ」

「食べ物?」

「正確には、その味を再現した飲み物だけどね」

「なんでそんな回りくどいことしてるんだ」

「材料が残ってないからさ」

 博士は壁にもたれた。

「マガが溢れる前の時代には色々あったんだよ」

「五十年前の話だろ」

「そうなるね」

「じゃあ博士も知らないんじゃ」

「いや、知ってる」

「え?」

「食べたことあるから」

 思わず足を止めた。

「本当に?」

「失礼だなぁ」

「思ったより年寄りだった」

「それも失礼だなぁ」

 博士は笑う。

 だが、その笑い方が少しだけ懐かしそうに見えた。

「缶詰だったけどね」

「へぇ」

「美味しかったよ」

「その再現?」

「そのつもり」

「飲む気はないけどな」

「酷いな」

 文明が残したものは少ない。

 食料も、技術も、文化も。

 その大半が失われた。

 残ったのは基地と武器と、マガツキとの戦いだけだ。

 だから時々こういう馬鹿げた商品が流行る。失ったものを思い出したい人間は、案外多い。

 その時だった。

 耳元で電子音が鳴る。

 ピピッ。

 インカムだ。

「来たか」

 博士が小さく呟く。通信を開く。

『ハヤテ、緊急任務だ』

「どうぞ」

『第1部隊より救援要請。新人の研修中、大型種を確認。現在通信障害発生。詳細不明』

 大型。それだけで十分面倒だった。

『現地へ急行し、状況確認及び排除を行え』

「数は?」

『不明』

「種類は?」

『不明』

「最悪だな」

『動けるのは君だけだ』

 少しだけ沈黙する。

 別に驚かない。いつものことだった。

「また俺だけか」

『問題あるか?』

「ない」

 問題はない。

 最初からそういう仕事だ。

『旧メトロ。座標は送る』

「了解」

『健闘を祈る』

 通信が切れる。

 短く息を吐いた。

 地下、通信障害、大型種、新人部隊……ろくな予感がしない。

「いい顔だ」

 博士が笑った。

「修羅場の匂いがすると、いつもその顔になる」

「嬉しくない評価だな」

「そうかい?」

「慣れたやつから死ぬ」

「それは否定しない」

 博士は武器庫の方を指差した。

「準備はしておくよ」

「助かる」

「消耗品は?」

「多めで」

「了解」

 博士は笑う。

 その笑顔はどこか楽しそうだった。

「死なないでくれよ?」

「善処する」

「軽いなぁ」

「重く言っても結果は変わらない」

 ハヤテは走り出した。

 補給は自室で、武器庫から出撃ゲートは地味に距離がある。

 頭の中で最短経路を組み立てる。

 大型種相手に一人。

 正直、面倒だ。

 だが、それ以上に。まだ無事かも分からない新人達の方が気になった。

 舌打ちを一つ。

「生きてろよ」

 誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。

読んで下さりありがとございました。拙い文ではありますが、続けていくのでどうかよろしくお願いいたします!

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