表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
17/34

17話目

 会議を中断し、基地内を急ぎ移動する。その足取りは急ぎながらも僅かに重いと見える。

 未確認人型マガツキ。

 正式名称すら付いていない存在。

 だが、それが「居る」という事実だけで十分だった。

 会議室を出たあとも、各部隊の隊員たちは廊下のあちこちで小声のやり取りを続けている。

「……結局、実在確定か」

「レーダー外って何だよ」

「最悪すぎるだろ」

 不安と緊張。それを押し隠すような空気が基地全体に広がっていた。

 そんな中。

「で、俺は留守番?」

 司令室の端で、ハヤテが不満そうに言った。

 正面モニターには、これから出撃する第2部隊の情報が表示されている。

『偵察任務』

『旧南部市街地』

『通信異常区域確認』

 横ではミヤが慌ただしく端末を操作していた。

「留守番ではありません。観測支援です」

「同じようなもんだろ」

「違います!」

 即答だった。

「今回は現場情報の収集が最優先です。ハヤテさんは唯一、人型個体と近接交戦した人なんですから」

「だから休ませろって話にもなるんだけどなぁ」

「教官もシドウさんも同じこと言ってました」

「げぇ」

 思わず嫌そうな声が漏れる。その時、司令室の自動扉が開いた。

「準備完了だ」

 入ってきたのはカグラだった。既に戦闘装備を着込んでいる。腰の長刀。肩の追加装甲。無駄がない。

 その後ろには第2部隊の隊員たちもいる。重火器持ちに盾役、索敵担当。全員、練度が高い。

「おう」

 ハヤテが軽く手を上げる。

「死ぬなよ」

「誰に言ってる」

 カグラは淡々と返した。

「お前じゃあるまいし、そう簡単に無茶はせん」

「ひどくね?」

「事実だろ」

 周囲の隊員が苦笑する。

 第2部隊。北海道支部でも1目を置かれている部隊だ。

 特に隊長であるカグラは有名だった。真正面から大型を斬り伏せる近接特化。突破力だけならシドウに並ぶとも言われている。

 少なくとも、周囲はそう認識していた。

「カグラ隊長なら問題ないでしょ」

「ええ、むしろ一番安定してますし」

「第2が崩れる想像つかねぇよな」

 隊員たちの空気も比較的落ち着いている。だが。

「……」

 シドウだけは黙っていた。壁際で腕を組み、カグラを見ている。

 その視線に気づいたハヤテが眉を上げた。

「なんだよ」

「いや」

 シドウが短く答える。

「練度が高くともそれは前提があっての事だと思ってな」

 司令室の空気が少しだけ変わった。カグラが鼻を鳴らす。

「珍しいな。お前がそんなこと言うの」

「勘だ」

「信用ならん」

「だが当たる」

 それは否定できない。シドウは異常なほど生存勘が鋭い。ハヤテですら、それは認めていた。

「……まぁいい」

 カグラが踵を返す。

「行って帰るだけだ」

「フラグ立てんな」

「殺すぞ」

「ほらそれだよ」

 小さな笑いが漏れる。だが、それでも空気は軽くならなかった。

『第2部隊、搬送車接続完了しました』

 ミヤの声。

『出撃ルート開放します』

 司令室正面モニターに外壁ゲートの映像が映る。ゆっくり開いていく巨大隔壁。その向こうに広がるのは、灰色の廃墟だった。

 文明の死骸。そんな言葉がよく似合う景色。

「……行くぞ」

 カグラが歩き出す。第2部隊も続いた。

 やがて映像の中で搬送車が発進する。重々しい音を立てながら、基地の外へ。

 それを見送って。

「さて」

 ハヤテが司令卓へ近づいた。

「今回は後ろから見学させてもらうか」

「見学じゃありません」

「分かってる分かってる」

 適当に返しながらモニターへ目を向ける。

 複数のレーダー。

 地形マップ。

 熱源表示。

 戦場を俯瞰する情報の海。前線とは違う。だが、ここもまた戦場だった。

『現在、第2部隊は旧南部市街へ侵入』

 ミヤが状況を読み上げる。

『周辺反応、小型多数。中型反応は確認されません』

「静かすぎるな」

 シドウが低く呟いた。

「……ああ」

 ハヤテも同意する。前回と似ている。嫌な静けさだった。

 モニターの中で、第2部隊が慎重に廃墟を進んでいく。

 その動きは速い。無駄がない。やはり精鋭。

 ハヤテは素直にそう思った。だが同時に違和感を覚えた。

「カグラの動き、少し硬くないか?」

「分かるか」

 シドウが横目で見る。

「シドウに次ぐ実力者なら、もうワンテンポ早くても驚かん」

 映像の中のカグラは、いつも以上に周囲を警戒していた。

 視線。

 足運び。

 間合い。


 慎重すぎる。

 それだけ、あの人型を警戒しているということだ。

『前方反応!』

 ミヤの声が鋭くなる。

『中型反応三! 接近!』

 直後。モニター内の廃墟から、サルガミが飛び出した。

「来たか」

 カグラが長刀を抜く。一歩。踏み込み。銀線が走った。

 次の瞬間。先頭のサルガミの上半身が滑り落ちる。

「……速っ」

 思わずミヤが呟いた。

 だが終わらない。

 二体目。

 三体目。

 振り向きざま。一呼吸の間に首が飛ぶ。静かだった。暴力的なのに、妙に洗練されている。

「相変わらず強いわね」

 アヤメが呆れたように言う。だがシドウは首を横に振った。

「まだ硬い」

「え?」

「普段なら今ので終わってる」

 ハヤテも気づいていた。今のカグラは、“警戒しながら殺している”。

 本来の速度じゃない。その時だった。

『……っ!?』

 ミヤが息を呑む。

『レーダー反応あり!サルガミとイヌガミの混合集団が作戦エリアに侵入しました!』

そう言われ、レーダーに視線を落とすとハヤテが誰よりも早くその違和感を感じ取った。

「ミヤ!その群れの真ん中に変な空間がある!レーダーの消失反応はこんな感じか?」

『はい!おそらく人型と思われます!!』

 空気が凍った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ