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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
16/33

16話目

 会議室中央の端末へ、ミヤが慌てて資料を接続する。

 古いプロジェクターが低い駆動音を鳴らし、壁面へ複数の画像を投影した。

 崩れた高架。破損したレーダー記録。そして、途中で途切れた熱源反応。

「……改めて見ると酷いな」

 ナツメがぼそりと呟く。

 通常、マガツキ反応は大まかな位置くらいなら把握できる。

 大型なら尚更だ。だが今回の人型だけは違った。

 映る。消える。また現れる。

 しかもその間、周囲のマガツキだけが異常に活発に動いていた。

「まず現状確認だ」

 アオバ教官が壁際へ立つ。

「先日の合同任務中、未確認の人型マガツキを確認。特徴はレーダー妨害、極めて高い戦闘能力。これは憶測だが、周囲のマガツキへの影響はありだろう」

「影響ねぇ」

 レイナが足を組み替える。

「1匹のマガツキに複数のマガツキが着いて歩くなんて初めて聞いたわ」

「俺もだ」

 シドウが腕を組んだまま頷く。

「少なくとも偶発じゃない。明確にサルガミとイヌガミ、小型共は連れ立っていたな」

「根拠は?」

 カグラが低く問う。

「タイミングだ。どの種も同時に戦闘に関わりに来ていた」

 答えたのはハヤテだった。

「人型が出現して交戦した直後、中型が一直線に集まってきた」

「偶然って線は?」

「まぁ、薄いと思うよ」

 ナツメが端末を操作する。映像が切り替わる。

 高速道路周辺のマガツキ反応分布図だ。

「普通、マガツキは他種とは争う。まれに協力関係みたいに見えるのも、共生っていえばいいかな。そっちの方が強い」

 赤い反応群が表示される。

「だけど、今回は妙にまとまってる。少なくとも何かの影響はあるね」

「経立の影響ってのは?」

 レイナが言う。

「長く生きたマガツキが周囲を活性化させるのは今までもあったでしょ」

「活性化とは別だ」

 シドウが即座に返した。

「今までの経立は暴走に近かった。それぞれが勝手にやる気出したのが、今回は誕生日会に向かってやがる」

 沈黙。その空気を壊すように、博士が軽く手を挙げた。

「はいはい、そこで補足説明だ」

「嫌な予感しかしねぇ……」

 ハヤテが小さく呟く。博士は気にした様子もなく前へ出た。

「まず、経立について整理しようか」

 壁面へ新しい資料が映る。

 マガツキの模式図。そして、その横に変異した個体群。

「一般的に経立――ふだちやふったちと呼ばれているが、正式には“ふるだち”、学識名称は……省略しようか。要は長期間生存したマガツキの変異個体を指す」

「強くなるんだろ?」

「ざっくり言えばね。ただ正確には、“変質する”」

 博士が指を立てる。

「身体能力の向上。特性の強化。そして周囲マガツキへの影響力増大」

 画面上で赤い反応が広がる。

「経立級が長く留まった地域では、マガツキ発生率が増加する傾向がある」

「だから討伐優先度が高いのか」

「その通り」

 博士は満足げに頷いた。

「放置すると周辺一帯が“巣”になる可能性があるからね」

「で、今回のは?」

 カグラが鋭く問う。

「経立なのか?」

「分からない」

 博士は即答した。会議室に微妙な空気が流れる。

「分からんのかい」

「分からないとも。そもそも人型なんて前例がほぼ無い。それにハヤテくんが相打ちで討伐したライジュウの経立もいる。関連性は探っているところだね」

 博士が肩を竦める。

「その過程で調べたが、“知性を感じさせる行動”そのものは未確認報告が存在する」

 室内が静まる。ミヤが小さく息を呑むのが聞こえた。

「報告数は少ない。生還率も低い。だから正式記録から外されている」

「……隠蔽か?」

 カグラがぼそりと漏らす。博士は少しだけ笑った。

「さて、どうだろうね」

「笑えないねぇ」

 レイナが顔をしかめる。ハヤテは壁へ背を預けながら、博士を見ていた。この男、多分まだ何か隠している。だが、確証がない。

「ひとつ確認したい」

 カグラが口を開く。

「仮に知性があるとして、目的は何だ」

 その問いに、博士は少しだけ考える素振りを見せた。そして静かに言う。

「少なくとも、“人類殲滅”ではない」

「根拠は?」

「まだ大神が残っている」

 博士の声は淡々としていた。

「存在するマガツキが一斉に拠点を襲えば呆気なく滅ぶ人類はまだ生きている。人類の殺戮は本能には無いと言い切ってもいいだろう」

 誰も反論しない。それは、以前ハヤテも聞いた話だった。

「では何が目的なんだ?」

「分からない」

 またそれだ。だが博士は続ける。

「だから考えるんだよ」

 メガネの奥の目が細くなる。

「彼らがどこへ向かい、何を求めるのか」

「まるで人間観察だな」

「実際、研究とはそういうものさ」

 そう言って博士は笑った。

 だがその直後。会議室の警報灯が赤く点滅した。

『緊急警報。外縁区域にてマガツキ反応増加を確認』

 機械音声が響く。

『第三区画防壁付近にて交戦発生』

 室内の空気が一瞬で変わった。

「……タイミング最悪かよ」

 ハヤテが舌打ちする。シドウは既に立ち上がっていた。

「会議は一時中断だ」

 その目は、完全に戦場のものへ切り替わっていた。

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