15話目
会議室Bは、基地中央区画のさらに奥にあった。
元は倉庫か何かだったのだろう。
無骨な鉄壁。低い天井。剥き出しの配線。照明は薄暗く、空気には油と煙草の臭いが染み付いている。
「会議室っていうより取調室だよな……」
ハヤテがぼやきながら扉を開く。中には既に何人か集まっていた。
最初に目についたのはシドウだ。
壁際に腕を組んで立っている。相変わらず隙がない。
その近くではアヤメが椅子へ浅く腰掛け、端末を弄っていた。
「遅い」
「まだ集合時間前だろ」
「シドウ基準だと十分遅いわよ」
「理不尽」
軽口を返しながら室内を見回す。そして、見慣れない顔を見つけた。
「……お前が独立部隊か」
低い声。
テーブル奥に座る男がこちらを見ていた。
短く刈り込んだ灰色の髪。左頬を走る古傷。体格は大きくないが、空気が重い。
腰には長刀型の武器。
「第2部隊隊長、カグラだ」
「ハヤテ」
「知ってる」
ぶっきらぼうに返される。だが敵意というより、値踏みだ。
「単独行動でランク4。噂には聞いてる」
「悪評?」
「半々だな」
その隣で、小さく笑う女がいた。長い金髪を後ろで束ね、細身のライフルを椅子へ立てかけている。
「第3部隊副長、レイナ。よろしく」
「副長?」
「隊長が遠征帰りで寝込んでるのよ」
「おいおい。大丈夫かよ?笑えねぇな」
「この基地で笑えることなんて少ないわ」
妙に軽い口調だが、目だけが笑っていなかった。
ハヤテはなんとなく理解する。この女、多分かなり場数を踏んでいる。
さらに奥。窓際には、小柄な男がひとり立っていた。黒い外套。猫背。耳には通信機器がいくつも付いている。
「同じく第3部隊、ナツメ」
短くそれだけ名乗った。
「索敵担当だ」
「へぇ」
視線だけ向けてくる。鋭い。
戦闘狂というより、生存特化型。そういう雰囲気だった。
「これで全部か?」
「いや」
シドウが口を開く。
「俺の副隊長と第2の副隊長がまだだ。まぁ、来るか分からんが」
大神北海道支部には、正式な戦闘部隊が四つ存在する。
第1から第3までが通常部隊。
そして第4――独立行動班。
あとは各地域に派遣されているハンターが補給に戻ってきており、その都度で編成を変える。
独立行動班は人数だけ見れば、ハヤテひとりしか所属していない。その代わり、権限が異常だった。
単独出撃。現場判断で限定的な命令権。
普通なら隊長クラスが持つ権限を、一兵士が持っている。
だからこそ、他部隊からは扱いづらがられていた。
「改めて見ると異様ね」
アヤメが呟く。
「一人で部隊扱いって」
「俺もそう思うよ。せめて部隊って名前はどうにかなんねぇかな。1人だぜ?」
「問題はそこじゃないが、支部長案件だからな」
シドウが肩を竦めた。
「上が便利に使いたがってる」
「人を何だと思ってんだ」
「便利な駒」
「否定しろよそこは」
その時、扉が再び開く。
「失礼します!」
勢いよく入ってきたのはミヤだった。胸へ資料端末を抱え、慌てた様子で頭を下げる。
「オペレーター資料、持ってきました!」
「お疲れ」
「は、はい!」
まだ緊張しているらしい。会議室の空気に飲まれているのが分かる。
各部隊の実力者が揃っているのだ。新人からすれば胃が痛い空間だろう。
「ミヤちゃんだっけ?」
レイナが柔らかく笑う。
「昨日の新人オペレーター」
「え、あ、はい」
「良かったら今度ウチ来ない? 第二のオペレーターが辞めちゃってさ」
「引き抜きすんな」
シドウが即座に返す。
「まだ育成途中だ」
「冗談よ」
「目が本気だぞ」
そんなやり取りの中。ハヤテはふと気づく。誰も、“未知の人型”を軽く見ていない。
もちろん温度差はある。半信半疑の者もいるだろう。だが全員、空気が重い。
ベテランほど分かっているのだ。理解不能な敵が、どれだけ危険か。
「揃ったようだな」
低い声。会議室の空気が変わる。アオバ教官だった。その後ろには、白衣姿の博士もいる。
「うわ、出た」
レイナががつぶやく。
「第一声が酷くないかい?」
博士の返答を鼻で笑うようにカグラが続く。
「信用がないだけだ」
「悲しいねぇ」
博士はいつもの調子で笑う。
だが、目だけは笑っていなかった。アオバ教官が前へ立つ。
「これより、未確認人型マガツキに関する緊急会議を開始する」
静まり返る室内。
薄暗い照明の下で、全員の視線が前へ向いた。そして笑顔で手招きをする博士を見て、ハヤテは嫌な予感がさらに強くなるのを感じていた。




