表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
14/33

14話目

 翌日。基地内ラウンジは、朝だというのに妙に薄暗かった。

 照明は半分しか点いていない。残りは電力節約か、それとも単純に壊れているのか。どちらにせよ、今さら誰も気にしない。

 ハヤテは壁際のソファへ深く座り、紙コップのコーヒーもどきを口へ運んだ。

「……薄い」

 味がしない。いや、苦味だけは妙に残る。たぶん豆じゃない何かが混ざっている。それでも温かいだけマシだ。

 ラウンジには数人のハンターがいた。

 装備を整備している者。仮眠を取っている者。壁へ背を預けたまま、ぼんやり天井を見ている者。

 全員、疲れた顔をしている。誰も大声では喋らない。無駄に騒ぐ元気もないのだろう。

「……別の目的、ねぇ」

 昨日の博士の言葉を思い出す。

 ――人を襲うことが目的なら、人類はもっと前に滅んでいる。

 確かに、その通りだった。各地の結界都市は今も残っている。もちろん安全ではない。外へ出れば死ぬ可能性の方が高い。

 だが、それでも“絶滅”はしていない。

 もしマガツキが本気で人類を滅ぼすだけの存在なら。大神の本拠地が今も残っている理由はなんだろうか。

「考えるだけ無駄か……」

 呟きながら、コップを揺らす。結局、分からないことばかりだ。

 マガツキはどこから来たのか。なぜ発生するのか。何を目的に動いているのか。

 博士は“感情説”をあまり信じていなかった。

 一般には、人の負の感情がマガを発生させると言われている。

 恐怖、怒り、憎悪。

 それらが積み重なってマガとなり、マガツキを生む。

 だが博士は、あれは後付けの理論だと言っていた。観測結果に理由を当てはめただけの、説明のための説明。

『だって感情が原因なら、もっと昔に世界は壊れていたはずだろう?』

 昨日の声が頭に蘇る。

『人類は昔から争っている。戦争も差別も飢餓もあった。それなのに、なぜ五十年前に突然こんなことになったのか』

「……まぁ、言いたいことは分かる。感情が影響したとしてもきっかけは別にある」

 ハヤテは小さく息を吐いた。

 だが、じゃあ何が原因なのかと聞かれても答えはない。

 結局、自分ではたどり着けない答えだ。

 ラウンジの入口が開く。視線を向けると、アヤメが片手を上げながら入ってきた。

「よ。生きてる?」

「昨日の今日だぞ」

「よかった。無理やり出撃してなくて」

 相変わらずの軽口だ。アヤメは自販機の前へ立ち、しばらく悩んだあと炭酸飲料を取り出した。

「シドウは?」

「朝から訓練場。新人泣かせてるんじゃない?」

「容易に想像できるな……」

 シドウは強い。単純な戦闘力もそうだが、何より戦場の整理が上手い。

 昨日のウシオニ戦でもそれを痛感した。自分は目の前の敵を捌くので精一杯だった。

 だがシドウは、周囲のマガツキの数、位置、危険度を全部処理しながら動いていた。

 だから隊長なのだろう。

「なんか悔しそうね」

「そりゃまぁ」

「でもハヤテはハヤテで異常だから安心しなさい」

「慰めになってねぇよ」

 アヤメが肩を竦める。

「普通、ウシオニ相手に時間稼ぎしながら“倒す算段”考えないのよ」

「考えるだけなら自由だろ」

「それを実行まで持っていけるだけ普通じゃないのよ」

 呆れたように言われ、ハヤテは苦笑した。その時。

 ラウンジ奥で小さな歓声が上がる。

 視線を向けると、若いハンター数人が何かを囲んでいた。

 中心にいたのは、ミヤだった。

「あ」

 ミヤがこちらへ気付き、少し慌てたように頭を下げる。

 新人オペレーターという立場もあってか、最近はよく話しかけられているらしい。

 昨日の件もあるのだろう。

 レーダー外個体との遭遇。その状況で最後まで通信支援を続けた新人。

 基地内では、既に少し話題になっていた。

「人気者じゃない」

「勘弁してやれ。今いっぱいいっぱいだろ」

「優しい」

「何もしてないだろ」

「そこ自覚ないの面倒なのよね」

 アヤメが炭酸を飲む。その時だった。ラウンジの自動扉が開く。

 一瞬だけ空気が変わった。

「……2人揃っていたか」

 アオバ教官だった。

 いつもの軍服姿。無駄のない足取りでラウンジへ入ってくる。

 周囲のハンターたちが自然と姿勢を正した。

「ハヤテ、アヤメ」

「はいよ」

「ん」

 アオバ教官はふたりの前まで来ると、短く告げる。

「一時間後、会議室Bに集合だ」

「会議?」

「今回の件についてだ」

 声が低い。

 いつもの淡々とした口調だが、その奥に僅かな緊張が混じっていた。

「支部長判断で、各部隊リーダー級を集める」

「……マジか」

 ハヤテが眉をひそめる。

 それなりに大きな任務失敗や、経立級討伐の後でも、ここまで大規模な会議は滅多に開かれない。

 つまり、それだけ重く見られているということだ。

「未知の人型マガツキについて、か」

「ああ」

 アオバ教官が頷く。

「情報共有と、今後の方針決定を行う」

 短い沈黙。ラウンジの空気が、少しだけ張り詰めた。

「……嫌な予感しかしねぇな」

「奇遇だな。私もだ」

 珍しく、アオバ教官がそう返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ