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裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
18/34

18話目

『第2部隊、交戦中!』

 司令室へミヤの声が響く。

 正面モニターには、崩れた旧市街の映像が映し出されていた。

 サルガミ。イヌガミ。

 中型反応が次々と現れ、第2部隊へ殺到している。その中心で、カグラが長刀を振るっていた。

「チッ……!」

 一閃。飛び込んできたイヌガミの首が飛ぶ。返す刃で背後のサルガミを切断。

 強い。間違いなく強い。だが、1人が強いだけでは人型には勝てない。

「隊長! 左!」

「分かってる!」

 マガツキが殺到してできる死角をしっかりとついてくる。野生動物の習性と言われればそれまでの行いも違和感が拭えない。

 戦場そのものが、第2部隊を削るように動いているように見える。そこにオペレーターとしてハヤテが叫ぶ。

『右後方だ!不自然にマガツキがいねぇ!』

「なに……!」

 カグラが舌打ちする。次の瞬間。隊員の一人が突然吹き飛んだ。

「ガッ……!?」

 何もない空間から、白線だけの腕が現れる。人型。

「そこかァッ!!」

 カグラが踏み込む。長刀が唸る。だが。

「……なに?」

 斬れない。いや、“居ない”。白い輪郭が霞むように消え、別方向から鉄骨が飛来した。

「ッ!」

 轟音を鳴らし崩れる建物を避け、隊員たちが散開する。

『崩落です! 上層部崩れます!』

 ミヤが叫ぶ。

『カグラ隊、後退してください!』

「させるか!」

 カグラが瓦礫を斬り飛ばすだがその隙に、サルガミが隊員へ飛びかかった。

「ぐぁっ!?」

「クソッ!」

 完全に崩され始めていた。司令室の空気が張り詰める。

「何よこれ」

 レイナがポツリと呟いた。

「……やっぱりだ」

 今度はハヤテが低く呟く。

「あいつ、前よりより効率的にこっち削って来てる」

 シドウが黙って映像を見る。人型は真正面から戦わない。

 正面はマガツキの物量で任せ、自分はあっちこっちへ姿を消しては致命的な位置を見ている。第2部隊の動きを完全に見ながら崩している。

『負傷者二名!』

『後衛が孤立しています!』

「クソが……」

 シドウが立ち上がった。大剣を手に取る。

「俺が行く」

 その瞬間。

「待て」

 ハヤテが止めた。シドウが振り返る。

「何だ」

「あんたじゃダメだ」

 司令室の空気が止まった。アヤメが目を見開く。

「おいハヤテ」

「いや、違う」

 ハヤテがモニターを指差す。

「あれが学習してるとして」

 映像の中。人型は、カグラ隊の連携を見ながら動いていた。

「より強力な奴を見ればどうする?逃げるか、対策してくる」

「……」

「だからシドウは出しちゃダメだ」

 ハヤテは続ける。

「今のあんた、北海道支部の切り札だろ」

「買い被りだ」

「違うね」

 即答だった。

「少なくとも周囲はそう思ってる。だからダメだ」

 ハヤテが視線を細める。

「あいつが学習するなら、“シドウの倒し方”を覚えられるのが一番まずい」

 静寂。誰もすぐには口を開かなかった。その考えに至っていなかった。

「じゃあ、もしあんたの戦い方を解析されたら?」

 レイナが問いかけた。

「困ることないだろ。俺はシドウが居る」

「……」

 周りの無言を無視してハヤテが続ける。

「冗談じゃ済まねぇだろ」

 シドウほどの存在が対策される。それはつまり、拠点最大戦力の攻略法を敵が得るということだ。

 アヤメが小さく息を呑んだ。

「……だから、ハヤテが行くの?」

「ああ」

 ハヤテが肩を鳴らす。

「俺なら既に見られてる。別に問題ない」

「問題しかないでしょ」

「独立部隊は替えが効く。戦い方なんてやる度に変えてやりゃ問題ない」

「その理論嫌いなのよ私は」

 だがハヤテは笑う。

「それに」

 少しだけ目を細めた。

「何も対策するのはあいつだけじゃない。それにあの人型俺の分析が終わってないらしいからな」

 初戦。あの人型は、ハヤテを殺し切れなかった。読み切れていなかった。その証拠に打ち合った後に首を傾げていた。

「未知同士なら、まだこっちが有利だ」

 シドウが黙ってハヤテを見る。数秒。やがて小さく息を吐いた。

「……行け」

「了解」

「ただし」

 シドウの目が鋭くなる。

「絶対に深追いするな」

「善処」

「返事」

「はい」

 即答。その横でアヤメが立ち上がった。

「じゃ、私も行く」

「戦闘はするな。負傷者の回収だけだ」

「なんでよ?!」

「言っただろ、相手に手札を見せたくない」

「私も接触している。今更よ」

 ワイヤー銃を肩へ担ぐ。

「遠距離支援なしで行かせたら、流石に寝覚め悪いわ」

「……仕方ない、か」

『搬送車、緊急出撃準備!』

 ミヤが端末を操作する。その声は震えていた。だが手は止まらない。

『進行ルート再計算! 第2部隊との合流予測二分!』

「ミヤ」

『は、はい!』

「お前が目だ。頼む」

 一瞬。通信越しに息を呑む気配。それから。

『……了解です!』

 搬送車のエンジンが起動する。重低音。開き始めるゲート。

 ハヤテは新しい双剣を腰へ固定しながら、静かに外を見た。

 灰色の空。崩れた街。

「……多分、昔からこうやってやられた奴がいるんだろうな」

「縁起でもないこと言わないで」

 アヤメが呆れたように返す。

 だがハヤテの視線は、ずっと外を向いたままだった。

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