18話目
『第2部隊、交戦中!』
司令室へミヤの声が響く。
正面モニターには、崩れた旧市街の映像が映し出されていた。
サルガミ。イヌガミ。
中型反応が次々と現れ、第2部隊へ殺到している。その中心で、カグラが長刀を振るっていた。
「チッ……!」
一閃。飛び込んできたイヌガミの首が飛ぶ。返す刃で背後のサルガミを切断。
強い。間違いなく強い。だが、1人が強いだけでは人型には勝てない。
「隊長! 左!」
「分かってる!」
マガツキが殺到してできる死角をしっかりとついてくる。野生動物の習性と言われればそれまでの行いも違和感が拭えない。
戦場そのものが、第2部隊を削るように動いているように見える。そこにオペレーターとしてハヤテが叫ぶ。
『右後方だ!不自然にマガツキがいねぇ!』
「なに……!」
カグラが舌打ちする。次の瞬間。隊員の一人が突然吹き飛んだ。
「ガッ……!?」
何もない空間から、白線だけの腕が現れる。人型。
「そこかァッ!!」
カグラが踏み込む。長刀が唸る。だが。
「……なに?」
斬れない。いや、“居ない”。白い輪郭が霞むように消え、別方向から鉄骨が飛来した。
「ッ!」
轟音を鳴らし崩れる建物を避け、隊員たちが散開する。
『崩落です! 上層部崩れます!』
ミヤが叫ぶ。
『カグラ隊、後退してください!』
「させるか!」
カグラが瓦礫を斬り飛ばすだがその隙に、サルガミが隊員へ飛びかかった。
「ぐぁっ!?」
「クソッ!」
完全に崩され始めていた。司令室の空気が張り詰める。
「何よこれ」
レイナがポツリと呟いた。
「……やっぱりだ」
今度はハヤテが低く呟く。
「あいつ、前よりより効率的にこっち削って来てる」
シドウが黙って映像を見る。人型は真正面から戦わない。
正面はマガツキの物量で任せ、自分はあっちこっちへ姿を消しては致命的な位置を見ている。第2部隊の動きを完全に見ながら崩している。
『負傷者二名!』
『後衛が孤立しています!』
「クソが……」
シドウが立ち上がった。大剣を手に取る。
「俺が行く」
その瞬間。
「待て」
ハヤテが止めた。シドウが振り返る。
「何だ」
「あんたじゃダメだ」
司令室の空気が止まった。アヤメが目を見開く。
「おいハヤテ」
「いや、違う」
ハヤテがモニターを指差す。
「あれが学習してるとして」
映像の中。人型は、カグラ隊の連携を見ながら動いていた。
「より強力な奴を見ればどうする?逃げるか、対策してくる」
「……」
「だからシドウは出しちゃダメだ」
ハヤテは続ける。
「今のあんた、北海道支部の切り札だろ」
「買い被りだ」
「違うね」
即答だった。
「少なくとも周囲はそう思ってる。だからダメだ」
ハヤテが視線を細める。
「あいつが学習するなら、“シドウの倒し方”を覚えられるのが一番まずい」
静寂。誰もすぐには口を開かなかった。その考えに至っていなかった。
「じゃあ、もしあんたの戦い方を解析されたら?」
レイナが問いかけた。
「困ることないだろ。俺はシドウが居る」
「……」
周りの無言を無視してハヤテが続ける。
「冗談じゃ済まねぇだろ」
シドウほどの存在が対策される。それはつまり、拠点最大戦力の攻略法を敵が得るということだ。
アヤメが小さく息を呑んだ。
「……だから、ハヤテが行くの?」
「ああ」
ハヤテが肩を鳴らす。
「俺なら既に見られてる。別に問題ない」
「問題しかないでしょ」
「独立部隊は替えが効く。戦い方なんてやる度に変えてやりゃ問題ない」
「その理論嫌いなのよ私は」
だがハヤテは笑う。
「それに」
少しだけ目を細めた。
「何も対策するのはあいつだけじゃない。それにあの人型俺の分析が終わってないらしいからな」
初戦。あの人型は、ハヤテを殺し切れなかった。読み切れていなかった。その証拠に打ち合った後に首を傾げていた。
「未知同士なら、まだこっちが有利だ」
シドウが黙ってハヤテを見る。数秒。やがて小さく息を吐いた。
「……行け」
「了解」
「ただし」
シドウの目が鋭くなる。
「絶対に深追いするな」
「善処」
「返事」
「はい」
即答。その横でアヤメが立ち上がった。
「じゃ、私も行く」
「戦闘はするな。負傷者の回収だけだ」
「なんでよ?!」
「言っただろ、相手に手札を見せたくない」
「私も接触している。今更よ」
ワイヤー銃を肩へ担ぐ。
「遠距離支援なしで行かせたら、流石に寝覚め悪いわ」
「……仕方ない、か」
『搬送車、緊急出撃準備!』
ミヤが端末を操作する。その声は震えていた。だが手は止まらない。
『進行ルート再計算! 第2部隊との合流予測二分!』
「ミヤ」
『は、はい!』
「お前が目だ。頼む」
一瞬。通信越しに息を呑む気配。それから。
『……了解です!』
搬送車のエンジンが起動する。重低音。開き始めるゲート。
ハヤテは新しい双剣を腰へ固定しながら、静かに外を見た。
灰色の空。崩れた街。
「……多分、昔からこうやってやられた奴がいるんだろうな」
「縁起でもないこと言わないで」
アヤメが呆れたように返す。
だがハヤテの視線は、ずっと外を向いたままだった。




