12話目
ウシオニの吐息だけで空気が揺れていた。
「行くぞ」
シドウが大剣を担いだまま降り立つ。その視線は既に周囲へ向いていた。瓦礫の隙間。崩れた建物。
そこから次々と現れるイヌガミとサルガミ。数が多い。
『周辺反応増加! !』
ミヤの声が響く。シドウは舌打ちした。
「時間をかければ離脱が難しくなる」
「……だな」
ウシオ二を討伐し、周囲のマガツを散らしたら即退散。ここにさっきの人型が乱入したら誰かしらが死ぬことは必然だろう。何よりも速さを優先すべきだ。
「さっきの指示通り、ハヤテがウシオ二。雑魚は俺が蹴散らす。アヤメは援護を」
「「了解!」」
ウシオニが咆哮した。空気が震える。同時に周囲のマガツが一斉に動き出した。
「行くぞ!」
地面を蹴る。ハヤテは真正面からウシオニへ突っ込んだ。
「グォォォォッ!!」
巨大な前脚が振り下ろされる。図体に反して速すぎる。
「ッ!」
横へ飛ぶ。直後、地面が爆ぜた。砕けたアスファルトが頬を掠める。
「そうそう、この見た目でこれが正常な重さっ……!」
まともに受ければ終わる。まともに打ち合えばだが。
「おら、どうした!」
踏み込み。右の剣で前脚を斬りつける。深くは通らない。硬いのは皮膚ではなく筋肉。
それでもウシオニの視線がこちらへ向く。
それで十分だ。注意をこちらに向けるのが仕事。
「邪魔だ」
背後でシドウが動いていた。大剣が横薙ぎに振るわれる。一閃。飛びかかってきたイヌガミがまとめて吹き飛んだ。
「ガァッ――」
二撃目。今度はサルガミの胴が斜めに滑る。速い。というより、無駄がない。
最短距離で殺している。
『すご……』
ミヤが思わず声を漏らした。
『反応が……一気に……』
「見惚れてる場合じゃないわよ!」
アヤメが叫ぶ。ワイヤー弾が飛ぶ。
死角から迫っていたサルガミの動きを強引に逸らした。
「流石だ」
ハヤテが小さく呟き。ウシオ二の足元へ低く滑り込み、腹の下へと潜り込む。
「ガラ空きだ」
背中よりもやわらかそうな肉を無差別に切り裂き、そのまま尻尾の方へ通り抜けようとする。
その直後。ウシオニの腹が落ちてきた。
「よっと!」
あと少し遅ければ押しつぶされていただろう。だが、その程度なら自分でも読める。だが、ウシオ二の無理な体勢から繰り出された後ろ足の蹴りが迫った。
「っな?!」
咄嗟に剣をクロス。衝撃。体が吹き飛ぶ。
「ハヤテ!」
「平気だ!」
瓦礫へ叩きつけられながらも立ち上がる。腕が痺れていた。
力が入っていたないだろう攻撃でも重い。
「でも、さっきの人型ほどじゃない」
口端が吊り上がる。ウシオニが再び突進してくる。
真正面。普通なら逃げる。だがハヤテは踏み込んだ。左。右。紙一重で躱す。そして脚へ連撃を叩き込む。
「硬っ……!」
浅い。だが確実に削れている。時間をかければ倒せる。でも、それでは足りない。己の火力の無さに歯がゆさを感じているときだった。
「伏せろ」
低い声。直後。ハヤテの頭上を巨大な影が通過した。シドウの大剣だ。
回転しながら飛来したそれが、横から飛び込んできた中型マガツごと、ウシオ二をまとめて吹き飛ばした。
「おいおい!」
「集中しろ」
既にシドウ本人が走ってきていた。周囲を見る。
さっきまで居たイヌガミとサルガミが、ほとんど転がっていた。
「……早すぎだろ」
「お前も出来るだろう?」
「無理だけど?!」
軽口。だがハヤテは理解していた。シドウが雑魚を1匹たりともこちらへ漏らさなかったこと。
大型戦で怖いのは横槍だ。だから先に盤面を整理した。しかも短時間で。その手腕には舌を巻く。
「ハヤテ!」
アヤメの声。同時にワイヤー弾。ウシオニの角へ絡みつく。
「右!」
「了解!」
振り向きざまに迫っていた頭突きを回避。そこへシドウが踏み込む。
大剣が振り下ろされた。轟音。ウシオニの角が片方砕け散る。
「グォォォォッ!!」
絶叫。だがシドウは追撃しない。
すぐ下がる。その動きを見て、アヤメが小さく息を吐いた。
「……やっぱ違う」
「何が?」
ハヤテが問う。
「ハヤテは反応で戦ってる」
アヤメが狙撃位置を変えながら言う。
「シドウは、戦場そのものを整理してる」
その意味が、今なら分かった。どこが危険か。何を先に潰すべきか。誰が動きやすい位置か。全部見えている。
『大型反応、エネルギー上昇!』
ミヤが叫ぶ。
『熱量急上昇です!』
「来るぞ!」
ウシオニの喉が赤熱する。ブレス。だが。
「遅ぇ」
シドウが前へ出た。真正面。普通なら自殺行為。しかし次の瞬間、大剣が下から振り上げられる。
赤熱した下顎へ直撃。衝撃で熱が暴発した。
「今だ!」
「ッ!」
ハヤテが飛ぶ。崩れた体勢。露出した首元。そこへ双剣を突き立てた。
「ォォォォォ――ッ!!」
絶叫。そのまま首筋を斬り裂く。血飛沫。巨体が傾いた。
最後にシドウの大剣が振り下ろされる。
一撃。ウシオニの首が、完全に落ちた。




