表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裂界の帰還者  作者: 霞山 大和
遭遇偏
10/33

10話目

 静まり返った旧市街に、風だけが吹き抜ける。

 逃げるように去っていったサルガミの気配は、もう遠い。

 ハヤテは双剣を下ろしながら、消えていった高架の奥を睨んでいた。

「……なんなんだよ、あれ」

『周辺反応、減少しています』

 ミヤの声がインカムから響く。

『大型反応なし。人型個体も追跡できません』

「レーダーに映らねぇ時点で追跡もクソもないか」

 アヤメが高所から降りてくる。

 その表情は珍しく硬い。

「見たことないわよ、あんなの」

「俺もだ」

 そう答えたのはシドウだった。

 大剣を肩へ担ぎ、奥へ視線を向けたまま口を開く。

「だが、追う」

「は?」

 ハヤテが顔をしかめる。

「正気か? 何かも分かってねぇんだぞ」

「だからだ」

 シドウは短く返した。

「今回狙われたのがお前だったから良かった」

「……」

「アヤメなら初撃で終わってた可能性がある」

「ちょっと、それは聞き捨てならないんだけど」

「事実だ。お前は強いが近接対応向きじゃねぇ」

 アヤメが不満そうに顔を歪めるが、反論はしない。

 シドウは続ける。

「他のハンターならもっと危ねぇ。新人連れた部隊だったら壊滅しててもおかしくない」

 その言葉に、ハヤテは口を閉ざした。実際、初撃は見えてすらいなかった。

 あれがこのメンツ以外なら。対応可能なものでもここまでバランスの取れた部隊編成も稀だ。後は想像したくもない。

「……だから今のうちに情報を取るって?」

「そうだ」

 シドウが前を向く。

「殺せるなら殺す。無理でも特徴は掴む」

『で、ですが……』

 ミヤが不安そうに割り込んできた。

『未知の敵ですよ? 危険すぎます』

「だから少人数で動く」

「捨て駒なら、俺が最適だな。部隊再編成の手間がない」

「バカ言うな。命令しといて死なせるヘマはしない」

「それをさせないのが私、後衛の仕事よ」

 間違ってはいない。リスクを取らなければ、リターンは無い。取れるリスクの最小値に近いのは確かだ。

 ハヤテは小さく舌打ちすると、双剣を担ぎ直した。

「……先行する」

「無茶はするな」

「お前が言うな」

 軽口を叩きながら、崩れた高架下へ足を踏み入れる。薄暗い。

 昼間だというのに、瓦礫と影のせいで妙に視界が悪かった。

『進行方向三百メートル先に中型反応』

「数は?」

『四です』

「普通だな」

 ハヤテが歩調を速める。だが途中で、ふと足を止めた。

「……なぁ」

「どうした?」

「静かすぎないか?」

 普通なら、マガツキはもっと騒がしい。

 唸り声。足音。争う音。だが今は、妙に静かだった。シドウも周囲を見回す。

「確かにな」

『……あ』

 ミヤが小さく声を漏らす。

『反応、動いてます』

「こっちか?」

『いえ……バラバラに散っています』

「逃げてる?」

 アヤメが眉を寄せた。

「マガツキが?」

 ありえない。マガツキは基本的に人を見れば襲う。それなのに。

「まさか、な」

「……気味悪ぃな」

 その直後。瓦礫の影から犬型マガツキが飛び出した。

「ガァッ!」

「っと!イヌガミか!」

 ハヤテが右の剣で牙を受け流し、首元へ刃を滑らせる。一撃。血飛沫を撒き散らして倒れる。続けて二体。サルガミが左右から飛び込んできた。

「遅ぇ!」

 左を蹴り飛ばし、右を斬る。このまま押し切れると予感した時。

「ハヤテ、後ろだ!」

「っ!」

 反射的に身を捻る。直後、瓦礫が弾け飛んだ。

 さっきまで頭があった位置を鉄骨が貫いている。

「なんだってんだ?!」

 自然崩落にしてはタイミングが出来すぎだ。だが、疑うにしては偶然と処理できてしまう。

「今の……」

 アヤメが高所から周囲を見回す。

「シドウ、ハヤテ、上!」

 崩れたビルの中層。

 一瞬だけ、白い線が見えた。

「いた!」

 ハヤテが駆け出す。だがその瞬間、地面が揺れ始めシドウが叫ぶ。

「全員下がれ!」

 咄嗟にビルから離れるように後方に飛んだ。すると、突如ビルの外壁が崩れた。

「チッ!」

 瓦礫が一気に降り注ぐ。シドウが前へ出た。

「退避しろ!」

 大剣が振るわれる。衝撃で瓦礫の軌道が逸れる。だが、完全には防ぎきれない。

「くそっ!」

 ハヤテが瓦礫を蹴り飛ばしながら後退する。

『周囲反応増加!』

 ミヤの声が響いた。

『中型反応多数!こちらへ向かっています!その中で大型の反応を確認!』

「上で大型が暴れたか」

 シドウが舌打ちする。遠くでマガツキの咆哮が重なった。

 明らかに多い。しかも一直線にこちらへ向かっている。

「……なんなのよ、もう」

 アヤメが低く呟く。ハヤテも同じ結論に至っていた。偶然にしては出来すぎている。追おうとした瞬間に崩落。その直後に大量接近。まるで。

「意図的?」

 その言葉に、誰もすぐ返事をしなかった。嫌な沈黙。やがてシドウが大きく息を吐く。

「……撤退だ」

「いいのか?」

「これ以上は情報を持ち帰れなくなる可能性が高い」

 シドウが高架の奥を睨む。

「然るべき準備が必要だ。精鋭もな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ