第8話 タンジル・モクルール神聖枢機卿
魚尾種において神聖枢機卿とはルール階級の中でも最高位の聖職者として絶大な宗教的・政治的権威を持つ
ササーン神聖帝国において神聖枢機卿は皇帝に助言する立場でもある
タンジル・モクルール神聖枢機卿は公式には「宇宙数学の深淵を探る瞑想」のため、「深海聖域」へと潜行した彼女だが、その実態は、ササーン神聖帝国内の政治闘争から身を守るための隠遁だった。
彼女の不在に目をつけたバベル・エデンはタンジル・モクルール神聖枢機卿の名を使い辺境セクターでの影響力拡大を企む。
バベル・コロンブス設立と同時に進められたササーン神聖帝国背後地域の進出計画は順調に進んでいた。
行政官や造船コロニーの重鎮たちを「巡礼の宴」に招き、贅沢な賄賂や将来の約束と引き換えに新惑星開発計画への協力を取り付け、
同時に、下層階級に広まる「俗世主義運動」を利用し宗教権威に不満を抱く者たちを組織化していた。
深海聖域シリオスセクター、ライン宙域
水で満たされた宇宙ステーションの瞑想室で、タンジル・モクルール枢機卿は浮遊していた。
「求めるなら踏み出し手を取れ、弱気になるべきでないのじゃ」
自分自身に発破をかけるようパシャリと尾を振るう。水の中で完全に自由になれるのは魚尾種の特権だった。
波紋を立てずに呼吸する鰓、淡く青白い光を放つ薄い鱗、赤い法衣は儀式用ボックスに収められ、今の彼は原初の姿に戻っていた。
突然、警報が鳴り響いた。
「聖域防衛システム起動!!未確認船接近中。武装反応あり」
「警備隊長、報告せよ」
バイバルル護衛官の声が宙中通信を通じて響く。
「どうやら貨物船のようです、数は6隻」
「まったく人騒がせな、神域管理省の名で警告を出せ、それで反応した原因は?」
指示を出してオペレーターに警報の原因を確認する。
「どうやら武装してるようで、それにシステムが反応したんでしょう」
「海賊対策か、いい加減アップデートしなくてはな」
さらに警報が鳴り響く
「次は何だ?」
「バイバルル護衛官、貨物船団が方向転換、速度を上げて聖域外周を突破しました!通信を無視しています!」
バイバルル護衛官の鰓が緊張で震えた。
「対艦タレットを起動、12番と16番大型タレットは警告射撃!!」
バイバルル護衛官の命令に応じて、ステーションの大型タレットが作動した。
宇宙空間に青白い光線が走り、接近する貨物船団の前方を横切る。
「再度通信送れ、次は当てるとな」
「護衛官殿、貨物船が変形しています!」
通信士が緊張した声で報告する。
監視画面に映し出されたのは、外装パネルを脱ぎ捨てる貨物船の姿だった。
偽装が剥がれ落ち、その下からは艦船の格納庫が露出していた。
「空母改造型!?」
「前砲門砲撃開始、神聖戦闘機部隊に緊急発艦を指示しろ!!」
「バイバルル護衛官、敵艦から物体が放出されています!小型艦です...数が...」
モニターに映し出される光景に、ステーション防衛チーム全員が息を呑んだ。
6隻の偽装貨物船から、まるで産卵するかのように次々と小型艦が放出されていた。
「数えきれません!50...いや100機以上!」




