第6話 辺境の政図
第七螺旋セクター 行政宮殿、まだ発行珊瑚が水色に輝く時間
青い生体発光珊瑚が壁を覆う謁見室で、タンジル・モクルール神聖枢機卿を名乗るアンルール情報参謀が水槽型玉座に優雅にもたれていた。
堅苦しい礼服も、水槽型玉座に持たれてしまえば緩やかに広がり、礼服事態に寄りかかれて元の生活に戻れないなどどほざくほどには優雅に。
指先で触れるホログラム名簿が螺旋状に展開され、各名前から拡張されるデータウィンドウに赤い注釈が浮かび上がる。
「ザフラン・サフルル行政官殿」
彼女の尾鰭が水を掻くたび、玉座の水流生成機が微かに唸る。
「この方々を『巡礼の宴』にお招きしたいの。清める儀式にエネルギーセルが必要な様に、そのものらの働きが必要なのですわ」
肥満した魚尾種行政官が触手椅子で身を乗り出す。彼の鰓から漏れる気泡が、密かに設置された音声解析機に捕らえられる。
「おやおや、造船コロニー行政官のロレンス・アラビルルに方程式セクターの行政官スパイス・ガアルル、他にも神官の方に企業の重鎮……」ザフランの目が名簿をなぞる。
「枢機卿閣下は我が一族の幼子までご存知で?」
タンジルの第三の目が微かに脈動する。隠しカメラがザフランの生体コンピューターにアクセスし、暗号化された取引記録を解読していた。
「貴方には先に見せておくべきね、持って来なさい。」
手を鳴らし人を呼び、星図を持って来させる。
「入植可能な惑星のお告げを『宇宙数学の深淵を探る瞑想』中に見つけた、軌道上に『星界の神殿』を建設する。」
彼女の声が水槽内に共鳴する。
「新たな枢機卿を任じるので!?」
「逆転の一手としては十分じゃろ、しかしこの惑星の行政を任せられる者がおらんでな。」
「そこで我が一族の名が出て来たわけですな、貴き方々の望みは私にはわかりませんが全力を尽くしましょう。」
発光珊瑚が暗い青色になる頃、立食パーティーが開かれる。
水晶テーブルに並ぶ発光クラゲの料理を背景に、タンジルが神官たちを集めていた。
手にした情報端末が青白く輝き、内部の偽装回路が稼働する。
「この星図こそ、新たな聖域への通行証、入植惑星と『星界の神殿』の成果を掲げ本国議会に乗り込む予定じゃ、新たなセクターが開拓されれば新たな財が生まれる。そなたらなら有効に活用できるだろう。」
未来の星図情報を元に、小型の岩石惑星や小惑星群等の採掘地点を表示していく。
「では採掘権は私が……」
「ほう、建造はアラビルル殿の造船所で、しかし船体部品等足りない物があるでしょう、まとめ買いならお安くしますよ。」
「食料品であればうちの企業が……」
「入植船の設計はコンペですかな?」
無駄に豪華なパーティーが必要な理由がわかる気がする。あらかじめ調整してからでないと、決まる者も決まらない、特に歴史あり、利権ありの国家ならなおさらだろう。
発光珊瑚が紫色に輝くころ、暗号通信が届く。
《俗世主義者グループ接触完了、民衆の誘導を開始》
スラム地区 地下聖堂
崩れかけた小教会で、バベルの工作員が灰色の修道服をまとっていた。床に描かれた反体制派の暗号図形の上に、エネルギーセルを模した発光石を配置する。
「この石が示す星へ」工作員の声が震える。
「真の自由が待っている」
集まった俗世主義者たちの目が輝く。その中に混じった行政秘密警察の密偵が記録端末に触手を伸ばす刹那——天井から降り注いだ青い光が密偵を蒸発させた。
「危ない所でした、やはりこちらのセクターの行政官も秘密警察を用意するのですね。」
バベル側の工作員が、秘密結社側の人員を排除する形を取れた。
「我が秘密結社は神聖枢機卿のあるお方の手引きで、第七螺旋セクター にて植民コロニーの造船に漕ぎつけました。」
今回の目的は秘密結社として組織化されつつある俗世主義者グループ、これを利用してササーン神聖帝国の影響を受けていない民間人を選定する。
「しばらく建造で職が生まれます。貧しい者から順次送りなさい、植民コロニーの強奪と帝国の目の届かない植民可能惑星の剪定は済んでいます。捻じ曲げられた教義では無く、自由な探求の為に。」
「「自由の探求のために」」
実体はササーン神聖帝国に反感を持つ人間や裏組織が、大義を用意するために使われた俗世主義者たちは、元々が真理の探究を目指す知的エリートであったために既存の裏組織や陰謀論を飲み込み秘密結社化、ササーン神聖帝国を脅かすという訳だ。
「宗教に集団で挑むべき目標が出来ると強力な力を発揮する。自分らの惑星を手に入れるって言うのはちょうどいいってわけさ。」
そう笑う諜報員の定期報告を読んで掲示板でのお祭りかと納得する。
「レコンギスタとかの方が賢い例えだったかな?ともかく不穏分子の減った辺境は統治が楽になり、ササーン神聖帝国の寿命も延びるだろう。」
バベル要塞 発進ドック
「最終チェック完了、建設艦接続港から切り離します!!」
オーナーの眼前で、全長5キロの建設艦が青白く輝く。
周囲を取り巻く弩級戦艦の大型タレットは対重装甲プラズマに改装され、大型駆逐艦は対小型機仕様になっている。
「航路開拓艦隊、出撃用意!」
クロード艦隊長官の声と共に、バグズ領域の赤い宇宙がスクリーンに映し出される。
おどろおどろしい宙域を切り裂く様に進むのは——弩級戦艦2隻、大型駆逐艦3隻、そして我らの秘蔵である空母1隻、中央には建設艦、後方には武装貨物船40隻。
加えて中型、小型宇宙戦闘艦合わせて220隻が交代で警戒に当たり、いざという時は囮無人海賊船40隻がけん引する張りぼてバルーンが盾になる。




