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<第四十七話>再び幸せが訪れる時まで

 ホテルの厳しい経営状態が続く中、それでも悠馬が大切に守り続けていた事業があった。


 それは、父巌と共に企画していた芸術家とのタイアップ事業の継続であった。





『これからのホテルというものは、もう単なる宿泊施設としての役割だけの時代ではないと思う。



 心を豊かにしてくれる芸術というものは、ゆっくりと休暇を過ごしたいと思っている人々に必ず受け入れてもらえるはずだ。




 そして素晴らしい芸術がある場所というのは、そこが旅の目的地にもなる。


 そうすれば、宿泊客だけではなく観光として訪れる客も来るようになる。


 そして当然のようにホテルの食事だけの利用客だって増えていくんだ。




 これこそがこれからのホテルという場所での新しい余暇の過ごし方になっていくのだと思う。』




 そう生前の巌が熱く語っていた()()()()()()()()()姿()を悠馬も心から信じていたのである。




 

 それは今では()()()()()()()()()となって、二人を奮起させ続ける原動力となっていた。







 二人の努力は、少しずつではあったが、確実にその成果を上げ始めていた。



 毎年恒例となった秋の作品展と食事のコースメニューのコラボ企画は、ホテルの固定利用客を徐々に増加の方向へと転換させ始めたのである。




 その結果として、業績も徐々に回復し始めたのである。




 そして更に数年後には、業績の回復に伴って芸術家とのタイアップ企画を拡大させていく事も出来るようになっていた。




 こうして剣持系列のホテルを訪れると、芸術に触れ合う事が出来る空間があるという新たなホテルイメージの定着に、成功したのであった。








 そして悠馬と颯斗は、剣持ホテルのイメージの集大成として、芸術との複合施設の建築計画を立てた。




 その建設計画とは、ホテルと美術館、彫刻庭園がある広大なリゾート施設の構想だった。






 この計画が役員会議として社内で実際に検討され始めた頃、颯斗はまだ一職員として働いていて、その会議には出席していなかった。




 しかし会議室にこそいなかったが、この計画が悠馬とそして颯斗が共に懸命に考えたものであった事は、役員全員の周知の事実であった。






 そしていよいよホテルの計画が現実として動き出し始めた頃、颯斗は社内の執行役員全員からの推薦を受けて、副社長に就任したのであった。




 この人事は、颯斗自身がたとえ表舞台には出られなくても、ずっと惜しみない努力を続けていた事に対する、嬉しいご褒美となったのは、言うまでも無かった。




 


 その後のホテルの業績回復は、著しいV字回復ぶりで、以前よりも更に素晴らしい業績を生み出す様になっていた。




 剣持系列のホテルはアートホテルと呼ばれて、人々が訪れる旅行先としても度々紹介されるような観光施設になっていたのである。




 


 姫子と薫が一緒に訪れたホテルのグランドオープンセレモニーは、世間から注目を集めている施設として大々的に様々なメディアで紹介されていた。




 なぜなら、ホテルのオープン前から宿泊希望の予約者が多すぎて、予約を取る事が出来ないホテルとして紹介されてしまうような状況だったからである。




 






 ホテルのセレモニーが無事に終わり、ラウンジで姫子と薫は休憩をしていた。






「今日は遅い時間になってしまったから諦めますけれど、今度はぜひ家にも寄って行って下さいね。母や瑠璃が、姫子さんにとても会いたがっていました。






 姫子さんだから、正直にお話しますね。『今日のセレモニーには一緒に参加をしよう』と、私は今日のギリギリまで二人を誘っていたのです。




 でも、瑠璃が華やかな場所に自分が行くのはまだふさわしくないと言って、どうしても行こうとしなかったのです。




 そして結局、そんな瑠璃を一人には出来ないと言う母と一緒に、今日二人は、家で留守番をしているのです。






 母は『せめて私一人だけでも、兄達の努力の結晶であるホテルのオープンセレモニーに出席して、直接お祝いしてきて欲しい』と言いました。そして何より、姫子さんが一緒に来てくれることになりました。




 だから私は、今日のセレモニーに行く事が出来たんです。




 そうです。だからもしも姫子さんが一緒に行って下さらなかったら、私も二人と一緒に家にいたと思いますわ。」


 薫は、姫子にしみじみと今の自分の思いを話していた。








「私でも、薫さんのお役に立てる様な事があったのですね。


 薫さんがセレモニーに参加してくれた事を、お兄様たちがとても喜んで下さっていましたね。



 薫さん、あなたがセレモニーに参加したという事は、とても意味のある大切な事だったのですよ。


 気が付いていましたか?セレモニーの間、ずっと忙しく周囲のお世話になった方々に挨拶をして回っていたお二人が、薫さんの姿を見つけたら、スッとすぐに近くに来て下さいましたものね。




 お忙しいからあまり長くは話せませんでしたが、とても素晴らしい笑顔でした。薫さんの前にいる時は、優しいお兄さんの表情をされていましたよね。


 その笑顔を見れた事は、私も本当に良かったと思っていますよ。」


 姫子が飛びきり優しい笑顔で薫に答えていた。







「そんな・・・、『姫子さんでも役に立つことがある』だなんて…。






 姫子さんには、どんな言葉でも言い表すことが出来ない位の感謝の気持ちが、本当に沢山・沢山あるのですよ。








 早いものですよね。あの事件からもう十年が経ったのですね。








 私は、姫子さんから教わった『言葉にして大切な気持ちを伝える』ことの重要性を家族全員に話しました。姫子さんのように上手く伝えられたか自信はありませんが、私なりに精一杯説明をしたつもりです。






 そうして少しずつではありますが、今までよりも家族が意識して話し合い、気持ちを伝えていくようになっていきました。






 事件の後、本当に色々な事がありましたが、それも家族で相談しながら、なんとか乗り越えていけました。






 颯斗兄さんが家に残ってくれて、兄弟で懸命にホテルを守ってくれたのだってそうです。その事も、姫子さんのアドバイスがあったおかげだと私は思っているんです。








 それに感謝しているのは、それだけではありません。




 颯斗兄さんや瑠璃が今一緒に暮らしている事だって、姫子さんがあの時、事件をちゃんと調べて下さったおかげなんです。






 瑠璃の罪が、殺人ではなく、傷害致死になり、執行猶予まで付くようになったのは、姫子さんをはじめとした、事件を担当して下さった大野刑事や検事さん、裁判官の方々のおかげだと、私達家族は思っています。



 本当に様々な方々のおかげで、今の自分達があると、私達家族は感謝しながら毎日を過ごしているんですよ。」


 薫が姫子に心からの礼を伝えた。




「姫子さん。あのね、今からちょっとだけ内緒話をさせて下さい。




 あの事件の事でどうしようもなく大変だった時期には、どうしてお母さんは、スズランの花を庭に植えたりしたんだろう。



 あの花が庭になければ、事件が起きる事も無かったのに・・・と、亡くなった母の事を逆恨みしていた時期だってあったんですよ。」


 薫が姫子に、誰にも話せなかった辛かった日々の事を思い出して、そっと話してくれた。








「薫さん、本当にあなたはよく頑張りましたね。




 あなたのような心穏やかで優しい方がいた事は、ご家族の心の支えとなっていたと私は思っていますよ。




 そんな薫さんの内緒話には、私もあの事件の時に伝えられなかった話を言わせて下さい。








 スズランは、可愛らしい見た目とは裏腹に、確かに猛毒も持っています。



 でも、知っていましたか?


 スズランの花言葉は、その姿と同じように、『純粋・謙虚・再び幸せが訪れる』という清らかなものばかりなのですよ。






 お亡くなりになったお母様は、その花言葉のように清らかな気持ちで、ご家族の事を想って、庭に花を植えたことでしょう。



 そしてご両親は、その花言葉通り、純粋な気持ちでずっと家族を大切にしていました。


 この事は、当然今のお母さまである美和さんについても同じです。



 その事は、薫さんだってちゃんと気が付いていますよね。」



 姫子の言葉を、薫は深く頷きながら聞いていた。





「そして家族全員が、本当はそんな家族になりたいと思っていたはずなんです。



 事件の後もずっと家族で協力し、支え合ってきた剣持家の皆さん。



 それこそが、ご家族の絆の深さの証明なのではありませんか?








 とても大きな犠牲と長い時間はかかってしまいましたが、ようやくスズランの花言葉通り、家族全員に再び幸せが訪れたのではありませんか。



 今日、薫さん達三人にお会いして、一緒にお話をすることが出来て、私は心からそう思う事が出来ましたよ。



 薫さん、次の機会には、ぜひご自宅の方にお伺いさせていただきますね。


 家族全員に揃って会う事が出来るのを楽しみにしております。」


 姫子が笑顔で言った。




「ええ。私達も姫子さんに、全員で会えるのを楽しみにしています。



 今晩兄さん達が帰宅したら、さっそく次のお休みが二人一緒に取れる日を聞いて、姫子さんに連絡しますね。



 ふふふ、なんだかもうワクワクしてきちゃいました。


 家族全員が一緒に姫子さんと再会出来る日がついに来るのですものね。」



 瑠璃が自宅に戻って来て家族全員がようやく揃った剣持家に、姫子が訪れてくれる事を、薫が心から嬉しそうに答えていた。






<終わり>

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