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「……ガルパスおじさんは、あたしが今まで見た中で、一番バケモノに近い人だった。欲にまみれていて、その欲を満たすためなら、他者を痛めるつけることもいとわない。そんなおじさんでも、夜空に滲む星を、綺麗だと言った。この人は人間なんだって、その時思ったの」
おじさんの瞳が思い浮かぶ。うるおった清廉な瞳だった。彼は、自然の美しさに揺らされる心を持っている。それはきっと、人に宿る自然とのつながりなんだ。
「あたし、ガラクタになっちゃったのね。もう何も感じないの。でも、それを悲しいとも思わない。きっと、感情は人の本体だったのよ。だって……ねえ、あたしと人形って、なにが違う?」
リーススは何も言わず、ただあたしを抱きしめた。そうして抱きしめられていると、リーススの体温や、体の感触が伝わってきて、2人のあいだにある境界のようなものも感じることができた。
他者との境界があるということは、あたしは一つの生き物として成立しているのだと、リーススは無意識に伝えようとしているのかもしれない。
「レーニス、俺は天涯孤独の身で生きてきた。コルロルには話したけど、幼い頃母親に捨てられたんだ」
前を向いたまま、ライアンは静かに語りだす。あたしは彼の話に耳を傾けた。
「でも最近、その母親を見つけた。って言っても、別に探してたわけでもないんだけど。歳は食っていたが、一目で母親だと分かったよ。でも向こうは気づかなかった。視力を失っていたんだ。俺は彼女に近づき、接触をはかった。自分が息子だとは明かさずにね」
中年の女性に、ライアンが声をかける様子が頭に浮かぶ。目の見えない女性なら、杖をついているかもしれない。
「近づいたのは、ちょっとした興味からだったと思う。もうほとんど覚えてもいなかったから、俺の母親は、どんな人だったのかなっていう……。話をしているうちに、彼女が病気だと知った。高額な手術を受けなければ、もうすぐ死ぬんだそうだ。それを聞いたとき、俺の中にはあらゆる感情が駆け巡った。ものすごく……ものすごく複雑だった。母親に捨てられたせいで、俺は普通の生活ができなかったし、盗みを繰り返す日々にも、罪への罪悪感にも、うんざりしながら生きてきた。はっきり言って、自分は汚い存在だと思って生きてきた。そしてそれらの背徳感や苦しみは、すべて母親のせいだと思って生きてきた。病気で死ぬ? 自業自得、因果応報……あらゆる言葉や感情が俺の中に生まれたが、最後に辿りついたのは、母親に抱きしめられたときの匂いと、ぬくもりの記憶だった」
一呼吸分の間があり、ライアンは続ける。
「気が付くと俺は走っていた。金を集めるために……。その時気づいたんだ。俺は本当は、母親を憎んでいなかった。愛されたかっただけなんだって。そういうことも、あるんだよ。自分の感情は、あんがい自分では分からない。君は、コルロルを憎んでいた。でも、失われた感情は別の感情でおぎなわれるとも言っていた。その失われた感情がなんだったのか、君は知る必要がある。 レーニス、真実を見極めるんだ」
気が付くとリーススは泣いていて、銃弾は止んでいた。
顔を上げることができた。あたしはコルロルを探した。やつは複葉機の翼につかまり、兵士からライフルを奪い取ったところだった。しかしそこを、軍のゴンドラから突き出した速射砲が狙い撃つ。
コルロルの硬い皮膚は、もう脆くなっているのだろう。まるで人間が撃たれたときと同じだ。皮が破れて血が噴き出す。
コルロルは複葉機に爪を引っかけて体を支えているが、今にも落ちてしまいそうだ。
「これだけは言っておくがレーニス、君はガラクタでも人形でもない。リーススやコルロルが、君を想っているから。2人に想われる君は、間違いなく綺麗なんだよ」




