表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物コルロルの一生  作者: 秋月みろく
■脱出
59/74

3




「きっと、私が会ったのと同じ魔女だわ」


「リーススもその魔女に?」


「ええ、きっとそうよ。でもそれよりも、あとは愛を集めればコルロルは人間になれるし、レーニスの感情も元通りに戻るのね?」


 あたしの肩を掴み、リーススは慎重にたずねた。


「そう言ってたけど」


「それじゃあ簡単じゃない! あとはコルロルに愛情を向けるだけよ!」


 あたしは辺りを見回してから聞いた。「誰が?」


「もちろんレーニスよ。私はコルロルを知らないし、他の誰かが怪物を好きになるとは思えない」


「リースス、無理なの。あたしはコルロルに会っても憎いだけだったし、その憎しみすら取られたもの」


 彼女は考えるように沈黙した。あたしは頭の中で状況を整理する。


「大丈夫。コルロルが死んでも、感情は戻る。いまさら感情が欲しいとは思わないけど、やつが死ねば勝手に戻ってくるそうよ。きっともうじきよ」


「レーニスに感情が戻るのは嬉しいけど……複雑ね」


「とっても単純よ」


「コルロルの死を喜べないもの。あなたが恋してる相手なんだから」


 リーススはあたしが恋をしていると思っているようだけど、あたしには恋愛というものが理解できない。誰かを想い夜も眠れないとか、どきどきと動悸がするとか、目が合っただけで赤面してしまうとか。話を聞く限り、病気の症状に似ている。


「恋ってなに?」


「え」、リーススはあからさまにぎくりとした。「ほら……、あれよ。恋っていうのは、その、どきどきするものよ」


「愛とはどう違うの?」


「そうね。愛と恋っていうのは……」


「リーススは恋したことあるの?」


「……………………もちろん」


「その間は」


「とにかく、説明が難しいわ。ライアンに聞いてみましょう」


 ということで、あたしたちはライアンに説明を求めた。彼はおじさんの荷物から取り出したと思われる、あらゆる宝石をじゃらじゃらと全身に身に着け、うっとりしながら話してくれた。


「恋……それは麻薬さ」


 あたしとリーススは顔を見合せる。


「麻薬だって」


「麻薬だってね」


「そう、この宝石と同じ。心を惹きつけ惑わせるんだ。店の店主に買い取らせるか、貴族に売りつけるか……俺を悩ます可愛いやつめ」


「これなんの話?」


「ライアンは宝石に恋したってことじゃない?」 


「貴様! わたしの財産に触れるな!」、足をじたばたさせて、おじさんは叫ぶ。「それが一体いくらすると……レーニス! リースス! なぜそれを着ている!」


 おじさんはあたしたちを見るなり怒鳴りつけた。


「おじさんの荷物にあった服だけど」


「そういえば、なんでおじさんが女物の服なんて持ってるの?」


「その裾についてるのはダイヤだぞ!」


 リーススは片足のつま先をぴんと伸ばし、自分の着ている服を後ろまで確認する。


「これ全部ダイヤなの? すごい!」


「へえ。2人とも、よく似合ってるじゃないか」、宝石からやっと目を離し、ライアンは褒めてくれた。「同じ服を着てると、やっぱり双子らしいな」


「今すぐ脱ぐんだ! ダイヤに傷ひとつつけてみろ、許さんからな!」


「おいおい、今すぐ脱げはないだろ。紳士とは程遠い発言だな」


 鼻息あらくするおじさんを見つめ、あたしはずっと不思議に思っていたことを尋ねた。


「おじさんは、なぜそこまで金に執着するの? 恋なの?」


 怒りが広がっていたおじさんの顔に、じんわり笑みが滲みだす。おじさんは声をだして笑った。


「はっはっはっ」、おじさんの笑い声は鷹揚だ。大きなお腹の底から、声が出てくるみたい。「金は人が生み出した至高の芸術品さ。目も眩むほどのな。なぜ集めずにいられる?」


「子どもにあんたの歪んだ価値観を聞かせるな」、ライアンは後ろからリーススの耳をふさぐ。


「私の考えが歪んでいると感じる貴様の価値観も、偏狭だがな」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ