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爆発が起こる少し前。あたしは眼下に広がる景色の中に立つ、黒い翼の怪物を見ていた。なんで、来たの。怒り出したい気持ちだった。怒り任せに怒鳴り散らしてしまいたかった。あたしのことは、放っておいてよ。
ふいに、ガルパスおじさんがなにかを察知したようにこちらを振り返った。あたしも自分の後ろを見てみる。地面にテディーが横たわっていた。おじさんは気付かなかったらしく、もしくは汚れたぬいぐるみに危険はないと判断したのか、また顔を前に戻す。
おじさんの視線が逸れると、テディーはむくりと体を起こし、こちらに手を振った。それからポテ、ポテ、と丸い足で、置いてあるリュックへ寄っていく。リュックの横ポケットには、ナイフの柄が突き出していた。
ナイフ……そうだ、ナイフさえあれば、縄を切れる。テディー、助けに来てくれたのね。
テディーはナイフを引き抜―――けなかった。なにせ手が丸いんだもの。掴みようがない。テディーは諦めず、ナイフの柄を両手にはさみ、引きずり出そうとする。
テディーお願い、頑張って。あそこに爆弾が仕掛けられているってこと、コルロルに伝えないと。あたしひとりが死ぬのはいいけど、あたしのせいで誰かが死ぬなんて嫌なの。それがたとえ、怪物のコルロルでも。
ずりずり、テディーはナイフを引きずってこちらへ進んでくると、ナイフを脇にはさんで、あたしの右足にしがみついた。そろりと大男の様子を確認する。彼は爆破スイッチを手に持ち、コルロルたちに見入っている。
右足を後ろへ上げて、ロープが横断している胴までテディーを持ち上げる。まもなくして、ロープが切れる。あたしは口に噛まされていた布を下げてテディーを抱えると、ナイフを手に、思い切り体を下げた。
油断していた男の手がするりと離れる。その場にしゃがむと同時に、ナイフを横へ振り切る。男の踵の少し上、アキレス腱をナイフが横断し、男は小さな叫び声を上げて前のめりに倒れる。
そのとき、爆発音が響いた。爆発によって生じる不自然な強風が、砂利と一緒に吹いてきて、あたし達は倒れまいと足に力をこめて、両腕で顔を庇う。
「くそ、なにも見えん! 探せー! あのバケモノの死体が転がってるはずだ!」
砂埃の中、こちらを見据える銃口が、きらりと光ったのが見えた。前のめりに倒れた男が、こちらに銃を向けていた。あたしは慌てて横へ飛び退く。そのあとを追って、銃声がほとばしる。
飛び退いた勢いを殺さず、二転三転と転がり、ほとんど滑るようにして岩壁を下り落ちる。ところどころに突き出した石が、膝や顔をこすっていく。道へ転がり落ちた。
すぐに上を向く。ずいぶん高いところから落ちた。さっきまでいた場所は、十メートルほど先にあった。そこに男の上半身が這い出してきて、銃を握る腕が下ろされる。あたしは無我夢中で走った。男の視界へ入らないところまで行っても、それでも走り続けた。
コルロル……コルロル……気が付くと、心の中で呼んでいた。コルロル、死んでしまったの? あの爆発だ。いくら怪物でも助からない。無性に腹が立つ。なんで? 怪物のくせに、それくらいで死んじゃうの? 怪物のくせに……怪物のくせに……怪物のくせに……
ガッ、とつま先に硬い衝撃が走る。視界が暗転したかと思うと、今度は肩に痛みがあり、スライディングするみたいに地面を転がった。盛大に転んだんだ、と気づいたのは、目の前に地面が見えてからだった。
口の中に砂利が混じり、鉄錆くさい血の味が広がっていた。横向きに倒れたまま、肩で息をする。満身創痍だ。思い出したように、あちこちで痛みが走り、体中に疲れが充満していく。
「テディー、大丈夫?」
あんなに激しく動きながらも、テディーのことはしっかり抱えていたらしい。汚れは増しているけど、どこも破れていないようだ。テディーは目の前に立ち、両手を広げて見せた。




