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「ライアン、心配してるの?」
「へ? あ、ああ、そうだな」
「……ありがとう」、なぜか苦虫を噛み潰したような顔をする。
「おいおい、表情と言葉がマッチしてないぞ」
「レーニスは僕より君が好きらしい」
「彼女は誰も好きじゃない」
「じゃあ僕たちは、よりどっちが嫌いかっていう、低レベルなところで戦っているんだね」
「戦って……」
なんだ? 俺を恋敵とでも思っているのか?
「もし僕が殺されたあと、まあそうなることはほぼないだろうけど、万が一、僕が死んで君が生き残っていれば、レーニスのことを任せたい」
万が一、の部分を強く押し出して言う。俺は呆気に取られた。
「俺に任せるのか? 君が?」
「君しかいないんだからしょうがないじゃないか。テディーには頼めない」
「まあそれはそうだな。それに、あのぬいぐるみはどこかへ行ってしまったらしい」
「どこかへ行った? って……なんでちゃんと持ってないだ。迷子になって泣いてるかもしれない」
「そう責めるなよ、君はあのぬいぐるみの親か? 元々この山にいたんだし大丈夫さ」
まだ何か言いたげだったが、今はそんな場合じゃない。コルロルは「……とにかく」と話を戻した。「君は信用できるかもしれない」
「俺が?」、自分でもびっくりしてしまう。「なぜ?」
「知らない? ライアンってヒーローが出てくる物語。名前が一緒だし、君はそいつに似てる」
知らない? ライアンっていうヒーロー。あなたにそっくりなの。もうずっと前に言われたように感じる台詞。この怪物が、あの人と同じことを言うなんて。
「それは知らないけど、君が物語の世界まで楽しんでいるのは意外だよ」
俺はライアンというヒーローが活躍する物語を知らない。自分で適当につけた名前が、たまたまそのヒーローと同じだっただけだ。
「だからもしものときは、ライアンに任せる」
頂上を見上げ、またすぐに歩きだす。
歩みがはやい。爆弾へと、もの凄いスピードで接近していく。まるで死に急いでいるみたいだ。 俺は足を止めた。 これ以上は、巻き添えを食う。
ガルパスが、大男に顎で指示をするのが見えた。男の手には、爆弾のスイッチが握られている。
俺はその場に留まり、コルロルの背中を見送った。悪いがコルロル……俺は金が必要なんだ。怪物は知らないだろう? この世は金なんだ。金があれば、命だって買える。
それに、ライアンとかいう架空のヒーローも、怪物のことは助けないんじゃないかな。
「……なんて」、口端から言葉がこぼれ落ちる。足が地面を蹴る。ごく短い距離を、全速力で駆ける。
今日会ったばかりの怪物と、豪遊してありあまる大金。俺は頭の隅で考えていた。どっちが大事か。即答できる。金だ。理由は単純明快。金は生きていく上で絶対に必要だが、怪物の仲間は必要じゃない。
失ったところで、俺の人生は良くも悪くも転じない。あってもなくても変わらないものだ。でも金は俺の命を保証する。そういう理屈を、俺は神よりも信じている。 信じてるんだ。
「コルロル……!」、全力でコルロルを崖の向こうへ押し出す。「飛べ! コルロル、飛べ!」、俺は無我夢中で叫んでいた。




