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コルロルは人のいる村を訪ねた。少数で暮らす小さな村だった。胸には三角の水晶。それをつけているだけで、自分の人間度がアップしたような高揚感があった。これから人間になる。その最終目標が、人間への親近感を湧かせた。しかし当然、人々の反応は変わらない。
変わらずコルロルはバケモノであり、人とは明らかに一線を画す脅威だった。村の女子供は裸足で逃げだし、男たちは武器をとった。剣を向けられた時、水晶の中に、燃えるように赤い気体が渦巻いた。
とめどない殺意。勇気と畏怖。それらは劇薬を飲まされたような目眩と熱を起こした。はじめて胸の内に発生した激情に、コルロルは我を忘れた。
気がついた時には、村は赤く染まり、死体が転がり、コルロルだけが立っていた。
「そのとき思ったんだ。人の感情こそがバケモノだって」、岩の上に座っているコルロルは、片膝を立てる。「僕にも感情はあるつもりだったけど、人が持っているものとは明らかに違った。淡白っていうのか、全部が薄いものだったって、人間の感情を知ってはっきり分かった」
ライアンも小ぶりな岩に腰かけて話を聞いていたが、口は挟まなかった。
「やっぱり人間にはなれないって思ったよ。あんまり簡単に殺せちゃうから、自分も脆い人間になるのかって思うと、怖くなったんだ。だからできるだけ人に会わないようにして過ごした。でもやっぱり、誰にも会わないっていうのは難しくて、同じようなことが繰り返された」
「まるで呪いだな」、ライアンは肩をすくめる。
「まさにそうさ。僕もまったく同じことを思ったよ、あの魔女に呪いをかけられたんだって。ちょっと考えれば分かったことなんだ」、黒い翼が、心持ち広がる。「怪物と恐れられる僕に、誰が喜びを向けてくれる? 笑いかけてくれる? あの魔女はきっと分かってたんだ、僕が殺意や恐怖に苦しめられることを」
牙を剥くコルロルの顔は、確かに怖かった。体は成人男性の二倍はある。翼まで入れればもっとだ。どこかマイルドに感じ始めていたやつの恐ろしい外見が、浮き彫りになったようだった。こいつに向かって武器をとった人々は、勇気のいったことだろう。
「ま、まあまあ、でも君は、ポジティブな感情も持っているんだろう? その、つまり」、言葉の先を視線に任せ、ライアンはあたしを見た。
「そうなんだ」、コルロルは人が(怪物が?)変わったように、ほっこりした顔をする。「僕は出会ったんだ、レーニスに」
やつはまた語りだす。あたしは自分の記憶と照らし合わせながら、やつの話す道筋を追った。
橋から落ちたあたしを宙でキャッチし、元の場所へ戻す。子供は怯えてすぐに泣く、ということは、経験から分かっていた。これ以上恐怖の感情はいらないんだけど、とコルロルは嫌な気持ちだった。しかし、地面に立たせたあたしは、目をキラキラさせて開口一番にこう言った。
『かぁっ、こいい!!』
「ストップストップ、ちょい待ち、たんま」、さっきは黙って話を聞いていたライアンが、意気勇んで話の腰を折る。「これがレーニス? この天使のような満天笑顔の少女が?」
「そうだよ」
「小さい頃のあたしじゃないの。話の腰を折らないで」
「こうなるの? こうなっちゃうの? 冷たく一瞥くれちゃうの?」
幼いあたしの反応に、コルロルは面食らってしまった。
『かぁっこいいーかぁっこいいー』、あたしはコルロルの周りを飛び跳ねる。『羽だ! 飛べるのね!』
『え、うん』、今見たじゃん、と思いつつ答える。
『すんごいねえ! 飛べるの、かっこいい! あたしレーニス、ななさい!』
あたしはすごい勢いで、十本の指を立てた両手を突き出した。
三角水晶に、黄色の気体が生まれる。




