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なぜ、そんなことを聞くの? 父さんが死んだ。そんことは分かってる。死に顔を見たし、体温が失せた冷たい体にも触れた。死ぬって、そういうことでしょ? 知ってるよ。会えないって、当たり前じゃない。もう肉体が滅んだの。そのことに対してあたしが感じたのは、複雑に重なりあった怒りだけよ。
「もし、私が死んだとしても、あなたは脇目も振らず、コルロルを探し続けるんでしょうね。いいじゃないそれで。一緒に住んでる必要ないわ」
「……リースス、なにが言いたいのか」
「見てられないのよ!」、小さく叫び、彼女は弾かれたように顔を覆っていた手を下ろした。「コルロルを殺して、それでどうなるっていうの? レーニスの感情が、心が、取り戻せるっていうの? それなら私が殺してやるわよ、あなたの笑顔を取り戻せるなら。一緒に笑いあったあの頃に戻れるなら」
リーススの瞳には、いっぱいの涙が溜まっていた。彼女がその目を瞬くと、真珠のような水玉が、いくつも連なって落ちる。はじめて見た。リーススが泣くの。
「笑い合った……って」
「レーニス、あなたは覚えてないの?」、くしゃ、リーススの顔が歪む。「本当に?」
笑いあった? リーススとあたしが?
「一緒に、かくれんぼしたことは? はじめて買い物に行ったことは? かっけこしたり、クッキーを焼いたり……あんなに楽しかったじゃない。なにをするにも、私たちは一緒で……ねえレーニス」、リーススは縋り付くようにあたしの肩を掴んだ。「本当に、なにも感じないの? 父さんに会えなくて、哀しくない? 私といても、楽しくない? どうすれば喜んでくれる? 笑ってくれる? ねえ……」
あたしは石像みたいに硬直して、リーススを見ているしかなかった。思い出せない。本当に? あたしとリーススが仲良しで、笑い合って過ごしていた、という彼女の言い分を、すんなり受け入れることができない。だって、ずっと無表情に生活してきたじゃない。同じ家で、一緒に過ごしてきたけど、それは事務的なものだった。多くは語り合わないし、時間をこなすような毎日だった。
こちらを見つめる瞳が、やがて横を向いてしまう。つられてそっちを見たけど、テントの壁があるだけだった。
「ごめん、レーニス、ごめんなさい。こんなこと言われても困るよね。きっとあなたは、感情を盗まれた時に、楽しかった思い出は全部封じ込めちゃったのよね。思い出しても、辛いだけだから」
涙を流す彼女の瞳は、真摯な心の内側を映し出しているようであるのに、何を思っているのか、読み取ることができない。やっぱりあたしは何を言っていいか分からず、その内にリーススは「ごめんなさい」と言い残し、テントの外へ出て行った。
遠ざかっていく足音も聞こえなくなると、しんとしてしまって、リーススがいなくなった分、このテントからぬくもりが消え去ったように感じた。世界中に自分ひとりしかいないという孤独感は、あんがい簡単に手に入るらしい。
リーススを、泣かせてしまった。
その事実は、井戸の底で打ちひしがれているような、行き場のない窮屈さを運んできた。なんで? リーススは父さんが死んだ時、哀しかったの? 泣きたかったの? いつも通りに見えた。その様子を見て、あたしと同じ感じなんだろうと思った。我慢してたの? なぜ?
途方もない怒りと衝動が、渦となってこみ上げてきて、胸を抑える。
ひっこめ偽物。あたしが今、本当に感じるべきものは、怒りじゃないんでしょう? あたしは今、哀しいはずなんだ。哀しくて、泣きたくてたまらないはずなんだ。だって、リーススが泣いたんだもの。




