天国か現世
白い景色がどこまでも続いている。
地面には雲のようなものがあり、足はその上にある。
心臓はもちろん動いてない。
でも、視覚や聴覚はしっかりと働いているようだ。
左右を何度も見て、とりあえず人間の感覚で言う、真っ直ぐの方向に歩いてみる。
しばらく歩き、どのくらい歩いたのか確認するために左手に付いている腕時計を見てみると、時間は交通事故が起きた時間で止まっていた。
さらに真っ直ぐ歩いていくとかすかに何か長細い物体が見えてきた。
それは自分と同じ死んだ人間の行列だった。
この光景は現世の若い女性が有名スイーツ店に朝から並んでいるのとまるで同じで、なんだか落ち着いた気分になった。
みんな顔色は良く、まさか死人だなんて誰が思おうか?
どうやらこの行列の最後尾に到着したらしい。
マサルがその列に並ぶとこの列を発見した別の死人が何人も並んだ。
マサルの前に並んでいる女性の髪は濡れていた。
「見た感じ24、5歳か・・・」
「水死体か・・・」
「死んだ状況は死後でもある程度は反映されるのか・・・」
「そういえば歩いてる時に右足の向いている方向が少しおかしかったな」
「この女性の前にいるヘルメットをかぶったおっちゃんは工事現場で亡くなったのか、その前にいる男は・・・」
マサルは暇つぶしに並んでいる人たちの背中を一人ずつ目でおっていった。
その時、遠くから「ピー」と笛の音と共に宙に浮いた人間がこちらに向かってくる。
後ろには羽らしきものがバサバサと羽ばたかせている。
おそらくこれが天使なのであろう。
「仲村マサルさん、こちらへ」と列から退くように指示される。
「な、なんですか?」と恐る恐る尋ねてみる。
「あなた年齢は?」
「ご結婚は?」
「将来の夢は?」等色々な質問を突然される。
慌てて答えていると単刀直入にこう言われた。
「死に対して恐怖心がない人間はたくさんいる。だが、そういう人間を天国に招くことは禁止なのだ。ここでそんな暗い顔されても困る。せめて人間界でもう少しは生きたいと思ってから、また来い!」
天国に招くって、ここはまだ天国ではなく、空港でいう入国審査を行うような場所だったのか。
「あのー僕は別に天国で生きたいとも思ってないですし、何だったら現世で生きたいんですが」と謙虚に言った。
「それは無理です。あなたは死んだのですから。それにこちらの調査で、あなたは現世よりもあの世に行きたいと思ってます」とマサルの言葉をバッサリ打ち崩した。
続けて天使はこう言った。
「あなたに与える期間は1年、この余命1年で現世でまだ生きたいと思えるような・・・人間界でいう「オモイデ」を作ってきてください。」
そう言うと天使はマサルの頭を掴み、なにやら呟いた。
その瞬間、激しい頭痛に襲われ意識を落とした。