ラファエル・ミューア
目を覚ますと視界には青空が広がっていた。
ゆっくりと身体を起こすといろいろなビルの屋上やガラスが見える。
どうやらどこかのビルの屋上に自分は横たわっていたんだと次第に気づく。
座り込んで時折痛む頭を抱えながら、コンクリートに顔を向けた。
眩しく温かい太陽とほのかに冷たく都会の汚れた空気が何気に痛む頭を癒していく。
しばらく俯いていると誰かがマサルに声をかける。
「大丈夫ですか?」
マサルは周りに誰もいないと思い込んでいたため、急に声をかけられ驚いて顔を前にあげた。
目の前にはタバコを吸っている途中の男性が心配そうな顔でマサルを見下ろしている。汚れた冷たい風はこいつのせいか・・・
おそらく休憩時間に建物内では、禁煙だろうからわざわざ屋上に出て吸っているのだろう。
その男性の後ろには、他に2人の男性もタバコを吸いながらこちらを見ていた。
彼らの表情は、まるで地球に不時着した宇宙人でも見ているかのようだ。
それもそうだろう。
なんせ数分前には、この世とおさらばして、あの世に一瞬でもいたのだから。
厳密に言うとあの世の入り口なのだが・・・
マサルは徐々に先ほどまでの記憶を思い出していた。
とりあえず今はこの目の前にいる男性の対応に集中しなくてはとマサルはゆっくりと立ち上がり男性に「大丈夫です」と聞かれたまま返答しこのビルから降りる手段を聞いた。
男性はマサルの後ろを指差して、階段から降りるよう教えてくれた。
まだ驚いた表情をしている。
ということは、彼らが社会のストレスを吐き出すため屋上に来て、一服していた時は仲村マサルという宇宙人は居らず、いつの間にか3人しかいない屋上にもう1人横たわっているのが突然現れたのだから、彼らの表情は決して間違えていない。それよりもこちらの様子を伺ったり、丁寧にこのビルの降り方を教えてくれるということは、仲村マサルをどこからの惑星から来たのではなく、彼らと同じ母親から産まれた人間という認識はあるようで安心した。
そんな彼らを背にしてマサルはそのビルの1階へと降りた。
下から上を見上げるとそのビルは吉田ビルという小さな建物だったのに気づく。
そして地上に降りるとさっきまでは気付かなかったが、車が多く通っており、クラクションの音や排気ガスの匂いで早くその場を離れたくなり、マサルはその場から逃げるようにすぐ側の路地へと入った。
その路地に人気はないが、何軒かのお店が並んでいる。
鍵・靴修理のキータナカ、居酒屋さぶちゃん、スナック涼子など。
定休日のところもあれば、夕方18時頃から開く店や深夜に力を注いでいるお店もある。
そんな路地を通り抜けると道路挟んで大きな公園を発見する。
マサルはとりあえずその公園へ入り、公衆トイレ近くにある水飲み場で乾いた喉を潤した。
その後、また水飲み場近くにある3人がけの大きめなベンチに腰を下ろした。
マサルは目覚めた時と同じように雲一つない青空を見上げる。
あの世への入り口にいた記憶をまるで目覚めの夢の様にぼんやりと思い出す。
そしてそのうち天使の言葉を思い出す。
「人間界で生きたいという気持ちが無ければ、天国にも行けないってどういうことなんだろうか・・・」
マサルはあの台詞を口ずさみながら考えた。
すると横から誰かがまた話かけてきた。
「そのまんまの意味です」
マサルは素早く左を向いた。
マサルの横には全身白い服を着て、長い金髪に頭には葉っぱの冠のような物を付けている男性か女性か区別できない美顔の人間?が座っている。
さらに一つ一つ容姿を説明するならば服装はまるで社会の教科書で説明図としてあるギリシャの神みたいな長い柔らかそうな布の生地の服を着ており、腰には金のベルト、さらに身体の部分部分には金のアクセサリーなどを装着している。
肌はとても白く、太陽の光が反射して眩しいくらいだ。
誰かがマサルにその人?とキスをしろと命令されても抵抗なくしてしまいそうな顔立ちで、女性と言われればそれで納得できてします。
ただ男性とも見れる要因は、耳である。
長髪の間から狐のようにピンッと上に上がった大きな耳がマサルをその人は男性にも見えるように惑わしている。
もちろん耳たぶにも金のアクセサリーは付いている。
その輝く人?は、背筋をキレイに伸ばしてベンチに浅く座っている。
マサルは唖然とした。
なぜならこんなに美しい人?がこの地球に・・・いや自分の横にいることと同時にこの人?が薄々だが天使だと思い込んでしまったからだ。
マサルの喉はさっき潤わしたばかりなのにまたカラカラに乾く。
そんな挙動不審のマサルに対して、その人?はマサルを正常に戻すためか結論を言う。
「私は人間ではなく、また神でもなくあなたの担当になった天使です」
マサルはそれを聞いても一言も声を出せずにいた。
いや声を出せないのではく、言葉を忘れてしまっているかのようだった。
発声しようにも何も出ない。あいうえおさえも出ない。
それを見た天使はこう言った。
「あなたの場合は声ですか・・・仕方ありませんね」
天使はマサルに人差し指を向け、それを右に真っ直ぐズラした。
するとマサルはまるで息が出来なかったかのように「ヴゃあやごほやっ!!」と息を出しながら声を出した。
「私達天使を見ると何故か人間は身体の一部の機能が止まってしまうんですよ。あなたは声、他にも筋肉の神経が止まり手足が動かなくなる場合や視力を失い目が見えなくなったり、聴覚や思考など」
マサルは震えながら「そうなんですか」と言った。
「神には何度も言っているんですよ。神話として私達の姿は見慣れているのだからこのような症状が出ないようにしてくださいと。しかし神は笑いながら「今のままのほうが面白いじゃないか」と言って改善してくれないんですよ」
マサルはまだ震えながら「そうなんですか」とまた言った。
その後、天使は「神は地獄の大魔王と考えが同じだ」や「神はギャグのユーモアがない」などまるで世間話はマサルにしばらく聞かせた。
天使は話に夢中で、マサルの震えなど気にせずしばらく話を聞かせた。
神と天使の関係など話終えた後にようやくマサルに話す機会ができた。
「あの~あなたは天使なんですよね?」
「えぇ、紹介が遅れました。わたくし神の使いであなたを担当するラファエルです」
「え?ラファエルってあのラファエル?」
「そうです。ご存じですか?」
「まぁ聞いたことはあるけど、確かラファエルって四大天使の一人で癒しを司る天使だったような」
「えぇ、人間界では確かにそう言われております。しかし私は皆が存じているあのラファエルではないのです。そうですね・・・簡単に説明するとあなた達でいう師匠に値しますかね。わたくしは、ラファエル・ミューア。あの四大天使の1人ラファエルの弟子といったものです。」
「つまり名前を借りているということですか?」
「えぇ、そのような捉え方でいいと思います。しかし天使に詳しい方の担当に就くのは初めてですよ」とラファエル・ミューアは笑顔で言った。
笑顔そのものは女性だ。
しかし性別を聞くと男性だと答えた。
男性というのもこれからマサルの側にいるには、人間界にしばらく滞在することになる。今のままでは周りにラファエル・ミューアの姿は見えないが、天使は人間界に長く滞在すると人間のように容姿など変わっていき、次第に周りの人間にも見えるようになるという。
その人間の仮の姿が男性というだけで、実際の性別は教えてくれなかった。
2人はしばらくお互いについて話した後、本題へと入った。
「では、マサルさんあなたには、もう一度この世界で生きてもらいます。どう過ごそうとあなたの勝手です。しかし、これだけは忘れないでください。余命は1年しかないことを。」




