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隠していた力、隠しきれなかった力



「今の風は、何だ?」

「知らないよ」




レイルは答えた。


これは嘘ではない。

今の風は、本当に自分が起こしたものではなかった。




「風なんて突然吹くものだろ」




兵士は答えないままレイルを見る。

そして、手にしていた魔導具へ視線を落とした。



先ほどレイルが触れた時、魔導具は兵士が触れたときよりも少しだけ強く光った。



それだけなら、まだ何とも言えない。


だが、その直後に吹いた風。 

兵士はレイルと魔導具を交互に見る。




「……レイルと言ったな」

「うん」


「詰所まで来い」

「え?」


「お前は魔素操者の可能性が高いと判断した」




レイルの胸がざわついた。

かなり疑われている。




「詰所で何するの?」

「詰所にあるもっと精度の高い魔導具で詳しく調べる」


「…………」




詳しく調べる。


それは、まずい。

レイルには確信があった。



自分は、この兵士の言う魔素操者(エレメンタ)とやらなのだろう。



気付けば操れるようになった風。

それからは、自分の身体の一部のように当たり前に使ってきた。



――人前では使うんじゃないよ。




マーサに何度も言われた。


今持っている簡易式の魔導具ですら、兵士より少し強く反応したのだ。


もっと精度の高いものを使えば、おそらく隠せない。



「……嫌だ」

「何?」


「行かない」




兵士が眉をひそめる。




「何故だ」

「行きたくないから」


「理由になっていない」

「俺にとっては理由になってる」


「これは必要な確認だ」

「でも、俺は行かない」




それだけ言って、レイルは口を閉じた。




「そういうことだよ」




マーサがレイルの前へ出る。




「本人が嫌だと言ってる。今日はもう帰らせてもらうよ」

「待て」


「まだ何かあるのかい」

「俺たちは、この辺りに魔素操者らしき者がいるという話を聞いて調べに来ている。実際に魔導具も俺より強く反応した」


「そうかい?そんなに違いは無かったように見えたけど」

「ああ。だから詰所で詳しく確認する」


「本人は嫌だって言ってるよ」

「嫌なら調べなくていい、で済むなら俺たちは必要ない」




マーサは兵士を見る。




「でも、強制力はないんだろう?犯罪者の疑いがあるわけでもないし」

「……だがな」


「だったら、無理に連れていくことはできないんじゃないのかい?」

「魔素操者(エレメンタ)の疑いがある者を見つけたら確認する。それが俺たちの任務だ」


「それは何度も聞いてるさ」




マーサは平然と答える。




「でもあたしたちも暇じゃないんでね。この子にだってやることがある」

「検査ならすぐに終わる」


「あんたたちの都合に合わせる義理はないだろ?」

「…………」


「それでも連れていきたいなら、せめて本人が納得するように話すんだね」




兵士の眉間に皺が寄った。




「いいから黙ってついてこい」

「いっぱしの兵士だというのに、通り一遍のことしか言えないのかい?」


「……なんだと」

「人にものを頼むなら、もう少し言い方ってものがあるだろ」



兵士の顔が険しくなる。




「さっきから黙って聞いていれば……」




一歩、前へ出る。




「さすが兵士様。下々の民へのお願いの仕方は知らないんだねぇ」

「貴様……!」


「何だい」

「いい加減にしろ!」


「あーあー、うるさいね。そんな大きな声を出さなくても聞こえてい――」




兵士が手を振り上げる。



ぱんっ。



乾いた音が響いた。





◇





身体が動いていた。




――あ、こいつ、ばあちゃんを殴るな。




そう気づいた瞬間から。




自分でもほとんど感じたことのないほどの怒りの中で、なぜか頭の片隅だけは冷静だった。


そして、気づいた時には兵士を殴っていた。


いや。

正確には。

殴り、吹き飛ばしていた。




「ぐあっ!?」




兵士の身体が宙を舞う。

地面に叩きつけられ、そのまま何度か転がって止まった。




「…………え?」




レイルは自分の右手を見る。


拳を握っていた。

その周りを、風が渦巻いている。




「レイル……!」




マーサの声。


振り返る。

頬が赤い。

その頬を見て、ようやく改めて頭が追いついた。


兵士がマーサを殴った。

それを見て。

自分は。




「…………」




もう一度、拳を見る。


殴った。



ただ殴っただけではない。


風をまとわせた拳で、兵士を吹き飛ばした。




「……やっちゃった」




口から出たのは、そんな言葉だった。



ずっと隠してきた。


誰にも見られないように。

マーサとの約束を守って。


それなのに。

村人たちが見ている前で、使った。




「何事だ!?」




村人たちの間を抜けて、一人の男がこちらへ向かってくる。

先ほどまで別の村人たちから話を聞いていた別の兵士だ。


他の兵士とは少し装備が違う。

隊長か何かだろうか。




「ダリオ。何があった」




倒れている兵士。

頬を押さえるマーサ。

その前に立つレイル。


男の視線が順番に動く。




「説明しろ」




倒れていたダリオが身体を起こす。




「……バルド隊長。こいつを詰所へ連れていこうとしたところ、この女が邪魔をして――」

「違うよ」




マーサが言った。

ダリオが睨む。




「何が違う!」

「肝心なところが抜けてるだろ」

「ばあちゃん」




レイルがバルドを見ながら口を挟む。




「俺がやった」




バルドの目がレイルへ向く。




「君が?」

「あの人を吹き飛ばした」


「どうやって」

「……風で」




周囲がざわつく。

バルドの表情は変わらない。




「何故だ」




レイルはマーサの頬を見る。




「ばあちゃんを殴ったから」




バルドがダリオを見る。




「ダリオ、それは本当か?」

「…………」


「答えろ」

「……はい」




バルドはしばらく黙っていた。




「お前の話は後で聞く」

「……はい」




それだけ告げると、レイルへ向き直る。




「少年」

「何?」


「我々がここに来た理由をこの兵士から聞いたか?」

「ああ」


「そうか」




バルドは頷いた。




「で、あるならわかるな?部下を吹き飛ばした件も含めて、詰所で話を聞かせてもらう」




レイルは何も言えなかった。

さっきまでなら、嫌だと言えた。


でも今は違う。

自分から皆の前で使った。




「詰所に向かうぞ」

「…………」



レイルは小さく息を吐いた。




「分かった」




今度は、拒まなかった。



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