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依頼所への報告



ラゼルへ戻る頃には、日が傾き始めていた。

三人はそのまま依頼所へ向かう。

中へ入ると、受付の女性がこちらに気づいた。



「おかえりなさい。どうでしたか?」



ガルムが答える。



「焦げ跡の原因は分かった。イグニスフォックスの群れだった」

「そうだったんですね」



受付の女性は驚いた様子を見せながらも、すぐに報告用のメモを取り始めた。



「見つけた分は倒したが、まだいる可能性は十分ある。注意喚起した方がいいだろう」

「ありがとうございます。しばらくは森へ入る方にも注意するよう伝えておきます」



受付の女性が顔を上げる。



「それにしても、皆さんはお怪我などありませんでしたか?」

「大丈夫だよ。ちょっと危なかったけど」



レイルが答えると、リシアが横から顔を向けた。



「ちょっと、ですか?」

「……まあ、結構危なかったかな」



ガルムも黙ってレイルを見る。



「……反省してます」



受付の女性は三人の様子に小さく笑った。



「ご無事で何よりです。調べていただいてありがとうございました」

「ああ。また何か分かったら伝える」



レイルは持ってきた荷物へ目を向ける。



「そういえば、これってここで買い取ってもらえるの?」

「申し訳ありません。依頼所では素材の買い取りはしていないんです」


「じゃあ、ダレスさんのところに持っていこうか」

「そうするか」



三人は受付に礼を言って依頼所を出た。

通りにはまだ多くの人が行き交っている。

レイルは荷物を持ち直した。



「それにしても重いね……」

「あと少しだ」


「ガルムは全然平気そうだね」

「鍛え方が違うからな」



ガルムはいつもと変わらない足取りで歩いている。



「……少し持ってくれたりしない?」

「これも訓練だ」


「そう言うと思ったよ」



リシアが隣で笑った。




◇




ダレス商会へ着くと、店の前には何台か荷車が並んでいた。

店員たちが木箱を運び込み、別の場所では商人らしい男が帳簿を片手に話し込んでいる。

店内へ入ると、奥から聞き覚えのある声がした。



「そちらの荷物は明日の朝にお願いします。ええ、その分で間違いありません」



ダレスが店員に指示を出していた。

こちらに気づくと、にこやかに近づいてくる。



「おや、皆さん! 今日はどうされたんです?」

「ちょっと売りたいものがあって」

「売りたいものですか?」



レイルが荷物を降ろし、布をめくる。

赤茶色の毛が見えた。



「おお、イグニスフォックスですか!」

「うん。ルーゼの森にいたんだ」

「なるほど。そういえば、あちらで焦げ跡が見つかっているという話は聞きましたね」



ダレスは毛皮に触れ、状態を確認する。



「これだけ運ぶのは大変だったでしょう」

「結構重かったよ」

「ははは。お疲れさまです」



ダレスは店員を呼び、素材を広げられる場所を用意してもらった。



「では、早速見させていただきますね」



毛皮を広げ、牙や爪の状態を順に確認していく。



「こちらは傷みが少ないですね。牙も問題なさそうです」

「高く売れる?」

「状態が良いものは、その分評価できますよ」



ダレスは別の一匹へ手を伸ばした。



「こちらは少し傷がありますね」

「あ、それ俺が倒したやつかも」


「そうなんですか?」

「何回も叩いたからね」



ダレスが笑う。



「素材を綺麗に残そうとして怪我をしては大変ですからね。まずはご自身の安全を優先してください」



すべて確認し終えると、ダレスが顔を上げた。



「全部まとめて、8万ルクでいかがでしょう?」

「8万ルクか」



レイルはガルムを見る。



「いいよね?」

「ああ。肉は別にしてあるからな」

「なるほど。イグニスフォックスの肉は、独特のクセがありますが、美味しいですからね」



レイルがガルムを見る。



「……今日の夕食?」

「そのつもりだ」


「お、楽しみだね。食べたことないし」

「俺も楽しみだ」



ガルムが少し笑った。

ダレスは代金を用意してもらい、レイルへ渡す。



「こちらが8万ルクです。お確かめください」

「ありがとう、ダレスさん」

「いえいえ。こちらこそありがとうございます!」



取引を終えると、ダレスは素材を店員に預けた。

レイルは奥へ運ばれていく荷物を見送る。



「そういえば、あれってどこに売るの?」

「毛皮を扱う職人さんや、素材を仕入れているお店ですね。牙や爪も加工品に使われますよ」



ダレスが棚から小さな革製品を手に取った。



「例えば、こういったものを作る方もいます」

「これも魔物の皮?」

「ええ。別の魔物ですが、丈夫なので重宝されているんです」



レイルが触ってみると、見た目よりもずっと硬かった。



「へえ、しっかりしてるね」



リシアも品物を覗き込んでいる。

すると、ガルムが口を開いた。



「ダレス、最近の街道の様子はどうだ?」

「街道ですか?」



ダレスは少し考える。



「東のベルナ街道は、今のところ大きな問題は聞いていませんね。北へ向かう商人からも、特に変わった話は入っていません」

「そうか」


「どちらかへ向かわれる予定ですか?」

「まだ決めていない。しばらくはこの辺りを見て回るつもりだ」



ダレスが頷く。



「でしたら、何か情報が入りましたらお伝えしますよ」

「助かる」



レイルも話に加わる。



「魔物の話とかも聞いたりする?」

「もちろんです。商人にとって街道の安全は大事ですからね」


「何か変わった話があったら教えてね」

「ええ、お任せください!」



ダレスが胸を張る。



「こう見えて、商人仲間の顔の広さには自信がありますから」

「あ、それ前にも言ってたね」



ダレスが嬉しそうに笑った。

その時、奥から店員がダレスを呼ぶ声がした。



「おっと、失礼。少し仕事があるようです」

「じゃあ、俺たちもそろそろ帰るよ」

「そうですか。またいつでもお立ち寄りください」



ダレスは三人へ軽く頭を下げる。



「次に珍しい素材が手に入った時も、ぜひお声がけくださいね」

「分かった。また持ってくるよ」

「楽しみにしております!」




◇




商会を出ると、すっかり暗くなっていた。

三人が宿へ向かおうとすると、ガルムが足を止めた。



「少し市場へ寄るぞ」

「え、今から?」


「ああ。今夜の食材を買っておきたい」

「肉はあるんじゃないの?」


「肉だけでは料理にならんだろう」



レイルはリシアと顔を見合わせた。



「……なんだか張り切ってるね」

「そうですね。少し楽しそうです」



ガルムは聞こえなかったふりをして歩き出した。


市場にはまだ多くの店が並んでいた。

野菜や果物、焼きたてのパン。

干した魚や肉が吊るされた店の隣では、香辛料の入った袋がずらりと並んでいる。

ガルムは迷わず香辛料の店へ向かった。



「やっぱり香辛料か」

「予想どおりでしたね」



二人が後ろで笑っている間に、ガルムは店主へ声をかけた。



「イグニスフォックスの肉に合う香辛料はあるか?」

「イグニスフォックス? それならこいつがおすすめだよ」



店主が差し出したのは、赤褐色の粉が入った小さな袋だった。



「肉の香りが強いからな。こいつを少し使うといい」

「なるほど」



ガルムが袋を開け、香りを確かめる。



「悪くないな。他には?」

「こっちも合うぞ。少し辛いがな」



今度は別の袋が出てきた。

ガルムは興味深そうに二つを比べている。



「……長くなりそうだね」

「ガルムなりにはしゃいでますからね」



リシアは慣れた様子で微笑んだ。

しばらくして、ガルムが三種類の香辛料を購入した。



「三つも買ったの?」

「味を比べてみたいだろう?」



ガルムは買った袋を大事そうにしまった。

続いて野菜をいくつか買い、最後にパン屋へ向かう。

店先には焼きたての丸いパンが並んでいた。



「おいしそう!」



レイルが目を輝かせる。



「これも買っていかない?」

「今夜は肉と一緒に食べるからな。少し多めに買っておくか」

「いいね!」



リシアもパンを一つ手に取る。



「こちらもおいしそうですね」

「それも買おう」


「いいんですか?」

「ああ。収入もあったからな」



レイルが少し笑う。



「やっぱりガルムが一番楽しみにしてるよね」

「当然だ。美味いものが楽しみで何が悪い?」


「そこは否定しないんだ」

「否定する理由がないからな」



リシアが笑いながらパンを袋へ入れた。




◇




宿へ戻ると、ガルムは宿の主人に調理場を借りられるか尋ねた。

許可をもらい、さっそく準備を始める。

ガルムが取り出した肉は、赤みが強く、少し脂が乗っていた。

レイルは横から覗き込む。



「普通の肉とあんまり変わらないね」

「焼けば違いが分かるだろう」

「どんな味なんだろう」



ガルムは肉を切り分け、買ってきた香辛料を振りかける。

熱した鍋に肉を置くと、じゅうっと音が響いた。

香ばしい匂いが広がっていく。



「うわ、いい匂い!」

「もう少しだ。倒してからすぐ処理したから美味いぞ」



レイルが焼き上がりを待つ横で、リシアも興味深そうに鍋を覗く。



「魔物もこんなに美味しそうになるんですね」



ガルムは肉を裏返し、焼き加減を確かめた。

やがて皿に盛り付けられた肉と野菜が、パンと一緒に食卓へ並ぶ。



「いただきます!」



レイルはさっそく肉を一切れ口へ運んだ。

噛むと、少し硬めの弾力がある。

香辛料の香りが広がり、その後から肉の旨味が追いかけてきた。



「……うまっ!」

「お口に合ったようですね」



リシアも一口食べる。



「おいしいです! 少し独特な香りがありますね」

「それがこの肉の特徴だな。だからこそ香辛料とも合うんだ」



ガルムも肉を食べ、少し考え込む。



「……もう少し香りを強くしてもよさそうだな」



そう言って、買ってきた香辛料の袋を取り出した。



「え、まだ変えるの?」

「少し試してみたい」


「十分おいしいと思うけど」

「もっとおいしくなるかもしれんだろう」



ガルムは小皿に肉を取り分け、別の香辛料を振りかけた。

レイルとリシアにも差し出す。



「どうだ?」

「ん……こっちもおいしい!」

「私は最初の方が好きかもしれません」



ガルムが頷く。



「なるほど。好みの差か」



その顔は妙に真剣だった。

レイルはリシアと目を合わせる。



「……これ、まだ続く?」

「おそらく……」



二人が小声で話していると、ガルムが三つ目の袋を取り出した。



「なら次はこっちだな」

「やっぱり!」



リシアが声を上げて笑った。

ガルムは早速、三つ目の香辛料を肉へ振りかける。



「ほら、冷めないうちに食べてみろ」

「……ガルム、まだ肉あるの?」


「当然だ。試すなら十分な量が必要だからな」

「最初からそのつもりだったんだ……」



レイルが呆れたように笑う横で、リシアはもう一切れ肉を皿へ取った。



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