↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

辺境伯への道



翌朝。


レイルたちは宿の部屋で地図を広げていた。

ラゼルに来てから、依頼所で仕事を受けたり、街の人から話を聞いたりしてきたが、魔素操者(エレメンタ)に関する手掛かりは得られていない。



「で、次はどこに行くの?」



レイルが地図を覗き込む。



「それを考えている」

「何か候補はないの?」

「今のところはな」



ガルムが地図に目を落とす。

周辺にはいくつもの町が記されているが、どこへ向かえばいいのか判断する材料がない。



「手当たり次第に回るわけにもいきませんよね」

「ああ。時間も金も無駄にはできん」



リシアが少し考えてから口を開く。



「もう少し情報を集めた方がいいでしょうか?」

「でも、この辺りではもう結構聞いたよね」



ガルムはしばらく地図を眺めていたが、やがて顔を上げた。



「なら、ダレスに相談してみるか」

「ダレスさん?」


「ああ。各地に知り合いがいると言っていただろう」

「そっか! 何か知ってるかもしれないね」



リシアも頷く。



「昨日も情報があれば教えてくださるとおっしゃっていましたしね」

「よし、じゃあ行ってみよう」



レイルは地図を畳み始めた。




◇




ダレス商会へ着くと、店内では数人の店員が商品の整理をしていた。

昨日よりは落ち着いているようで、奥ではダレスが帳簿を確認している。

三人の姿に気づくと、顔を上げた。



「おや、皆さん! 今日もいらしてくださったんですね」

「おはよう、ダレスさん」

「おはようございます。今日は何かお探しですか?」



レイルが答える。



「ちょっと相談があって」

「相談ですか。もちろん構いませんよ」



ダレスは帳簿を閉じ、近くの椅子を勧めた。



「どうぞ、お掛けください」



三人が腰を下ろすと、ダレスはふと思い出したように笑った。



「そういえば、昨日のイグニスフォックスのお肉はいかがでした?」

「すごく美味しかったよ!」

「それはよかったですね!」



レイルは隣のガルムを見る。



「でも、ガルムが香辛料を三種類も試し始めてさ」

「三種類ですか!」


「ああ。どれも悪くなかった」

「ほう。それは気になりますね。どんな香辛料を使われたんです?」



ガルムが昨日買った香辛料について話し始めると、ダレスも興味深そうに耳を傾けた。

レイルは二人の様子を眺めていたが、なかなか話が終わらない。



「……ずいぶん盛り上がってるね」

「そうですね」



リシアが小さく笑う。



「ガルム、そろそろ本題に入りませんか?」

「む、そうだったな」



ガルムが話を切り上げると、ダレスもレイルへ向き直った。



「それで、ご相談というのは?」

「あ、そうそう」



レイルは少し身を乗り出した。



「ダレスさん、魔素操者(エレメンタ)って知ってる?」

「魔素操者(エレメンタ)ですか? ええ、もちろん知ってはいますが……。お探しで?」


「うん。何か情報ない?」

「そうですね……。貴族や軍事関係者でないと、なかなか知り合う機会もないでしょうからね」


「だよね」



レイルが少し肩を落とす。


ダレスはこれまでの三人とのやり取りを思い返した。

ゲイルバードを討伐し、イグニスフォックスの群れも退けている。これだけの実力がありながら、特定の仕事に就くでもなく、若い二人とガルムの三人で各地を旅している。

以前から少し不思議な組み合わせだとは思っていたが、今度は魔素操者(エレメンタ)を探しているという。

ダレスは一度だけガルムへ目を向けた。


ガルムもこちらを見ていたが、特に何も言わない。

ダレスはそれ以上尋ねず、いつもの笑みを浮かべた。



「でしたら、一つご提案があります」

「何か心当たりがあるの?」


「以前お話しした、珍しい魔物の素材を集めている貴族の方を覚えていますか?」

「あの変わった趣味の人?」


「ええ。その方です。実は隣国のアルディス王国で、辺境伯を務めていらっしゃいまして」

「辺境伯?」



レイルが首を傾げる。



「国境近くの領地を治めている貴族の方ですよ」



リシアが横から補足した。



「へえ、そんな偉い人だったんだ」

「アルフォード・フォン・レーヴェン様という方で、レーンベルクという領地を治めていらっしゃいます」



ダレスが続ける。



「各地にお知り合いも多い方ですから、魔素操者(エレメンタ)についても何かご存じかもしれません」

「なるほど……」



ガルムが口を開く。



「その辺境伯とは、直接会えるのか?」

「私からご紹介することはできます。ただ、お会いいただけるかは先方のご都合次第ですね」



ダレスは続けた。



「それに、レーンベルクには他国からの商人も多く訪れます。さらに先の国へ向かうなら、現地で伝手を探すこともできると思いますよ」

「それは助かるね」



レイルが顔を上げる。

リシアも興味を示した。



「そこから別の国へ向かうこともできるんですね」

「ええ。商人の往来がありますから、移動手段にも困りにくいでしょう」



ガルムが頷く。



「悪くないな」



ダレスは少し笑う。



「実は、もう一つお話がありまして」

「まだあるの?」


「ええ。近いうちに、その辺境伯様のところへ商品を運ぶ予定なんです」

「そうなの?」


「はい。以前買い取らせていただいたゲイルバードの素材も、その時にお届けするつもりです」



レイルは思い出したように頷いた。



「ああ、あれか!」

「ええ。それで、もし皆さんのご都合がよろしければ、道中の護衛をお願いできませんか?」



三人は顔を見合わせた。



「護衛?」

「はい。今回は商品も多いので、腕の立つ方がご一緒してくださると大変助かるんです」



ダレスがガルムへ目を向ける。



「もちろん、報酬はきちんとお支払いします。目的地までの馬車もこちらで用意しますので」

「なるほどな」



ガルムが少し考える。



「出発はいつだ?」

「三日後を予定しています」


「商隊の規模は?」

「荷馬車が三台です。御者や商会の者も同行します。護衛は皆さんとは別に二名手配しています」



ガルムは頷いた。



「道中の危険については?」

「大きな問題は聞いていません。ただ、人通りが少なくなる場所もありますので」

「そうか。護衛が必要になる場面もあるだろうな」



ガルムはレイルとリシアへ目を向けた。



「二人はどう思う?」

「俺はいいと思う。目的地まで連れていってもらえるなら助かるし」

「私も賛成です。情報を集める機会にもなりそうですし」



ガルムが頷く。



「なら、引き受けるか」



レイルがダレスへ向き直った。



「俺たちでよければ引き受けるよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」



ダレスは嬉しそうに頭を下げた。



「皆さんがご一緒なら、私としても心強いです」

「こちらも助かるよ。次の行き先が決まったし」

「お互いにいいお話になりましたね」



ダレスが笑った。

ガルムは地図を取り出し、ダレスの前へ広げる。



「それで、目的地はどの辺りになる?」

「こちらですね」



ダレスはアルディス王国の一点を指した。

ラゼルから国境を越え、さらにその先へ伸びる街道。

レイルは指先を目で追った。



「結構遠いんだね」

「ええ。途中で何度か宿泊することになります」



ダレスは道中の町や休憩場所を説明していく。

ガルムも時折質問を挟みながら確認した。

ひと通り話がまとまったところで、ダレスが地図を畳む。



「では、三日後の朝にこちらへお越しください。出発の準備を整えておきます」

「分かった!」



レイルが立ち上がる。

リシアもダレスへ頭を下げた。



「色々とありがとうございます」

「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いいたします」



ダレスは三人を店の入口まで見送った。



「それでは、三日後にお待ちしております!」




◇




商会を出ると、レイルが大きく伸びをした。



「次の行き先、決まったね」

「ああ。出発までに準備を済ませておくぞ」



ガルムが答える。

リシアは少し考えながら歩いていた。



「辺境伯様が何かご存じだといいですね」

「そうだね。でも、知らなくても他の人を紹介してもらえるかもしれないし」



レイルが頷く。



「ダレスさんに相談してよかったね」

「ああ。人とのつながりは大事にしておくものだ」



ガルムがそう言うと、レイルは少し笑った。



「じゃあ、これからもいろんな人と知り合っていかないとね」

「そうだな」



三人は人通りの多い街を歩いていく。

出発まで、あと三日。

レイルはふと、通りの向こうに見える武器屋の看板へ目を向けた。



「……そういえば、まだ試したい武器があったんだよね」

「訓練なら付き合うぞ」


「本当? じゃあ明日、お願い!」

「いいだろう。相手してやる。覚悟しておけ」


「……そんな本気でやらなくてもいいんだけど」



ガルムが小さく笑う。



「レイルは武器のことになると元気ですね」

「せっかくだし、いろいろ試しておきたいんだ」



三人はそんな話をしながら、宿へ向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。