森の焦げ跡
ラゼルに滞在して数日。
レイルたちは朝に訓練をし、その後は依頼所で仕事を探す生活を続けていた。
荷物の運搬や採取、害獣退治。
大きな事件こそなかったが、レイルにとってはどれも村では経験しなかったことばかりだ。
訓練では槍だけでなく、剣や斧、棒なども少しずつ試している。
風の使い方についても、自分の動きを助けるだけではなく、相手や武器にどう使えるかを考えるようになっていた。
「これは場所が遠いな」
「その分、報酬は高いみたいですね」
「こっちは今日中に終わりそう」
「採取か」
レイルは掲示板に並んだ依頼書を、一枚ずつ見比べていた。
最初の頃よりも、場所や報酬、かかる時間まで考えて選ぶようになっている。
「少しは考えて選ぶようになったな」
「前から考えてたよ」
「そういうことにしておくか」
「絶対信じてないよね」
ガルムは気にする様子もなく掲示板を見る。
その横で、リシアが一枚の依頼書へ目を留めた。
「これはどうですか?」
ルーゼの森近くで採れる薬草の納品依頼だった。
場所もそれほど遠くない。
必要な量も多くはなく、今日中には終わりそうだ。
「これなら良さそうだね」
「ああ。今日はそれにするか」
依頼書を持って受付へ向かう。
いつもの男が内容を確認すると、少しだけ表情を変えた。
「ルーゼの森の近くへ行くんですね」
「ああ」
「最近、あの辺りで小さな焦げ跡が何度か見つかっているんです」
「焦げ跡?」
レイルが首を傾げる。
「火事でもあったの?」
「そこまで大きなものではないんです。焚き火の跡かもしれませんし、今のところ被害も出ていません」
ガルムが少し考える。
「前に酒場で、ルーゼの森の奥から煙が上がっていたという話を聞いたな」
「それと関係あるのかな?」
「まだ分からん」
受付の男もうなずく。
「一応、気をつけてください」
「分かった」
手続きを終え、三人は依頼所を後にした。
◇
ルーゼの森までは、ラゼルから歩いてしばらくかかる。
依頼の薬草が生えているのは森の中ではなく、その手前に広がる草地だった。
三人は依頼書に描かれた薬草の特徴を確認しながら探していく。
「これかな?」
レイルが一本の草を摘む。
リシアが隣から覗き込んだ。
「違いますね」
「え、違うの?」
「葉の形が違います」
「ほとんど同じじゃない?」
「全然違いますよ」
レイルは手に持った草と、依頼書に描かれた薬草を交互に見る。
「……同じに見える」
「ちゃんと見てください」
リシアが苦笑する。
少し離れたところでは、ガルムも草を見ていた。
「ガルム、これは?」
「違う」
「じゃあこれ」
「それも違う」
レイルが別の草を摘む。
ガルムはそれを手に取り、葉を指で軽く擦った。
「ただ、これは煮込みに使うと香りが立つ」
「今は薬草探してるんだけど」
「分かっている」
「持って帰るんでしょ?」
「少しな」
ガルムは当然のようにその草を別の袋へ入れる。
リシアが小さく笑った。
「こういうことは本当に詳しいですよね」
採取を続けているうちに、少しずつ必要な量が集まっていった。
レイルも何度か間違えながら、ようやく薬草の特徴を覚え始めた頃だった。
「……ん?」
レイルが足を止める。
少し先の地面が黒くなっている。
近づいてみると、草が焼け焦げていた。
「これかな。依頼所で言ってたの」
リシアも隣へ来る。
「焚き火の跡でしょうか?」
ガルムがしゃがみ込み、焦げた地面を見る。
範囲はそれほど広くない。
周囲へ燃え広がった様子もなかった。
「どうだろうな」
ガルムが焦げた草を指で触る。
「でも、薪とか炭はないね」
「ああ」
レイルが周囲を見回す。
少し離れた場所にも、小さく黒くなった草があった。
「あっちにもある」
「一か所だけじゃないんですね」
三人で近づいて確認する。
やはり似たような焦げ跡だった。
焚き火にしては小さい。
だからといって、何が原因なのかまでは分からない。
「何だろう」
「今ここで考えても分からんな」
「調べる?」
「まずは依頼を終わらせるぞ」
ガルムが立ち上がる。
「そのあと依頼所で話を聞く。似たようなものが他でも見つかっているなら、何か分かるかもしれん」
「分かった」
レイルは焦げ跡をもう一度見る。
気にはなる。
だが今は、依頼を終わらせるのが先だ。
三人は採取へ戻った。
◇
しばらくして、必要な量の薬草が集まった。
ラゼルへ戻り、依頼所で受付へ袋を渡す。
男が中身を確認していく。
「はい。これだけあれば十分です」
「じゃあ依頼達成?」
「ええ。お疲れ様でした」
報酬を受け取ったあとも、三人はその場を離れなかった。
ガルムが受付の男へ話しかける。
「一つ聞きたい」
「何でしょう?」
ガルムは今日見つけた焦げ跡について説明した。
一か所だけではなかったこと。
焚き火にしては小さく、薪や炭の跡も見当たらなかったこと。
話を聞いていた受付の男が、少し眉を寄せる。
「またですか」
「他にもあるのか?」
男はうなずいた。
「ここ数日で何件か報告があります。場所も少しずつ違います」
「全部ルーゼの森の近く?」
「今のところは、その辺りですね」
レイルが身を乗り出す。
「何かの魔物だったりしないの?」
「可能性はあります。ただ、まだ何とも言えません」
「人や家畜が襲われたって話は?」
「今のところありません」
ガルムは少し考えた。
「一度、もう少し調べた方がいいかもしれんな」
「私もその方がいいと思います」
リシアもうなずく。
「なんか気になるんだよね」
「その感覚は大事だ」
ガルムがレイルを見る。
「何もなければそれでいい。一度調べてみるか」
「うん」
受付の男も少し安心したような顔をする。
「もし何か分かったら、こちらにも教えていただけると助かります」
「ああ」
依頼所を出る。
レイルは歩きながら、ルーゼの森がある方角へ目を向けた。




