↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

イノシシ狩り



翌朝。

レイルとリシアは、ガルムと並んで掲示板に貼られた依頼書を眺めていた。


荷物の運搬。

薬草や木の実の採取。

害獣や小型の魔物の討伐。


内容は様々だ。



「本当にいろんな依頼があるんだな」



レイルが一枚ずつ目で追っていく。



「町の人間が持ち込んだ仕事だからな。毎日同じとは限らない」

「受けたいのがあったらどうするの?」


「受付に持っていく。受理されたら依頼をこなして、終わったら報告だ」

「それで報酬がもらえるんですね」



リシアが尋ねると、ガルムがうなずいた。



「採取なら持ち帰った数。討伐なら倒した数で報酬が変わるものもある」

「なるほど」



レイルは再び掲示板を見る。


その視線が、一枚の依頼書で止まった。



「これ、昨日言ってたやつじゃない?」



ラゼル北側の農地に出るイノシシの討伐依頼だった。


畑を荒らすイノシシを討伐し、一頭につき牙を一本持ち帰る。

その牙が討伐の証明になるらしい。



「一頭ごとに報酬が出るんだ」

「ああ」



レイルは依頼書の下へ目をやる。



「まだ誰も受けてないみたいだね」

「ならちょうどいい」



ガルムが答える。

レイルは少し考えてから、依頼書を掲示板から外した。



「これにしよう」

「いいんじゃないですか?」



リシアも隣から内容を確認する。



「じゃあ決まりだね」



受付で手続きを済ませると、三人はラゼルの外へ向かった。




◇




依頼のあった農地は、ラゼルから歩いてそれほどかからない場所にあった。

畑の端では土が大きく掘り返され、いくつかの作物も倒されている。


依頼主の男によると、数日前からイノシシが何度も現れているらしい。



「最初は夜だけだったんだが、最近は昼間にも出るようになってな」

「何頭くらいいるんですか?」



リシアが尋ねる。



「おそらく三頭はいるだろう。もっといるかもしれん」

「出てくるのはあっちか?」



ガルムが畑の先にある林を指す。



「ああ。だいたいあの辺から来る」



話を聞いた三人は、畑の外れでしばらく様子を見ることにした。


それほど待たずして、草むらが大きく揺れた。



「来た」



そう言ってレイルは槍を構えた。


もちろん、ガルムが土で作った槍だ。

昨日、店で見たものを真似て作ってもらったものだ。



一頭のイノシシが姿を現した。



かなり大きい。


こちらに気づくと、鼻を鳴らしながら前足で地面を掻いた。



「レイル」



ガルムが声をかける。



「分かってる」



今回は、まず槍そのものを試したい。

レイルは風を使わず、その場で相手の動きを待った。



イノシシが地面を蹴る。


一気に距離が縮まった。


レイルは槍を突き出す。


穂先が肩口へ入った。



「よしっ」



そう思った直後。

イノシシは勢いをほとんど落とさず、そのまま突っ込んでくる。



「うわっ!」



レイルは慌てて横へ飛んだ。

すぐ近くをイノシシが走り抜けていく。



「全然止まらないじゃん……。もう少し効くと思ったんだけどな」



イノシシが向きを変える。


レイルは槍を握り直した。

今度は正面から止めようとせず、少し横へずれて突き出す。



穂先が脇腹へ刺さる。


すぐに引く。


先ほどよりも動きやすい。


もう一度。


さらにもう一度。


何度か攻撃を繰り返し、ようやくイノシシが倒れた。



「ふぅ……」



レイルは槍を見下ろす。


剣よりも遠い場所から攻撃できる。


そこは思っていた以上に使いやすい。


反面、長さがあるせいか、向きを変えるだけでも剣とは感覚が違った。

扱うにも力がいる。



「どうだ?」



ガルムが近づいてくる。



「離れて攻撃できるのは安心感あるね。でも剣より難しいや」

「得物が大きいほど扱いは難しくなるからな」



レイルは苦笑しながら、もう一度槍を眺めた。


ガルムは倒れたイノシシから牙を一本抜き取る。



「これでまず一頭」

「本当に牙だけでいいんだ」



レイルがそう言い終わると同時に、少し離れた草むらから物音がした。



一頭。


その後ろからもう一頭。



「今度は二頭か」



レイルが槍を構える。


先ほどと同じように戦おうとして、ふと考えた。



一頭目では槍だけを使った。


なら今度は。



「……風も使ってみるか」



足元に風を集める。



先に一頭が突進してきた。


その瞬間、レイルは風で身体を横へ押し出した。



「おっ」



一気にイノシシの横へ回り込み、そのまま槍を突き出す。


先ほどよりも余裕がある。


すぐに槍を引き、距離を取る。



「やっぱり風使うと戦いやすいな」

「悪くない。そのまま続けろ」


「わかった」

「来るぞ」



今度はもう一頭が走ってくる。


レイルは槍を構えながら、その動きを見た。


そこで少しだけ考える。



これまでは、自分の動きを助けるために風を使ってきた。


なら、相手に使ったらどうなる。


試してみるか……



「せーのっ!!」



レイルはイノシシの横から風をぶつけた。


イノシシの身体がぐらりと傾く。



「お?」



突進の向きが外れ、勢いも鈍った。


その隙に槍を突き込む。



「今の、ずらせたよね?」

「ああ」


「結構使えるかも」

「油断はするな。もう一頭来るぞ」


「あ」



横から迫っていた一頭に気づき、レイルはすぐに風で自分の身体を動かす。


間一髪でかわした。


ガルムが少し笑う。



「考えるのはいいが、周りも見ることだな」

「油断大敵ってやつだね」



レイルは槍を構え直した。


そこからも、少しずつ風を操りながら戦った。



自分の動きを速くする。


相手に風をぶつけ、体勢を崩す。


槍を突き出す時には、その動きに合わせて風を乗せてみる。



一頭目の時とは、明らかに戦いやすさが違った。


二頭を相手にしていても、それほど手間取ることなく攻撃を重ねていく。



やがて最後の一頭が倒れた。



「ふぅ、終わった……」



槍の石突きを地面につき、息を吐いた。



ガルムが牙を回収する。


三本。



「これで三頭だな」



レイルは槍を眺めたまま、その場に座り込んだ。



「結構面白いな」

「槍がか?」


「槍もだけど、風の使い方」



レイルは片手を開く。



「今までは、自分を動かしたりするのに使ってただけだったからさ。相手に直接ぶつけても結構使えるんだね」

「なるほどな」


「もっと強くしたら、それだけでダメージを与えられたりするかな」

「できるかもしれないな」



レイルは槍を見つめる。



「槍に風を乗せるのも使えそうだし、もっと色々できそう」



今までは、自分の動きを助けるために風を使うことばかり考えていた。


だが、相手にも使える。

武器にも使える。


考えてみれば単純なことだが、実際に試してみると戦い方はずいぶん変わった。



「あと……槍も悪くないけど、もっと速く動くのを活かした方がいい気がする」

「確かにな。単純な力比べはレイルには向かないだろう」


「うん。イノシシみたいなタフな相手だと、俺の力じゃ押し切れないのがよく分かった」



レイルは少し考える。



「だったら、速さを使ったり、もっと風を使ったり……色々試してみるよ」

「そうするといい」



レイルは腰の袋から、リシアにもらった小さな帳面を取り出した。



今日分かったことを書き込んでいく。


槍は遠くから攻撃できる。


長い分、動かしにくい。


風で動けば距離を取りやすい。


相手にも風を使える。


武器にも風を使える。



書き終えると、レイルは満足そうに帳面を閉じた。



「次は何の武器試そうかな」




◇



依頼所へ戻ると、三本の牙を受付へ渡した。


受付の男が一本ずつ確認していく。



「三頭ですね。お疲れ様でした」

「これで依頼達成?」


「はい。こちらが報酬です」



用意された金を受け取る。


レイルは手のひらに乗った硬貨をしばらく眺めた。



「……なんか嬉しいな」

「初めて仕事で稼いだお金ですからね」



リシアも少し嬉しそうだ。



「使い切るなよ」



ガルムが言う。



「そこまで子供じゃないよ」

「どうだかな」


「信用ないなあ」



依頼所を出たところで、リシアがふと思い出したようにガルムを見る。



「そういえば、イノシシは農家の方が引き取ってくれたんですよね?」

「ああ」


「でも一頭分、少しお肉を分けてもらっていましたよね」

「向こうから持っていくかと聞かれたからな」


「三頭分は多いもんね」

「だから今日の晩飯はこれだ」


「やったー」



ガルムは少し考える。



「この前買った香辛料も試せるな」



レイルとリシアが顔を見合わせた。



「すごく楽しそうな顔してる」

「意外と上機嫌なのわかりやすいですよね」


「なんだ?」

「なんでもなーい」


「ふんっ」


そう言いながらも、ガルムはどこか楽しそうに笑っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。