自分好みの武器
翌朝。
朝食を終えたレイルは、ガルムに声をかけた。
「ガルム、今日武器屋に行ってみたいんだけど」
「武器屋?」
「昨日、リシアと歩いてた時に見つけたんだ。結構大きそうな店でさ」
それを聞いたリシアが、少し驚いた顔をする。
「昨日行きたかったなら、言ってくれればよかったじゃないですか」
「いや、あまりにもリシアが楽しそうだったから」
「でも、私ばかり行きたいところを回ってしまって申し訳ないですよ」
「別にいいよ。昨日は昨日で楽しかったし」
リシアは一瞬黙ったあと、少し笑った。
「では、今日は私が付き合いますね」
「昨日付き合わされたと思ってないよ?」
「私もですよ。ただ、一緒に見に行きたいだけです」
「そっか。じゃあ一緒に行こう」
レイルが笑う。
ガルムも特に反対する様子はなかった。
「ちょうどいい。お前にはこれから、いろいろな武器を試させるつもりだったからな」
「そういえば、そんなこと言ってたね」
「いろいろ見て、参考にするといい」
「じゃあ今日は武器屋だ」
どんな武器があるのだろう。
考えただけで、少し楽しみになってきた。
◇
武器屋は、大通り沿いにあった。
入口の上には、剣と槍を交差させた大きな看板が掲げられている。
「ここだ」
レイルは少し早足で店に駆け寄り、扉を開けた。
「……おお」
思わず声が漏れた。
壁一面に、見たことのないほど多くの武器が並んでいる。
剣。
槍。
斧。
弓。
盾。
剣だけでも何種類もあり、長さや太さ、形がそれぞれ違う。
細身のものもあれば、刃幅が広く、両手で持たなければ振れそうにないものもある。
その他にも、一目見ただけではどう使うのか分からないような武器まであった。
「こんなに種類あるんだ……」
村にいた頃、武器をじっくり見る機会などほとんどなかった。
強いて言えば、狩りで使っていた弓や小さなナイフくらいだ。
それらもレイルにとっては、獲物を仕留めるための道具だった。
きれいに並べられた武器を眺めるのは初めてで、なんだか胸が躍る。
レイルは早速、壁に掛けられた一本の剣に目を留めた。
「これ格好いい!」
「片手剣だな。片手で扱える分、動きやすい」
「へえ。使いやすそうだな」
すぐ隣には、ひと回り大きな剣がある。
「こっちもいいな!」
「両手剣だ。両手で振る分、威力を出しやすい」
そのまま隣へ移る。
「うわ、これいかつい!」
「戦斧だ。振り下ろした時の威力は高いが、剣と同じ感覚では扱えん」
「これも格好いいな……」
さらにその先へ進む。
「レイル、さっきから全部格好いいって言ってませんか?」
リシアが笑う。
「だって格好いいだろ?」
「そうですか?」
「そうだよ!」
レイルはそう言いながら、もう次の武器へ目を向けていた。
昨日の服屋のときのリシアとは、完全に立場が逆だった。
「レイル、すごく楽しそうですね」
「昨日のリシアには負けるよ」
「絶対、私よりはしゃいでますって」
「リシアの方がすごかったって」
「そんなことありません」
おそらく、どちらも似たようなものなのだろう。
そんな二人を横目に、ガルムが声をかける。
「レイル」
「なに?」
「気になる武器があるなら、よく見ておけ」
「なんで?」
「形だけなら、似たものを俺が作ってやる」
レイルの目が輝く。
「ほんとに?」
「ああ」
「じゃあ、これと……さっきの戦斧も! あと両手剣も試したいな」
「待て待て」
「何?」
ガルムが呆れたようにレイルを見る。
「はしゃぐ気持ちも分からなくはないが、適当に選ぶんじゃない」
「でも、いろいろ試せって言ったのはガルムじゃん」
ガルムは並んだ武器へ視線を向ける。
「武器選びは自分の命にも関わるぞ」
「大げさじゃない?」
「不慣れな武器が原因で動きが鈍って、命を落とすこともある。わかるだろう?」
「それはそうだけど……」
「特に魔素操者にとって、武器選びは重要なんだ」
「そうなの?」
「ああ。自分の戦い方に合うものを見つけることが大切になる」
「ふーん」
レイルは空返事をしながら、すでに別の武器を眺めていた。
今は難しい話より、目の前に並ぶ武器の方が気になって仕方がない。
少し進んだところで、大きく湾曲した刃が目に入る。
「ガルム、これ何?」
「ショーテルだな」
「ショーテル?」
「ああ。湾曲した刃を使う剣だ。盾や守りの向こう側を狙うような使い方もできる」
「そんなことできるんだ」
レイルは横から覗き込むように刃を見る。
「形がすごいな……これも格好いい」
「また増えましたね」
「だって見たことないんだから仕方ないだろ」
知らない武器。知らない戦い方。
それを知るだけでも面白かった。
◇
店の奥には、背丈ほどもある武器が並んでいた。
「……長いな」
レイルは一本の槍を眺める。
「剣よりずっと遠い間合いから攻撃できそう」
「それが槍の利点の一つだからな」
「じゃあ強そうじゃん」
「その分、懐に入られれば扱いづらい。狭い場所にも向かん」
「なるほど」
長ければ強い、というほど単純でもないらしい。
しばらく槍を眺めていたレイルが、ふと眉を寄せた。
それに気づいたリシアが顔を覗き込む。
「どうしました?」
「格好いい武器が多すぎてさ。試したいやつ、忘れちゃいそう」
「ふふっ。そんな悩みだったんですか」
「結構大事だよ」
リシアは少し考えてから、自分の荷物へ手を伸ばした。
「それなら、これから試したい武器があったらメモしておくのはどうですか?」
「メモ?」
「はい。気になったものを書いておけば、後で忘れませんよ」
「それいいね!」
リシアは小さな帳面を取り出した。
「これをどうぞ。差し上げます」
「いいの?」
「普段、何か書き留めたい時のために持っているんですけど、まだほとんど使っていませんから」
「でも、リシアが使うんじゃないの?」
「また買えばいいですから」
差し出された帳面を、レイルは嬉しそうに受け取る。
「じゃあ、もらっていい?」
「どうぞ」
「ありがとう。大事に使うよ」
早速、最初のページを開く。
『試したい武器』
そう書いて、その下へ気になった武器の名前を並べていった。
満足そうに眺めていると、ガルムが横から帳面を覗き込んだ。
「名前だけじゃなく、特徴や大きさも書いておけ。できれば簡単な絵もな」
「絵も?」
「ああ。俺が作る時に、形が分かった方がやりやすい」
「なるほど」
ガルムが軽く笑う。
「お前がどの武器を気に入ったかなんて、いちいち覚えていられんからな」
「そりゃそうだ」
ガルムは近くに並ぶ槍を指した。
「それに、店にある形をそのまま使う必要もない」
「そうなの?」
「ああ。例えばこの槍を使ってみて、柄をもう少し長くしたいとか、穂先の形を変えたいとか思ったら、それも書いておけ」
「そんなに変えていいんだ」
「練習用だからな。試したい形があるなら作ってやる」
レイルの顔が明るくなる。
「じゃあ、気になった武器をメモして、変えてみたい形があったら絵にしてみる!」
「奇抜にしすぎるなよ」
「分かってるって」
使いやすくて、格好いい。
できるなら、そんな自分だけの武器にしたい。
考えただけで、また帳面に何か描きたくなってくる。
レイルは早速、空いているところに線を引いた。
槍を真似して長い柄を描き、その先に穂先をつける。
そこから少し考え、刃を大きくしてみた。
「……こんな感じ?」
リシアが横から覗き込む。
「魚ですか?」
「武器だよ!」
「こちらが尾びれでしょうか」
「刃!」
リシアが絵をじっと見る。
「でも、さっきの槍とは随分違いますね」
「早速いろいろ考えてみようと思って」
「なるほど」
レイルは少し描き直す。
「絵も、そのうちもっと上手くなるから」
「どんな魚になるか楽しみにしておきますね」
「……」
「冗談です」
リシアが楽しそうに笑う。
「絶対格好いいの作ってやる!」
◇
店を一通り見て回ったあと、三人は外へ出た。
レイルは歩きながらも、もらった帳面を何度も開いている。
「それで、次の訓練ではどれを試すんだ?」
ガルムに聞かれ、レイルは帳面を見返した。
少し迷ってから、一つを指さす。
「そうだな……次は槍かな」
「槍か」
「うん。前は剣だったし、全然違う方が分かりやすそう」
ゲイルバードとの戦いでは、相手との距離を取りながら戦うことが多かった。
長い武器なら、剣とはまた違う動きができそうだ。
「いいだろう。明日の訓練で作ってやる」
「やったね」
明日の訓練が楽しみになってきた。
そんなレイルに、ガルムが付け加える。
「一つ言い忘れていたが、武器が変われば構えも体の使い方も変わる。当然、覚えることも増えるぞ」
「……結構大変?」
「当然だ」
「……が、がんばるよ」
さっきまでの勢いが、ほんの少しだけしぼむ。
それでもレイルは、リシアからもらった帳面を大事そうに閉じたのだった。




