↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/27

リシアの力



「今日はこの辺りで野営だな」

「ここで?」


「もうじき日も落ちるし、その身体では歩いて帰れないだろう」

「……確かに。ちょっと厳しいかも」



レイルは自分の脚を見ながら言った。



「だが森の中は避ける。少し街道側へ戻って、安全な場所を探すぞ」

「分かった」



ガルムは倒れたゲイルバードを見る。



「先に行って準備していろ。俺はこいつの処理をしていく」

「処理?」


「素材になる部分を持って帰るために捌く」

「売れるんだっけ」


「ああ。ゲイルバードは売れる部位が多いぞ」

「ならよかった。じゃあ、処理はよろしく」


「じゃあ私たちは、先に食事の用意をしておきますね」

「ああ、頼む」



そう言ってガルムがゲイルバードのもとへ向かおうとした時だった。



「ガルム」



リシアが呼び止める。



「どうした」

「レイルの治療をしてもいいですか」



リシアはレイルの方を見る。

ガルムは少し考えた後、周囲へ視線を向けた。



「……警戒は怠るな」

「はい。ありがとうございます」



そうして、レイルとリシアは先に森を出た。




◇




森から少し離れたところに、街道からも外れた開けた場所があった。


周囲に人の気配もない。

二人は、そこで野営の準備をすることにした。



「じゃあ、野営の準備しようか」

「レイル。その前に治療をしましょう」


「大丈夫だって。血ももうそんなに出てないし」

「そういう問題ではありません」



珍しく強い口調だった。


リシアがレイルの前に膝をつく。

傷のある腕へ手を伸ばした。



「少しじっとしていてくださいね」



リシアが小さく息を吸う。

その手のひらから、淡い光が漏れた。



「……え?」



柔らかな光がレイルの腕を包み込む。


温かい。

痛みが少しずつ薄れていく。


そして、裂けていた皮膚がゆっくりと閉じていった。



「傷が……」



やがて光が消える。


完全に傷が消えていた。



「…………」



レイルは自分の腕を見る。

それから、リシアを見る。



「……今の何?」



リシアは少し困ったように笑った。



「私も魔素操者(エレメンタ)なんです」

「…………」



しばらく頭が止まった。



「え?」



もう一度、自分の腕を見る。

そして、リシアを見る。



「リシアも!?」

「はい」


「ガルムだけじゃなかったの!?」



リシアが申し訳なさそうに笑う。



「黙っていて、すみません」

「でも、なんで昨日ガルムと一緒に教えてくれなかったの?」


「ガルムに止められていたんです」

「ガルムに?」


「はい」



リシアは治ったレイルの腕を見る。



「私が傷を治せると知ったら、レイルが魔物との戦いで無意識に油断するかもしれないから、と」

「…………」



言われて、レイルは今日の戦いを思い返す。


ゲイルバードの爪を避けきれず、何度も傷を負った。

もし最初から、あとで治してもらえると知っていたら。


少しくらいなら傷ついても大丈夫だと、どこかで考えていたかもしれない。



「……否定できないな」

「でしょう?」


「なんでちょっと嬉しそうなの」

「あはは」



リシアが小さく笑う。



「それだけではありません」

「まだあるの?」


「はい」



リシアは自分の手のひらを見る。



「私の力は、四大元素のどれにも当てはまらない、『聖』という属性なのです」

「聖?」


「はい」

「どんな属性なの?」


「私にも、傷を癒す力だということくらいしか分かっていません。『聖』という名前も、古い文献に残されていたものです」

「そんなに珍しいの?」


「古い記録によれば、数代に一人程度だそうです」

「そんなに!?」



思わず声が大きくなる。

リシアが慌てて口元に指を立てた。



「レイル」

「あ、ごめん」



レイルも慌てて声を落とす。

リシアは周囲を確認してから続けた。



「ですから、この力についても、できるだけ知られない方がいいのです」

「……珍しいから?」


「それもあります」



リシアが頷く。



「私は王女ですから。ただでさえ身分を知られれば、利用しようとする人もいます」

「うん」


「それに加えて、珍しい力まで持っていると知られれば……」

「もっと面倒なことになるね……」


「はい」



レイルは少し黙った。

王女という身分。


そして、数代に一人とも言われる珍しい力。

どちらか一つでも厄介そうなのに、リシアはその両方を持っている。



「じゃあ、これも他の人には言わない方がいいんだね」

「お願いします」



レイルはすぐに頷いた。



「分かった。リシアが王女だってことも、この力のことも、勝手に誰かに話したりしない」

「ありがとうございます」



リシアが少し安心したように笑う。



「まあ、隠し事には慣れてるし」

「確かにそうですね」



今度は二人で笑った。



「でも」



レイルは、もう一度治った腕を見る。



「そんなに秘密にしないといけないのに、俺には見せてよかったの?」



リシアは少しだけ目を細めた。



「もう、一緒に旅をする仲間ですから」

「…………」



予想していなかった言葉に、レイルは少し照れくさくなった。



「そっか」

「それに」



リシアが続ける。



「目の前で怪我をしているのに、治せるのに何もしないのは嫌でした」

「リシアらしいな」


「そうでしょうか?」

「なんとなく」



リシアがくすりと笑う。



「今の私では、小さな傷を治す程度ですけどね」

「十分すごいじゃん」



リシアは少し真剣な表情になる。



「深い傷や、失った手足まで元通りにできるわけではありません。ですから……」



リシアがレイルを見る。



「この力を知ったからといって、無茶はしないでくださいね」

「……はい」



妙な迫力があった。



「では、他の傷も見せてください」

「え?」


「腕以外もあるでしょう?」

「さっきのところだけで大丈夫だよ?」


「駄目です」

「はい……」



結局、腕だけでなく頬や脚の傷まで治されることになった。

最後の傷を治し終える頃には、リシアの額に薄く汗が浮かんでいた。



「リシア、大丈夫?」

「これくらいなら平気です」



そう言うものの、少し疲れているように見える。

やっぱり、便利なだけの力ではないらしい。




◇




治療が終わった頃、ガルムが戻ってきた。


手にはゲイルバードから取った素材を持っている。



「終わったぞ」

「何取れたの?」


「爪と嘴、羽だ。それと、食べられる部分の肉も持ってきた」



ガルムは素材を荷物のそばへ置く。



「素材は全部売れば、10万ルク近くにはなるだろう」

「10万!?」



思わず身を乗り出す。



「そんなにするの!?」

「市民が簡単に倒せるような魔物じゃないからな」


「じゃあ、魔物いっぱい倒したら結構稼げる?」

「ああ。だが、あまり調子に乗ると痛い目を見るぞ」

「分かってるよ」



ガルムはゲイルバードの肉を持ち上げる。



「じゃあ、早速これを食べるか」

「待ってました!」


「お腹すきましたもんね」




◇




三人は焚き火を囲んでいた。

ゲイルバードの肉は、想像以上に美味かった。


ほどよい歯ごたえ。あふれる肉汁。

ぜひまた食べたい。


レイルはぐーっと身体を伸ばす。

傷はほとんど痛まない。

けれど。



「……やっぱり身体重い」



脚に力が入りにくい。

全身がだるい。



「傷は治ったのに」

「私の力が癒すのは傷だけですから」



ガルムが焚き火へ薪を放り込む。



「魔素を扱うために消耗した力まで戻るわけではない」



レイルは自分の手を見て、風を起こそうとする。

ほんの少しだけ空気が動いた。



「……まだ全然だ」

「今日はもう使うな。休めばまた使えるようになる」

「分かった」



初めて知った自分の限界。

力があるからといって、いくらでも使えるわけではない。



「こんな感じで旅を続けていくんだね?」

「はい。魔素操者(エレメンタ)らしい噂があれば、これからも確認しに行くつもりです」



「今回みたいに魔物だったら?」

「その時は、可能であれば討伐します。理由は三つあります」



リシアは指を一本立てる。



「まず、本当に魔素操者(エレメンタ)が関係していないか確認するためです」



二本目。



「それから、周辺に暮らす人や街道を通る人たちの安全のため」



そして、三本目。



「素材を売れば、旅のお金になります」

「最後だけ急に現実的だな」


「大事なことですよ。旅にはお金が必要ですから」



リシアが微笑む。



「今回は魔素操者(エレメンタ)は関係ありませんでしたが、あのゲイルバードがいなくなったことで、あの街道を通る人たちは少し安全になりました」

「…………」


「私たちもお金を稼げましたし」



レイルは少し考える。


自分が倒したわけではない。

最後に倒したのはガルムだ。

それでも。



「俺、役に立てた?」



リシアは一瞬だけ目を丸くする。

それから笑った。


「はい、もちろんです」

「最後はガルムだったけど」


「それでもです」



悪い気はしない。

少しくらいは、誰かの役に立ったらしい。


レイルは焚き火を見る。



「……やっぱり」

「何ですか?」



レイルは少し笑った。



「村を出てよかったかも」



リシアは少し驚いたようにレイルを見る。

そして。



「はい」



静かに笑った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。