第8話 土曜日のスペシャル
朝の8時くらいだった。太陽はもうすっかり昇っていて、道には人が歩いていた。もう一度スマホを確認する。
松田和樹:「今週の土曜日、どっか行かない?」 中村海斗:「街のスポーツアーケードとか行けるよ」 松田和樹:「マジで?最高じゃん!カラオケとか言うかと思った……」 中村海斗:「は?お前、俺が歌うの死ぬほど恥ずかしがるって知ってるだろ」 松田和樹:「そういや前歌った時、耳元で悪魔が叫んでるみたいだったな……」
――こいつら、ずっと喋ってそうだな……
スクロールしていく。あ、ここで早坂さんと如月さんが会話に入ってきた!
早坂彩音:「なんであたしたちこのグループチャットにいるの?」 松田和樹:「友達ってやつだよ、な?」 早坂彩音:「いや、教室で話すのは話すけど、まさかここに追加されるとは思わなかった。てか、葵ちゃんどうやって入れたの?」 松田和樹:「あの日、教室で四人に話した時、葵ちゃんが行きたいって言ってて。それで彼女があんたを追加したんだよ」 佐藤蓮:「てか、いつそれ話してたの?」 如月葵:「新聞部の子に連れて行かれてた時だよ」 佐藤蓮:「それ、怒ってる?」 如月葵:「怒ってない!!!」 如月葵:(怒りスタンプ) 早坂彩音:「うわ、葵ちゃんひさしぶり!!!」 如月葵:「ひさしぶりー、彩音ちゃん!」
さらにスクロール。
松田和樹:「決まりだな、今週の土曜、スポーツアーケードで!」 中村海斗:(親指サムズアップスタンプ) 如月葵:(親指サムズアップスタンプ) 早坂彩音:(親指サムズアップスタンプ) 佐藤蓮:(親指サムズアップスタンプ)
――そして、今。
僕は建物の前に立っていた。友達と遊ぶために。こんな風に誰かと遊ぶのは、中学に上がって以来だった。
ふと、記憶の断片が頭をよぎった。
大きな学校の屋内バスケコートだった。観客席があって、いかにも名門校らしい雰囲気で、人が行き交っていた。黒い髪をツンツンにした男の子が、僕に声をかけてきた。
「蓮くん、こっち!」
彼がボールをパスしてきた。僕がそれを受け取ると、別の男の子が走り寄ってきた。
「シュートしろ!」
僕はボールを放った。それは空中を飛んでいった。
「よっしゃあ!」
――現実に引き戻された。
僕は黒いバギーの日本製デニムに、黒のシャツを着ていた。フラットシューズを履いて、ミニリュックを背負っていた。眼鏡は黒くて、少し分厚い丸眼鏡だった。松田くんの声が耳に響いた。
「よお!佐藤くん!」
彼は中村くんと一緒に歩いてきていた。
松田くんはグレーのスウェットパンツに、黒のTシャツ。中村くんはゆったりしたダークネイビーのジーンズに、グレーのTシャツを着ていた。
「他のやつらも、もうすぐ来るぞ!」
如月さんと早坂さんも近づいてきていた。如月さんは柔らかい笑みを浮かべていて、早坂さんは嬉しそうだった。如月さんは、素敵なチェック柄のスクエアネックのブラウスに、青いゆったりしたフレアジーンズを合わせていて、早坂さんは黒のゆったりしたジーンズに、赤いVネックのブラウスを着ていた。
早坂さんが先に口を開いた。
「ほら、早く中入ろ!」
如月さんが僕を見た。
「何ぼーっとしてるの?」
彼女は僕の隣に立って、二人でそのまま中へ入った。
まずアーケードに行って、レースゲームで遊んだ。すぐに自分がとんでもなく下手だと気づいた。
「うわあああ!!佐藤くん、ビリ!?!?」
如月さんはショックを受けたような顔をしていた。
「そ、それが何か!?!?!」
僕は逆に、ものすごく恥ずかしかった。
「こういうゲーム、慣れてないだけだから!」
彼女は少し笑って、僕の髪をくしゃっと撫でた。
「わかるよ、バカだなあ」
二人でしばらく固まった後、彼女はさっと手を引っ込めた。
「あ――ごめん――」 「い、いや……大丈夫……」
早坂さんは松田くんの前で祝勝ムード全開だった。
「一位ー!ざまあみろー!」 「ぐわあああ!!めっちゃ惜しかったのに!バナナで滑ったんだよ!」 「はいはい。下手って素直に言いなよ」 「ぐぬぬ……」
中村くんが二人を仲裁しようとしていた。
「まあまあ落ち着けって……松田、あっちのモグラ叩きやってみろよ……お前ならワンチャンあるかも」
松田くんと早坂さんは、モグラ叩きゲームに向かって走っていって、そのまま本気で叩き合っていた。
如月さんは早坂さんを、まるで何か大切なものでも見るような目で見つめていた。
「彩音ちゃんがあんな風に笑うの、久しぶりに見た気がする……」
僕は彼女のほうを見た。
「何があったの?」
「正直、いろいろ複雑なんだけど、あたしも関係してるっていうか。あれから、彩音ちゃんはずっとあたしにべったりで。あの笑顔、本当に久しぶりに見た……」
早坂さんに目をやると、彼女は笑っていて、楽しそうだった。松田くんは地面に拳を叩きつけていた。
「なんか、俺、恵まれてるなって思うようになってきた」
如月さんが不思議そうな顔で僕を見た。
「え?」
「うん。これまで、こんな風に出かけたこと、たぶんなかったんだ。父さんが、家の近くにいて、あまり遠くに行かないようにって言ってたから」
「うわ……それ、退屈だったんじゃない?」
「まあ……その通りだよ。時々退屈だったのは事実。でも、いつも本を読んで、自分を楽しませてたんだ」
中村くんが手を振ってきた。
「二人とも!早く!次バスケコート行くぞ!」
コートへ向かうと、松田くんがウォームアップにかっこいいダンクを決めた。
みんなが歓声をあげたけれど、彼はこっちを振り返った。
「あ、そういや佐藤くん、お前バスケできるんだっけ?」
「うん、まあ、ちょっとだけ……」
彼がボールをパスしてきた。僕は両手で受け取った。
「シュートしてみろ!」
僕はジャンプして、ボールが手から離れた。ボードに当たって、そのまま入った。
松田くんが僕を見た。
「マジかよ!すごいじゃん!もう一本行こうぜ!」
僕は走り込んで、*ジェリーを決めて、ボールをスウィッシュで沈めた。
早坂さんが言った。
「佐藤くんがバスケできるなんて知らなかった!」
「昔ちょっとやってたんだ……」
松田くんが真剣な目で僕を見た。
「よし、1対1しよう」
「望むところだよ!」
ハーフコートからスタートして、僕がボールを持った。
走り込んでフェイントをかけ、レイアップを決めた。ボールが入る。
みんなが僕に歓声を送ってくれたけど、その中でも一人の声が特に耳に残った。
「うおおー!いけー、佐藤くん!」
如月さんが、僕のために応援してくれていた。なんて眺めなんだろう。
――負けられない!彼女のために勝つ!
結果、僕は10対7で負けた。
松田くんが最後にダンクを決めて締めくくった。
中村くんが、床に座り込んでへとへとになっている僕を励まそうとしてくれた。
「まあ、こいつバスケ部だしな……」
如月さんも続けた。
「でも、最初から7点も取れたのはすごいことだよ!」
一方、早坂さんは松田くんの背中をぽんぽん叩いていた。
「やっと何かで勝てたじゃん!」
「その反応!?!?」
――あの二人、なんか相性悪いのかな……
帰りの電車の中では、僕と如月さん以外、ほとんどみんな眠っていた。
「みんな疲れてるみたいだね……」
僕は如月さんを見て、話しかけた。
「うん……」
「楽しかった?」
「うん!めちゃくちゃ楽しかった!来てよかった!」
彼女は少し不思議そうな表情を浮かべた。
「この学校に来てなかったら、たぶんこういう経験もできなかったと思う。みんなには本当に感謝してる……」
「あんた、寝落ちしそうだよ……ハハ!」
彼女の言う通りだった。僕もすごく眠くて、それを無視できなかった。
「ちょっとだけ、仮眠取るよ……」
そう言って、僕は目を閉じた。
―如月葵視点―
電車の中で、今日一日のことを、あたしはずっと思い返していた。
今日は本当に楽しかった。正直、久しぶりにこんなに楽しい思いをした気がする。もちろん、前にも友達と出かけたことはあったけど、今日みたいな感じは初めてだった。ただ自分らしくいられて、やりたいことができて、それがすごく嬉しかった。
でも今、あたしの顔は真っ赤になっている。
なんで?
今、あたしを眠らせてくれない唯一の理由――それは、佐藤くんがあたしの肩に頭を乗せて眠っていること!!
*高度でスタイリッシュなバスケの技。空中での腕の巻き戻し、開脚、そして大きく効かせた手首のスピンが特徴。




