第5話 幕間
―如月葵視点―
あたしは本を閉じて、髪を後ろで結んだ。水色の髪が、白いパジャマとよく合っていた。気を紛らわせようとしたけど、全然うまくいかなかった。
――あの人、一体何者なんだろう?
窓のところで会ったのが始まりだった。友達とメッセージしてたときに、たまたま目に入った。彼はあたしに気づかないまま、自分の顔をチェックしてて、それがなんだかおかしくて。あたしに気づいた瞬間、すごく慌ててた。
正直、そのときの彼、ちょっとかわいいと思った。普通の男の子って感じで。まるでモブキャラみたいな。なのに、なぜか胸のあたりがざわざわして、うまく言葉にできない気持ちになった。
だから、話しかけてみた。彼は思ったよりずっといい人だった。なぜか、彼と一緒にいるだけで、あたしまで嬉しくなる。
「うわああ!何考えてるの、あたし……」ベッドの上でゴロゴロしながら、枕を抱きしめる。顔がじんわり赤くなっているのがわかった。
武道館での組手も見に行った。彼が誰なのか気になったから。柔道やってるなんて知らなかったし、部活動に関わってるなんて思いもしなかった。あたしはあたしで、バレー部に入って、そこそこ名前も知られるようになってたのに。
学校でも、彼のことが話題になり始めてた。中村くんとか、松田くんとか――二人ともいい人だって知ってる。彩音は学校でも「美人」って評判だから、彼女を狙ってるのかもって思ってたけど、違った。というか、彩音とちゃんと話してるところすら見たことがない。それが、余計に気になった。
――あの人、何者なんだろう……なんであたし、こんな気持ちになるんだろう……
―一ノ瀬蓮/佐藤蓮視点―
組手から一週間ほど経ったある日、僕は中村くんと一緒に歩いていた。すれ違う女子たちが、彼のことを噂していた。
「うわー!中村くん、かっこいい!」 「はぁ……彼氏にするなら絶対中村くんだよね……」 「サッカーの監督、すごく気に入ってるらしいよ……レギュラーになるかもって!」
その言葉に、僕は思わず感心してしまった。
「お前、相当モテてるんだな」
中村くんがこちらを見た。
「まあ……そうなのかもな……」
サッカースタジアムのそばを歩いていた。世界基準の規模じゃないけど、地元にしてはかなり立派なスタジアムだった。
「この調子だと、これからの学校生活、女子に囲まれっぱなしなんじゃないか?」 「いやいや!俺、何股もかけるタイプじゃないから!」 「じゃあ、お前のタイプって?」 「さあな……中身をちゃんと見てくれる子、かな」 「……お前にしては、意外と深いこと言うんだな」 「どういう意味だよ、それ」 「そのうち見つかるって」 「お前は?気になってる子、いるのか?」
僕はびくっとした。
――言うべきか?
「いや。今のところ、特にいないかな」
「へえー?まあ、お前が決めることだけど」
角を曲がったところで、初日にアオイと話していたあの女の子が、目の前に立っていた。
「佐藤蓮。ちょっと話がある」
彼女の顔は真剣そのものだった。
「え、俺?なんで?」 「大事な話だから」
中村くんがにやにやしながら言う。
「もう告白イベント?」
僕は彼の頭をはたいた。
「行ってくる」
僕は彼女について、校舎の隅の人気のない場所へと向かった。彼女は腕を組んで、壁にもたれていた。髪はきれいなピンク色で、瞳も濃いめのピンクだった。
「葵ちゃんのこと、知ってるよね?」
「うん……何度か話したことある」
「ふーん。もしかして、口説こうとしてる?」
あまりにストレートな質問に、僕は面食らった。
「え?いや、違うって!確かにかわいいとは思うけど、俺、そんな軽い男じゃないから!」
「……じゃあ、あの男とは違うんだ」
「あの男って?」
「別に」
――たぶん、前に嫌な彼氏でもいたんだろうな。
僕は頭の後ろに手をやった。
「葵ちゃん、俺にすごく優しくしてくれてて。この前の組手も見に来てくれて、褒めてくれたんだ」
そのことを思い出すだけで、なんだか嬉しくなる。
「……あー、はいはい。ニヤニヤすんの、やめて」
「あ!ごめん!」
「とにかく、葵ちゃんはいい子だから。絶対に利用したりしないでよね」
「しないよ――」
「じゃないと、あたしと葵ちゃんで、あんたのことボコボコにするから」
その言葉は聞こえたけど、意味を理解するのに少し時間がかかった。
「え、何するって?」 「別に」
僕は軽く受け流した。
「ところで、君の名前は?」
彼女はこちらを見た。
「知らないの?」 「うん、あんまり」 「はぁ……早坂彩音。それが名前」
「そっか。君はもう俺の名前知ってるから、自己紹介の必要ないよな」
「葵ちゃん、今頃体育館でバレーの練習終わってると思う」
「見に行ってみるよ」




