第4話 勝負だ!
僕は柔道着に着替え、白い道着に黒帯がよく映えていた。眼鏡は使いたくなかったので、コンタクトを入れてきた。
観客席の上には見学の生徒たちがいて、僕たちを見ていた。軽くストレッチをして、受け身の練習を少しやっていると、玲奈先輩に呼ばれた。
「佐藤くん!こっちおいで」
彼女の隣には、僕と同じ初段の、背の高い黒帯の男子が立っていた。
「この子と組手やってもらうから。ケガさせないでね」
彼女はにこにこしながらそう言った。
――うわ……でかいな……
「うちの後輩、二年の野口陽太くん」
彼は嬉しそうな様子だった。髪はスポーツ刈りで、僕より頭一つ分くらい背が高かった。
軽く体を伸ばす。
「いい勝負にしようね……いい?」
彼はうなずいて、笑った。
「楽しくやろう」
気づけば、組手が始まっていた。
柔道部の何人かが、僕たちを見ていた。
僕は踏ん張った。彼が掴みかかるたびに、するりと抜けて隙を探ったけれど、彼は何度も手を伸ばしてくる。やがて、彼が僕の襟をしっかりと掴んで、投げようと引き寄せてきた。
「見えた!」
僕は彼の動きに合わせて、足を払った。彼が倒れる。そのまま押さえ込み、一本が決まったところで手を離した。
「玲奈先輩、これで十分ですか?」 「まだまだ、後輩くん!もっと見せて」
野口くんが拍手していた。
「よかったよ」
それから一時間ほど、何度も組手を繰り返した。結局、野口くんにも玲奈先輩にも負けてしまった。
「疲れてたんです!」 「疲れてなかったでしょ。ただ負けただけ」 「明日見ててください。十倍にして返しますから」
二人で笑い合った。
観客の中に、僕をじっと見ている人がいるのに気づいた。
でも、誰なのか確認する前に、その姿は消えてしまった。
――でも、だいたい見当はついていた。
道場を出て、確かめに行くことにした。
「如月さん?見てたんですか?」 「うん……ちょっと暇だったし、玲奈先輩から蓮くんが組手やらされるって聞いて……気になって見に来ちゃった」 「え、え?」
――僕のこと、気になってた……?
「あの……ありがとう……見られてるって知ってたら、勝てたかもしれないのに……」 「ちょっと!」
彼女は僕の少し前で立ち止まった。
「その前の試合は勝ってたじゃん!すごくよかったよ!」 「そう言ってくれるなら……」
彼女は少し頬を膨らませた。
「もう!ちゃんと私の応援、信じてよね!」
僕は思わず笑ってしまった。二人で歩きながら、学校生活のこととか、いろんな話をしているうちに、駅前の通りまで来ていた。
「僕はこっちだから。気をつけてね、如月さん」
彼女は笑って、手を振った。
「蓮くんもね!」
電車に揺られながら、頭の中に電球がぱっと灯ったような気がした――さっき浮かんだ「あの考え」のせいで。
思わず顔が真っ赤になって、窓の外の空をぼんやり見つめる。
――彼女が、僕のことを見に来てくれた……
僕は笑った。
「僕のことを、見に来てくれたんだ……」




