第3話 部活動事情
その日の残りの時間は、あっという間に過ぎていった。担任の高間先生は、恰幅のいい中年の禿頭の先生で、僕たちに延々と校則の説明をしていた。教室はやたら広くて、まるで大講義室に高校の机をぎゅうぎゅう詰めにしたような造りだった。ありがたいことに、授業はちゃんと終わった。
その日は如月さんと何度か短い会話を交わした。長くは続かなかったけれど、彼女はいつも僕と話すときに微笑んでくれて、そのたびに顔が赤くなって、胸がきゅっと高鳴った。
二日後、僕は廊下のど真ん中に立っていた。
部活動の勧誘があちこちに並んでいる。こんなにたくさんの部活、見たことがなかった。
――ええと……剣道、バスケ、野球、バレー、サッカー……
廊下を歩きながら目当てのものを探していると、見つけた。
――見つけた!柔道部!
ブースに近づく。「あの……こんにちは……入部したいんですけど……」
対応してくれた先輩は、肩甲骨のあたりまで伸びた、少し短めの髪の女子だった。じっとこちらを見つめてくる。
「入部希望?いいよ!じゃあここに、連絡先とか全部書いて」
僕が用紙に記入している間、彼女はこちらを見ていたけれど、退屈そうな顔をしていた。
「柔道、前にやってた?」
僕はうなずいた。
「はい。前住んでたところの近くの道場でやってました。暇だったんで、毎日通ってました。中学のときは週4で――やることが多すぎて」
彼女がぱん、と手を叩いた。
「へぇー!経験者じゃん!段位は?」
僕は両手を頭の後ろで組んだ。「初段です。それなりに長くやってるので」
彼女はにっと笑った。楽しいことが始まりそうな、なんだか勝負を仕掛けたくてたまらない、そんな笑顔だった。
「強い子、大歓迎。放課後、道場においでよ。組手見せてもらうから。二、三人へし折――じゃなくて!実力見せてもらうだけ!そう、それ!」
僕は少し引きつった笑いを浮かべた。
「あー……やっぱり入部、考え直そうかな……」
先輩は、自分が何を口走ったか気づいたようだった。
「え、ちょ、待って!今のなし!冗談だから!」
そのとき、僕の後ろで声がした。(耳に届いた瞬間、まるで天使の合唱のようだった。)
「柔道部、入るの?」
振り返る。
「あ!如月さん、こんにちは!」
この二日間、彼女と話す機会があったおかげで、前よりは自信を持って話せるようになっていた。とはいえ、顔はまだ真っ赤だったけれど。
「こんにちは、佐藤くん!」
「うん……その、柔道部に入ろうと思ってて。あと、もう一つくらい何か入ろうかなって」
「へえ、いいね!だからそんな大きい鞄持ってるんだ」
その言葉どおり、僕は道具一式が詰まった大きなスポーツバッグを担いでいた。
「何部に入るの?」
「バレー部」
先輩が口を挟んだ。
「え!中学のとき全国優勝したチームの子だ!見たことある!」
――全国優勝?え、この子スポーツ万能なの??
彼女は認識されたことが嬉しそうだったけれど、それを隠そうとしていた。
「あはは!そうなんです!きつい試合だったけど、勝てました!」
彼女の笑顔が見えて、少し胸が高鳴った。
「今度、一緒にやろうよ!」
彼女は驚いた顔で僕を見た。
――しまった、つい口が滑った……
「うん!今度、一緒にやろうね!」
彼女は僕に向けて大きな笑顔を見せてくれて、それだけで胸があたたかくなった。顔がまた赤くなる。
ブースの先輩がしびれを切らして、僕をその夢見心地から現実に引き戻した。
「あ!ご、ごめんなさい!今日の放課後、道具持って来ます!」
彼女はこちらを見て、何かに気づいたようだった。
「あ!自己紹介忘れてた!私、雨宮玲奈。三年で、柔道部の主将。二段です」
――すごい。まあ、そのくらい当然か。
「はじめまして。佐藤蓮です。一年なのはもうバレてますよね」
彼女は笑った。
「サボったら承知しないから」
―放課後―
チャイムが鳴り、一日の終わりを告げた。生徒たちが、まるで貴族の館のような廊下へとあふれ出てくる。
――すごいな、みんな垢抜けてる……
彼らが話しながら歩いていくのを眺めていると、肩をぽんと叩かれた。松田くんが僕にもたれかかってくる。
「佐藤くん!このあと、みんなでぶらぶらしない?」
「ごめん、松田くん。柔道部行かなきゃ。組手やらされるみたいで」
「え、もう?入部初日でボコボコにされるとか、悲しすぎ」
「うるさいな。今に見てろよ」
僕は拳を振り上げて、彼の頭にこつんと当てた。二人で笑って、そのまま別れた。
道場へ向かいながら、思ったよりずっと立派な建物だと気づいた。前に通っていた道場と同じくらいの広さだった。中に入ると、組手をしている人たちの姿が見えた。だいたい30~40人くらい。みんな柔道着姿で準備運動やストレッチをしていた。
「やっと来たね、佐藤くん」
部屋の反対側から声が飛んできた。目を向けると、玲奈先輩が獲物を狙う獅子みたいな目でこちらを見ていた。
「着替えて。すぐに組手始めるから」
――これは、楽しくなりそうだ。
どっちが勝つと思う?




