第25話 若き英雄
その夜、領主の館では盛大な宴が開かれていた。広間には大勢の冒険者たちが集まり、テーブルには豪華な料理や酒が並んでいる。
カケル、アッシュ、ミライ、リースの四人は、本物の領主とともに広間の前方に立っていた。領主は集まった冒険者たちを見渡し、ゆっくりと口を開いた。
「皆、迷惑をかけた。私は魔族に囚われ、そいつが私になりすましていた。そのせいで皆を危険な目に遭わせてしまったことを、本当にすまないと思っている」
領主は隣に立つ四人へ目を向けた。
「だが、この四人が魔族を撃退し、事件を解決してくれた。皆、この四人を英雄と讃えようではないか!」
その言葉に、広間から大きな歓声が上がった。
カケルは照れくさそうに頬をかいた。
「なんか恥ずかしいな」
「何言ってんだ。目立っててかっこいいぜ!」
アッシュは嬉しそうに笑っている。
「ふふ、ちょっと誇らしいかも」
ミライも笑みを浮かべた。
「私も活躍したからねぇ」
リースは得意げに胸を張る。
領主がグラスを掲げると、冒険者たちもそれに続いた。
「乾杯!」
広間いっぱいに声が響き、宴が始まった。
四人はテーブルを囲み、料理を楽しんでいた。ふとアッシュが手を止め、目の前の皿を見つめる。
「今度は飯にも酒にもなんも入ってないよな?」
「ははは、大丈夫だよ。今度は本物の領主様だもん」
カケルが笑って答える。
「まぁ、疑いたくなる気持ちは分かるけどね」
リースも苦笑いした。
「ほらほら、楽しもう!」
ミライに促され、四人は再び料理に手を伸ばした。
「なぁ」
声をかけられてカケルが振り向くと、冒険者の男がそばに立っていた。
「あんちゃんたち、本当にありがとうな。あんちゃんたちがいなかったら、俺たちは今頃どうなってたか……」
「みんな無事でよかったよ」
カケルが笑顔で答えると、アッシュが得意げに口を挟んだ。
「俺の活躍があったからな!」
「もう」
ミライが苦笑した。
「こっちのテーブルでも、あんちゃんたちの話で持ちきりさ」
「おっ、そうなのか! じゃあ俺が一番活躍してたって言っといてくれよ!」
「すぐ調子に乗るんだから」
ミライの言葉に、冒険者は声を上げて笑い、自分のテーブルへ戻っていった。その背を見送り、カケルはリースへ顔を向けた。
「ところでリース、新しい魔法いつ覚えたの?」
「ああ! あれすごかったよな!」
アッシュも興味津々で身を乗り出した。
リースはすぐには答えなかった。隣ではミライも苦笑いを浮かべている。
「リース?」
カケルに促され、リースはためらいがちに口を開いた。
「実はね……」
◇ ◇ ◇
薄暗い牢屋の中で、ミライとリースは鉄格子を押し引きしていた。
「このっ、開きなさいよ!」
リースは苛立ちまぎれに何度も蹴りつけたが、鉄格子はびくともしなかった。
「思ったより頑丈だね。やっぱり武器がないと……」
ミライも鉄格子から手を離した。
「まだ魔法があるわ!」
リースは鉄格子へ手を向け、魔法を放った。
ポスン、と気の抜けた音がして、鉄格子の前に小さな煙が立ち上った。
「ああ、もう! どうして上手くいかないのよ!」
続けて魔法を放っても、同じ音と煙が繰り返されるばかりだった。
「ああああ! 腹立つ!」
「リース、落ち着いて」
ミライがなだめようとするが、リースは聞く耳を持たない。
「これでどう!」
リースは思い切り魔力を込め、鉄格子へ向けて魔法を放った。次の瞬間、轟音とともに鉄格子が吹き飛び、砕けた鉄棒が床に散らばった。
◇ ◇ ◇
「……てなわけで」
リースは苦笑いしながら話を締めくくった。
「実は偶然できただけで、まだうまく使えないんだよね」
「なんだ、失敗作なのかよ。期待して損したぜ」
アッシュが何気なく言った。
リースは俯き、唇を結んだ。その目に涙が浮かんでいるのを見て、アッシュは慌てて言葉を継いだ。
「ま、まぁ! まだ上手く使えなくてあの威力だろ? 使いこなせるようになったら、すげぇ頼りになるだろうぜ! 期待してるよ!」
リースはぷいっと顔を背けた。
「ふん、当たり前でしょ」
「やぁ、楽しんでるかい?」
声をかけられてカケルが顔を上げると、領主がテーブルのそばに立っていた。
「領主様」
「君たちのお陰で助かった。改めて礼を言うよ」
「役に立ててよかった」
カケルが答えると、ミライが心配そうに尋ねた。
「領主様、体は大丈夫なんですか?」
「ああ、お陰様でね」
領主は穏やかに笑った。
「まさか、魔族が領主様に化けてたなんて、誰も思わないわよね」
リースが言うと、アッシュも頷いた。
「疑ったとしても、失礼だなんて言われるの怖いしな」
その言葉に、皆の間で笑いが起きた。
カケルは領主へ尋ねた。
「そうだ、領主様。アレス教って知らない?」
「アレス教?」
領主は聞き慣れない名前に首をかしげた。
「うん。俺たち、そいつらを追ってるんだ」
「……すまない。その名は聞いたことがない」
「そっかぁ……」
カケルが肩を落とすと、領主は言葉を継いだ。
「ただ、ルクシア王国には大きな図書館があると聞く。そこでなら、何か手がかりが得られるかもしれない」
「ありがとう! 行ってみるよ!」
「なに、私は何もできていないさ」
領主はそう言って笑った。
「そうだ。報酬を皆に渡さねば」
すると、近くにいた冒険者の一人が声をかけてきた。
「その報酬なんだけどよ、俺たちの分は全部あんちゃんたちにやってくんねぇか?」
「え?」
カケルは驚いて、声をかけてきた冒険者へ振り向いた。
「今回活躍したのは間違いなくあんちゃんたちだ。それに、俺たちの命の恩人だしな」
「俺も賛成だ!」
近くの席から声が上がり、ほかの冒険者たちも次々と頷いた。
「そんな、全部はさすがに――」
ミライが遠慮しようとした、そのとき。
「ありがとよ! やったー!」
アッシュが嬉しそうに声を上げた。
「はぁ、全く……」
リースは呆れたようにため息をついた。
カケルは苦笑しながら答えた。
「じゃあ、せっかくだしありがたくいただくよ」
「ありがとうございます」
ミライも頭を下げた。
すると、別のテーブルから大きな声が飛んできた。
「おーい、英雄さんたち! こっち来て飲めよ! まだ飲み足りないだろ!」
それを聞いたアッシュは、待ってましたとばかりに立ち上がった。
「お! 英雄アッシュ様と飲みたいやつはどいつだい!」
「ぷっ、ははは!」
カケルが思わず吹き出した。
「はははは!」
ミライも声を上げて笑う。
「あーあ……」
リースは呆れ顔でアッシュを見つめていた。
夜が明けても、館の広間には笑い声と杯の触れ合う音が響いていた。




