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英雄の歩いた世界  作者: 神楽坂 澪


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第26話 呑んだくれの女

 アルトを後にしたカケルたち四人は、ルクシア王国へとやってきた。

 街の入口に差しかかると、一人の男が声をかけてきた。


「お、旅人かな。ようこそ、ここは王都ルーベルだよ」

「すいません、大きな図書館があるって聞いてきたんですけど」


 カケルが尋ねると、男は少し困ったような顔をした。


「ああ、図書館ね……。城の敷地内にあるけど、入れないんじゃないかな」

「そうなんですか……。とりあえず行ってみます。ありがとうございます!」


 男と軽く挨拶を交わし、四人は街の中へと足を踏み入れた。

 広い通りの両側には建物が軒を連ね、行き交う人々の間を馬車が通り抜けていった。通りの先にも街並みは続き、カケルは歩きながらその広がりに目を向けた。


「大きな街だねぇ」


 リースが周囲を見渡しながら呟いた。


「あそこにあるのがルクシア城だね」


 ミライが指さした先には、街の建物よりもひときわ高くそびえる城が見えた。

 四人は賑わう通りに目を奪われながら、城へ向かった。やがてたどり着いた大きな門の前には、腰に剣を下げた騎士が二人、見張りに立っていた。

 カケルはそのうちの一人に声をかけた。


「すいません、図書館に入りたいんですが」

「許可証はあるか?」

「許可証?」


 カケルは首をかしげた。城に入るには許可が必要だとは、知らなかった。


「許可証がない者を城へ入れるわけにはいかん」

「そんな……」


 カケルが困っていると、アッシュが横から口を挟んだ。


「ちょっとぐらいいいじゃねぇかよ」


 そう言いながら、アッシュは門へ近づいていく。


「貴様! それ以上近づくな!」

「そんな堅いこと言うなって」

「それ以上近づくなら……!」


 騎士は腰から剣を抜いた。


「ひいっ! すいませんでしたー!」


 アッシュは慌てて後ずさった。

 結局、四人は城に入ることができず、来た道を引き返すことになった。


「なんだよ、ケチケチしやがって。ちょっとくらいいいじゃんかよ」


 アッシュは不満そうに口を尖らせた。


「王様がいるお城だもん、仕方ないよ」


 ミライがなだめるように言った。


「そうよ。あんた、最悪殺されるわよ」


 リースも呆れたように言う。


「けど、どうすんだよ、この後」


 アッシュの問いに、四人は足を止めた。


「とりあえず宿を取って、少し休憩しましょ」


 ミライの提案に、三人も頷いた。

 四人は通り沿いの宿で部屋を取り、一階の食堂に腰を落ち着けた。


「これからどうするの?」


 リースが尋ねた。


「うーん、図書館に入れないんじゃ、とりあえず聞き込みしかないかな」


 カケルが考えながら答えた、そのときだった。


「おーい、エルナ! 酒が足んねーぞ!」


 少し離れたテーブルから、大きな声が響いた。


「もう、飲み過ぎだよ、セレナ!」


 カケルが声のした方を見ると、一人の女性が頬を赤く染め、酒の入ったグラスを掲げていた。傍らの従業員らしい女性は、困った顔で彼女を見下ろしている。


「おい、カケル。見てみろよ、すんげぇ美人だぜ」


 アッシュが声を潜めて言った。


「すごい酔ってるみたいだね」

「そうじゃねぇって。長い髪にスラッとした身体、でも胸は大きい。あんな美人、なかなかいねぇよ」

「へぇ、アッシュ。ああいうのが好きなんだ」


 横からリースの冷たい声が飛んできた。


「なんだよ、なんで怒ってるんだよ」

「べ! つ! に!」


 リースはそっぽを向いたが、ちらりと自分の胸元に目を落とし、小さく呟いた。


「そんなに胸が好きなの……」

「なんだ、お前。胸が小さいからって僻んでんのか?」


 その瞬間、リースが勢いよく立ち上がった。


「はぁ!? 今あんた、なんて言った!?」

「待ってよ! なんで喧嘩始めちゃうんだよ!」


 カケルが慌てて二人の間に割って入ろうとする。


「アッシュは鈍感だからね」


 ミライが呆れたように呟いた。


「え?」


 カケルが振り向く。


「なんでもない」


 ミライはカケルから視線を逸らした。


「なーに騒いでるの、君たち」


 横から声をかけられ、カケルは顔を向けた。先ほどまで離れたテーブルで酒を飲んでいた女性が、いつの間にかそばに立っていた。


「こんなところで騒いじゃ駄目でしょ」

「あんたも騒いでたでしょ」


 後ろからやってきたエルナが、セレナの頭に軽く手刀を落とした。


「あいたっ!」

「ごめんなさいね。この人、酒癖が悪くて」


 エルナは四人に申し訳なさそうに頭を下げた。


「あ、いえ! 全然気にしないでください。こちらも騒いでしまっていたので」


 カケルが慌てて答える。

 アッシュが少し身を乗り出した。


「それよりお姉さん、俺と一緒に酒……」


 鼻をつく酒の臭いに、アッシュは顔をしかめた。


「臭っ! どんだけ飲んだんだよ!」

「それは君が飲んでないからだよ!」


 セレナは楽しそうに笑った。


「あたしと一緒に飲んで、一緒に臭くなろう! そうしたら気にならないさ! さぁ!」

「やめなさい」


 再びエルナの手刀が落ちた。


「いたっ!」


 カケルはそんな二人を見て苦笑した。


「あの、すいません」


 ミライが二人に声をかけた。


「私たち、城の図書館に行きたかったんですが、許可証がないと駄目だって門前払いされちゃって……。入る方法を何か知りませんか?」


 セレナの顔から、ふと笑みが消えた。


「何か知ってるんですか!?」


 その変化に気づいたミライが、期待を込めて尋ねる。セレナは一瞬口をつぐんだが、すぐに笑みを取り繕った。


「ごめん。あたしも力になれそうにないや」

「そっかぁ……」


 カケルは残念そうに呟いた。


「やっぱり、聞き込みとかするしかなさそうだね」


 ミライが言うと、アッシュも頷いた。


「じゃあ、そろそろ行くか」

「役に立てなくてごめんなさいね」


 エルナが申し訳なさそうに言った。


「そんな、謝らないでください」


 カケルは首を横に振った。


「では、失礼します」


 ミライが軽く頭を下げ、四人は聞き込みのために宿を出た。


 四人が去った後、エルナは隣にいるセレナへ目を向けた。


「よかったの? あなたなら力になれたんじゃない?」

「いいんだよ。あたしはもう関係ないんだよ」


 セレナは近くのテーブルから酒瓶を取り上げ、そのまま口元へ運ぼうとした。


「何言ってるの」


 エルナの声に、セレナの手が止まった。


「ルクシア王国騎士団長セレナ。みんな、あなたの帰りを待ってるわよ」

「……」


 セレナは手にした酒瓶へ、静かに視線を落とした。

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