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英雄の歩いた世界  作者: 神楽坂 澪


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第23話 魔物討伐

 正午が近づく頃、装備を整えたカケルたちは、街の東側にある広場へ向かった。

 広場にはすでに多くの冒険者や衛兵が集まっていた。武器の状態を確かめる者、仲間と何やら話し込む者など、出発を前にそれぞれが準備を進めている。


「すごい人数だね」


 ミライが広場を見渡した。


「これだけ集まれば、心強いな」


 カケルも周囲に目を向ける。冒険者たちの装備はさまざまで、仲間と談笑する者もいれば、緊張した面持ちで武器を握り直す者もいた。


「そういや、今回の報酬ってどのくらいなんだろうな」


 アッシュが呟いた。


「まだ始まってもいないのに、もう報酬のこと?」


 ミライが呆れたように笑う。


「頑張る理由は大事だろ」

「あんたらしいわね」


 リースも小さく笑った。

 そんな四人のやり取りを聞いていたのか、近くにいた年配の冒険者が声を掛けてきた。


「ずいぶん若い連中も参加するんだな。大丈夫か? 魔物を見て怖じ気づいても知らねえぞ」


 アッシュが一歩前に出ようとしたが、カケルはその肩を掴んで引き止めた。


「大丈夫です。気をつけます」


 カケルが答えると、男は頷き、仲間たちのもとへ戻っていった。

 やがて、広場の奥から領主が姿を現した。その傍らには鎧をまとった衛兵隊長が付き従っている。

 集まった人々の視線が二人へ向けられると、領主は一歩前へ進み出た。


「皆、集まってくれて感謝する。危険を承知で力を貸してくれることを、心強く思っている」


 領主は冒険者たちを見渡し、続けた。


「今回の討伐の指揮は衛兵隊長に任せている。どうか彼の指示に従い、無事に戻ってきてほしい」


 続いて衛兵隊長が前へ出た。


「これより討伐隊は街の東にある草原へ向かう。道中は衛兵が先導する。仲間とはぐれないよう、気をつけてくれ」


 その指示を受け、冒険者たちはそれぞれの仲間と合流し始めた。

 やがて隊列が整うと、討伐隊は街を出発した。しばらく街道を進み、草原へ差しかかったところで、先頭を歩いていた衛兵たちの足が止まった。

 カケルたちも前方へ目を向ける。

 なだらかな草原の向こうに、百体近くの魔物がひしめいていた。獣のような魔物に交じり、ゴブリンやオークの姿も見える。その頭上では、蝙蝠に似た魔物が飛び交っていた。


「本当に群れになってるんだね……」


 ミライの声に、先ほどまでの明るさはなかった。


「百体って、こうして見ると多いな」


 アッシュも表情を引き締めた。

 衛兵隊長が前方を確認し、隊列に向けて声を張り上げる。


「衛兵は前方を固めろ! 冒険者たちは仲間同士で連携し、突出しすぎるな!」


 その指示に従い、衛兵たちが盾を構えて前へ進み出た。魔物の群れもこちらに気づいたのか、一斉に向かってきた。


「来るぞ! 迎え撃て!」


 隊長の号令とともに、討伐隊が動き出した。


「俺たちも行こう」


 カケルが剣を抜くと、三人もそれぞれ武器を構えた。四人は衛兵たちが固める前列の脇へ回り、横から迫る魔物に備えた。

 迫ってきた魔物の一体へカケルが踏み込み、振り下ろされた爪をかわして懐へ入り込むと、そのまま剣を振るった。魔物が倒れるより早く、別の一体が横から飛びかかってくる。


「カケル、右!」


 ミライの声に反応して身を引くと、アッシュが前へ出た。


「任せろ!」


 勢いよく繰り出された拳が魔物を捉え、その体を地面へ叩きつける。

 少し離れた場所では、リースが魔法を放っていた。小さな火の玉が魔物の足元で弾け、ひるんだ魔物にリースは素早く距離を詰めて、剣で斬り伏せた。

 カケルも次の魔物へ向かう。周囲では衛兵や冒険者たちが激しく戦っており、盾を打つ衝撃音や怒号が草原に響いていた。

 魔物の数は多く、一体を倒してもすぐに次が迫ってくる。

 ミライは仲間の動きを見ながら剣を振るい、横から襲いかかる魔物を斬り払った。すぐに体勢を立て直し、カケルたちとともに次の敵へ向かう。四人は互いの位置を確かめながら、次々と押し寄せる魔物を迎え撃った。

 先ほど声を掛けてきた年配の冒険者も、四人の戦いぶりに目を見張った。


「あいつら、やるじゃねえか」


 そう呟くと、自らも次の敵へ向かっていった。

 戦いが続くにつれ、魔物の数は少しずつ減っていった。

 衛兵隊長の指示で討伐隊は隊列を立て直し、残った魔物を追い詰めていく。やがて最後の一体が倒れると、草原に響いていた戦いの音が途絶えた。

 しばらくは誰もが周囲を警戒していたが、新たな魔物が現れる気配はなかった。


「終わった……のかな」


 ミライが剣を下ろした。


「ああ、どうやらな」


 アッシュが息をつく。


「みんな、怪我はない?」


 リースの問いに、カケルは三人の様子を確かめながら答えた。


「俺は大丈夫だよ」

「私も平気」

「俺も問題ないぜ」


 ミライとアッシュの返事を聞き、カケルはほっと息をついた。

 周囲では衛兵たちが負傷者の手当てを始めていた。重い怪我を負い、仲間に支えられている者もいる。近くでは、冒険者たちが互いの無事を確かめ合っていた。

 カケルは剣を納め、ようやく肩の力を抜いた。

 衛兵隊長が討伐の完了を告げると、冒険者たちの間から安堵の声が上がった。

 討伐隊は負傷者を助けながら帰り支度を整え、アルトの街へ向けて歩き始めた。


 街へ戻ると、出発前に集まった東の広場には領主が待っていた。負傷者たちが治療のために運ばれていくのを見届け、領主は広場に残った冒険者たちの前へ進み出た。


「皆、本当によく戦ってくれた。おかげで、街へ危険が及ぶ前に魔物を討伐することができた」


 領主は集まった者たちに深く頭を下げた。


「約束した報酬は、働きに応じて後ほど支払わせてもらう。そして今夜は、皆の労をねぎらうため、私の館で宴を開きたいと思っている。ささやかではあるが、ぜひ参加してほしい」


 その言葉に、冒険者たちの間から歓声が上がった。


「領主様の館で宴だってよ!」

「そりゃ楽しみだな」

「今日はうまい飯が食えそうだ!」


 戦いを終えたばかりの冒険者たちにも、笑顔が戻り始めていた。


「宴か……」


 アッシュの表情が明るくなる。


「報酬だけじゃなくて、ご飯も楽しみなんだね」


 ミライが笑うと、アッシュは当然だと言わんばかりに答えた。


「もちろん!」


 その言葉に、カケルたちも笑みを浮かべた。

 その夜、カケルたちはほかの冒険者たちとともに領主の館へ招かれた。

 館の広間にはいくつもの長いテーブルが並べられ、さまざまな料理や酒が用意されていた。冒険者たちは思い思いの席に着き、宴が始まるのを待っている。

 やがて領主が広間の前方に姿を現すと、冒険者たちの話し声が次第に収まった。


「皆、今夜は集まってくれてありがとう。今日の皆の活躍には、改めて感謝している。今夜は戦いの疲れを忘れ、存分に楽しんでいってほしい」


 領主は杯を掲げた。


「それでは、乾杯!」


「乾杯!」


 広間に大勢の声が響き渡り、宴が始まった。

 冒険者たちは料理に舌鼓を打ち、酒を酌み交わしながら今日の戦いについて語り合っていた。あちこちから笑い声が上がり、広間は賑やかな空気に包まれている。

 カケルたちもテーブルを囲み、食事を楽しんでいた。

 そこへ、聞き覚えのある声が掛かった。


「よう、あんちゃんたち」


 カケルが顔を上げると、出発前の広場で声を掛けてきた年配の冒険者が立っていた。

 カケルは何を言われるのかと、少し身構えた。


「昼間は舐めたこと言って悪かったな。あんちゃんたち、強えんだな。正直びっくりしたぜ」


 男は気まずそうに笑った。


「当たり前でしょ。私たちだって、実力はあるんだから」


 リースが得意げに答える。


「ははっ、そうみたいだな。恐れ入ったよ。また何かあったら、一緒に戦おうぜ」


 男はそう言って片手を上げると、仲間たちのもとへ戻っていった。


「やっぱ俺たちの実力、分かるやつには分かるんだなあ」


 アッシュが嬉しそうに言った。


「アッシュも活躍してたもんね」


「おうよ!」


 ミライの言葉にアッシュは胸を張り、四人は笑い合った。

 その後も宴は続き、料理の皿が次々と空になって、酒を注ぎ合う声や笑い声が広間に響いていた。しかし、しばらくすると少しずつ話し声が減っていった。


 カケルがふと周囲を見渡すと、近くのテーブルでは冒険者が椅子に座ったまま眠っていた。その向こうでも、別の男がテーブルに突っ伏している。

 戦いの疲れと酒の酔いが回ったのだろうか。

 気づけば、広間のあちこちで冒険者たちが眠り込んでいた。


「リースも眠っちゃったね」


 カケルが隣を見ると、リースはテーブルに伏せて目を閉じていた。


「疲れちゃったのかな。みんな寝てるし」


 ミライも不思議そうに周囲を見渡した。


「それにしても、みんな寝るか? ほかの連中、誰も起きてねえぞ」


 アッシュの言葉に、カケルは改めて広間を見回した。

 先ほどまであれほど賑やかだった場所が、今は妙に静まり返っている。


「ふああ……俺もなんか眠くなってきちまった」


 アッシュが大きなあくびをした。


「え、アッシュも? ……でも、なんか私も……」


 ミライの声が次第に弱くなる。

 その様子を見た瞬間、カケルの胸に嫌な予感が走った。


「……まさか」


 カケルは卓上の料理と杯に視線を落とした。何か混ぜられていたのか。

 慌てて立ち上がったが、足元がふらつき、思うように動けない。テーブルに手をついて体を支えようとするが、腕にも力が入らなかった。

 視界がぼやけ、景色が揺れる。


「みん……な……」


 仲間たちへ手を伸ばそうとしたところで、カケルの意識は途絶えた。

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