↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の歩いた世界  作者: 神楽坂 澪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/26

第16話 受け継ぐもの

 目を開けると、見慣れない天井があった。ミライはゆっくりと身体を起こし、部屋を見回す。


「ここは……?」


 ベッドのそばの椅子に座っていたカケルが顔を上げた。


「城だよ」

「カケル……」


 二人の声に、部屋の隅で眠っていたアッシュも目を覚ました。こちらを見るなり、ほっとしたように息を吐く。


「おっ、やっと起きたか」


 ミライは二人の顔を見つめながら、記憶を辿った。ヴォルグに襲われ、ゼリスが光の中へ消えた。そして、カケルが胸倉を掴まれ、持ち上げられて――その先は思い出せなかった。


「ゼリスは……?」


 カケルの表情が曇った。


「……まだ捜してる」


 ミライは視線を落とした。膝の上で掛布を握っていると、扉が開き、レオンが入ってきた。


「目を覚ましたようだな」

「私、どれくらい眠ってたの?」

「それほど長くは眠っていない。倒れた後、すぐにここへ運んだんだが、身体の調子はどうだ?」

「少し重いけど、大丈夫です」


 レオンがベッドのそばへ来ると、カケルはミライへ向き直った。


「なあ、あのときのこと、覚えてるか?」

「ヴォルグが、カケルを……」


 伸ばした手が届かなかったことは覚えている。あのままではカケルが死んでしまう――そんな思いだけが、頭の中を占めていた。


「その後は、よく分からないの」

「お前の身体から、すげえ光が出たんだよ。あいつを傷だらけにするくらいの」


 アッシュに言われ、ミライは自分の手を見た。


「私が……?」

「ああ。あんな魔法、初めて見たぜ」


 ミライはゆっくりと手を握ってみたが、力を込めても何も起こらない。


「カケルを助けたかった。それは覚えてる。でも、どうやったのかは……」

「あの光がなかったら、俺は殺されてた。ありがとう、ミライ」


 ミライは小さく頷き、もう一度、自分の掌へ目を落とした。

 三人が城で傷を癒やしている間も、ゼリスの捜索は続いた。崩れた謁見の間だけでなく、城内から王都周辺まで調べられたが、手掛かりは見つからなかった。

 知らせを待つうちに、何日も過ぎた。廊下から足音が近づくたび、カケルは扉へ目を向けた。捜索の報告に来た兵士は、いつも同じ答えを口にした。

 やがてレオンから、生存は絶望的だと告げられた。

 三人は黙って聞いていた。カケルは口を開きかけたが、まだ見つかっていないだけだ――そう言おうとした言葉は、剣に身体を貫かれたゼリスの姿がよぎった瞬間、声にならなかった。

 その夜、カケルは寝つけずにいた。目を閉じると、肩越しに振り返ったゼリスの笑顔が浮かぶ。

 またな。

 次に会う約束のような言葉だった。

 ベッドの脇には、ゼリスの剣が立てかけてあった。

 カケルはベッドを離れて部屋を出ると、人気のない廊下を歩いた。庭へ続く扉の向こうから、声が聞こえてくる。


「師匠……」


 扉を抜けると、アッシュが石段に腰を下ろし、顔を伏せていた。カケルが近づくと、袖で目元を拭う。


「アッシュ」

「カケル……情けねぇとこ見られちまったな」


 カケルは隣に腰を下ろした。しばらく二人とも黙っていたが、やがてアッシュが俯いたまま口を開いた。


「俺、結局何もできなかった」


 膝の上で握り締めた拳が震えていた。


「師匠はあんな身体で戦ってたのに、俺は見てることしかできなかった」

「……俺もだ」


 剣を掴まれ、どれほど力を込めても引き抜けなかった。助けに入ったゼリスの身体を、自分の剣が貫いた。その光景が脳裏によぎり、カケルは手元へ視線を落とす。


「俺も悔しいよ……」


 アッシュは答えなかった。カケルもそれ以上は言わず、しばらく二人で庭を眺めていた。


「なあ、アッシュ」

「ん?」

「俺と、旅を続けないか」


 アッシュが顔を上げた。


「教団が何をしようとしてるのか、確かめたい。ゼリスが追ってたものを、このままにしたくないんだ。ヴォルグのことも許せない」


 アッシュはしばらくカケルを見つめていたが、やがて口元を緩めた。


「ああ。やられっぱなしじゃ、師匠に顔向けできねぇからな」


 カケルにも、小さな笑みが浮かんだ。


「じゃあ、明日レオン王に話しに行こう」

「あら、私は仲間外れ?」


 背後から声がした。

 二人が振り向くと、扉のそばにミライが立っていた。


「ミライ。いつから……」

「最初からだよ」


 ミライは石段を下り、二人の前で足を止めた。


「私も一緒に行く」

「身体はもういいのか?」

「大丈夫。もうすっかり元気だよ」


 カケルとアッシュを見て、ミライは続けた。


「もう、二人だけで決めないでよ」

「ごめん」


 カケルが答えると、アッシュも頷いた。


「三人で、だな」


 三人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 翌朝、三人はレオンのもとを訪れた。

 謁見の間はまだ使えず、通されたのは別の一室だった。レオンは三人に椅子を勧め、城の被害と教団について、分かっていることを話した。


「教団の活動は、各地で確認されている。ヴォルグと同じほどの力を持つ者が、ほかにもいるかもしれん」


 レオンは三人を見た。


「お前達は、これからどうするつもりだ」

「旅を続けます。ゼリスの意思を継いで教団のことを調べたいんです。そして、必ずゼリスの仇も……」


 レオンはミライとアッシュにも目を向けた。二人が頷くのを見届けると、静かに息を吐いた。


「そうか。だが、無理はするなよ。お前たちはゼリスが命をかけて守った大切な弟子達なんだからな」

「はい」


 カケルは傍らに置いたゼリスの剣を握り締めた。


「この剣、俺が持って行ってもいいですか?」


 レオンはゼリスの剣へ目を向けた。


「ゼリスの剣か。もちろんだ。お前が使うなら、ゼリスも喜ぶはずだ」


 カケルは鞘に収められた剣を見つめた。


「……ありがとうございます、レオン王」


 レオンの表情が少し和らいだ。


「それと、その呼び方はやめてくれ」

「え?」

「これからは、レオンでいい。他人行儀は抜きにしよう」


 戸惑う三人を見て、レオンは笑った。


「旅の途中でも、用があれば訪ねてこい。遠慮はいらん」


 カケルは剣を手に取った。


「ありがとう、レオンさん」

「ああ。お前達の旅の無事を祈っている」


 出発の日、王都の門までレオンが見送りに来た。


「それじゃあ、行ってきます」

「気をつけてな」


 三人は門をくぐった。しばらく歩いたところで、アッシュが前を向いたまま言った。


「次に会ったときは、ヴォルグの野郎をぶん殴ってやる」

「その前に、強くならないとね」


 ミライが答えた。

 カケルは二人の声を聞きながら、腰にあるゼリスの剣、その重みを感じていた。

 足を止め、柄へ手を伸ばす。抜き放った刀身が朝の光を受けて輝き、ミライとアッシュも足を止めた。二人が見守る中、カケルは剣を空へ掲げた。


「必ず……」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


章設定はしていませんが、物語としてはここまでで一つの区切りとなります。


次回からは、また新たな物語が始まります。

これからもカケルたちの旅を楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回の投稿も、ぜひ楽しみにしていてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。