#7
二人の男が道を歩いていた。河原の景色でも観ながらと、弁当を口にする。二人揃って黒色のスーツを着ており、片方は肩幅の広い細目の男。頭には犬耳の帽子を被っていた。もう片方の男は、下唇を前に出した太った男。こちらは目が酷く開いていた
「イヌタさん。リューフとは、そもそも何なのですか?」
太った男が訊くと、イヌタは返す
「知らない?ああ、トリさんは会議に出席していませんでしたからね。リューフは次に来ると噂の勢力ですよ。それも、まだ蕾も出ていないような」
「ほう……我々が動かなければならない程の相手なんですかね?……いえ、動く理由は法律違反でしたね」
「ですです。あの方を不快にさせた罪は、死刑に値しますから。法律は勉強しないといけませんねえ」
「非常に滑稽ですよ。まさか、今から我々に潰されるなんて……これだから無知はダメなんですよ」
イヌタは棒読みに笑う
「向かいましょうか」
翌日になる。リュアはオフィスに戻っており、ミューフと二人で昨日のことについて話していた
「それで全く見えなくて、どうしたらいいのか分かるか?ペースを落とす!とか言いながら、それでも見えない!」
「そうですね……例えば、リュアちゃん自身がもっと速くなるとか。自分がその速度を出せれば、自然と目が慣れてくると思いますよ!」
「なるほど!ミューフ賢い!」
インターホンが鳴る
「私が出る」
リュアは扉を開くと、血に染まるマリーヌの姿があった。全身が酷く焼けており、ふらついていた
「ちょ、どうしたんだ!?マリーヌ!」
「ピースの上層部がお前らを狙っている。今すぐ逃げろ!奴ら、なぜか瞬間移動で追ってこなかった……意味が分からない」
「リュアちゃん、マリーヌさんを連れて早くここを出ましょう!」
「いや、狙いは私たちだ。マリーヌは帰ってくれ。私が迎え撃つ!」
マリーヌは言う
「ダメだ!上層部ってのは、他組織で言う幹部だ。俺が足止めをするから、グラサン街に逃げろ!さすがに奴らもグラサンに手は出せない」
「逃げましょう。ですが、マリーヌさんも一緒にです。そちらの方が、安全ですから」
「なら、そうするよ」
三人は瞬間移動を使いグラサン街へと向かっていた。その瞬間、目の前にイヌタが現れる
「行かせませんよ」
「止まれ!」
マリーヌの声で二人も止まる
「こいつも目で追えない速度かよ」
「いや、こいつは空間移動のような物だ。瞬間移動とは違う。そして、近づくな。こいつは爆発する」
それに、こんな大都市で戦闘なんてすれば被害が大きすぎる……どうするべきか
「この程度の子供が一勢力に成ろうと努力するのは素晴らしいことですが、我々の許可無しでされるのは困りますよ。というか、アラタナヒ系列の勢力ですかね?だとしても、法律違反は困りますよ」
「グラサンがバックにいた途端に、サカガミから手を引いたような弱虫だ。アラタナヒなら勝てると思っているのか?」
「言ってくれますねえ。確かにグラサンには手を出しませんが、他なら全て目を開きますよ。目を瞑るの対義語、面白いですね」
「つまらねえな!」
リュアは竜化する
「もう一人はどこに行った?太った男だ」
「トリさんですか?彼は私と都会観光していますよ。私の本体と、ですけれど」
マリーヌは剣を構えた
「悠長だな。油断は命取りだ!」
マリーヌは声を小さく言った
「二人は逃げるんだ。こうなったら、俺がこいつと戦うしかない」
「確実に死ぬだろ?」
「大丈夫、応援は呼んでるさ。それまで耐えるくらいなら可能だ」
少し納得いかない様子で頷いた
「分かった。ヒカリノの家にいる」
二人は瞬間移動で去っていく
「悪手」
「握手?」
「いえいえ、悪いに手と書いて悪手ですよ。私の能力を完全に理解し切れていない故の、大きな悪手……あの二人は終わりですよ」
観光してるとか抜かしていたが、そんな訳ない。こいつの分身とトリの二人が完全にフリーだ。リュア達で勝てる訳がない
マリーヌはその剣に水を纏わせた
「水剣!神の領域よ、目を覚ませ!」
「それでは……トリさーん!!」
イヌタが叫ぶと、マリーヌの真後ろに、その気配があった。マリーヌとの体格差は明らかだった。トリに気を取られた一瞬、イヌタは姿を消していた
奴はトリが駆けつけるまでの足止めか。そして、自分はリューフの元へ向かう……本格的にまずくなってきた
二人の目の前にイヌタが現れる
「もう追いつかれた……マリーヌはどうした?」
「トリさんに任せてきましたよ」
それで追ってこれたのか
「私が倒す!」
リュアは爪に炎を纏わせ、瞬間移動をする。大きく振ると、既にイヌタは避けていた
「遅いですねえ」
「リュアちゃん、こっからは協力戦です!」
「え?ミューフも戦うの?」
ミューフは片目を大きく開き、もう片目を閉じる
「私の無敵のイミーテションです!」
「でた!ミューフの最強ウインク!」
イヌタは何一つと表情を変えていなかった
「何も起こってないように見えますけどねえ」
その瞬間、イヌタの目の前にミューフが現れる。瞬間移動でもなく、ミューフはそこから動いていない。ミューフは二人おり、イヌタが何かを察した瞬間、そのミューフは大爆発を起こす
「さすがミューフ、強いな!」
私の能力と同じですか……
「能力を真似る能力ってことですね?」
イヌタは別場に立っていた。確実に当たっており、避けてはいなかったのに完全なる無傷だった。人々はその戦闘により、急いで逃げていく。大都市の一部を大きく混乱させていた
「リュアちゃん、奴の能力は分身を視界の届く範囲に作り出し、分身を爆発させることができます。加えて本体を好きに入れ替えられるので、本体だと思ってた方が急に分身に変わり爆発する可能性もあります」
「えっと、なんか強くないか?」
「これがピースの上層部ですよ」
イヌタは棒読みに笑う
「面白い能力ですねえ。ピースに入りませんか?誰もが平和を望む素晴らしい組織ですよ」
「阿呆言わないでください。阿呆が」
ミューフの言葉が強い……
「私が阿呆?冗談は止してください」
その瞬間、イヌタの分身が目の前へ作り出される。リュアは爆発しそうなそれに動けなかった
ヤバい……
「任せてください!」
ミューフは分身を出し、その爆発への盾として使った。爆風の強さに二人は飛ばされるが、大きな怪我は免れた
「助かった」
「御冗談を」
既に真後ろにイヌタは立っていた
「死ね!」
振り向きながら、その爪をイヌタに向ける。しかし、本体は入れ替わっていた。挙げ句に爪による傷すら付けられず、そこには実力差がありすぎた
爆発……する
横目にミューフを見ると、本体であるイヌタに、手で目を隠されていた。ミューフはその手をどかそうとするが、ピクリとも動かない
「離してください!怒りますよ!」
「おっと、失礼しました。所謂だーれだって目を隠すやつ、これは友達同士で行う物でしたね」
イヌタは手を離した。しかし、既に遅かった。そこに転がっていたのは、全身が酷く焦げ、失った身体の断面からは滝のよう血が流れるリュアの姿だった
「リュアちゃんは……リュアちゃんは能力耐性がないんですよ!?リュアちゃんは!」
「能力耐性が……それは悲しいですね。にしても、なぜ亡くなってしまったのでしょうか」
「は?お前が殺したんだろ!」
ミューフは酷く、悍ましく睨んでいた
「平和を望む我々が人殺し?冗談は笑えるから冗談。これは誰がどう見たって自害か何かですって」
「ゲスが!」
「リュアさんのことは悲しいですけれども、それよりも貴方の罪の方が我々は悲しいですねえ。ピース本部へ来ましょうか。所謂逮捕というやつですよ」
「何を言ってる!気持ち悪いクソジジイが!お前なんて存在が犯罪だわ!存罪で死刑になれよ!」
イヌタはミューフの首を掴み、瞬間移動をしようとしていた。その瞬間、足音が聞こえた。ミューフの目に見えたのは、サカツキの姿だった。それを見るや否や、イヌタはミューフをそこへ放る
「痛!」
「サカツキ……ですか。困りましたねえ」
「酷くやられたな」
「やられた?私は何も知りませんよ?」
サカツキは既にイヌタに触れていた。イヌタはサカツキの能力により全身が粉砕される
「少し遅れていたら、私もリュアさんのようになっていましたよ。全く、暴力とは恥ずべき行為ですよ?」
イヌタは瞬間移動でその場を去る。ミューフの頭からは投げられた影響で血が流れていた。ミューフはそんな怪我には構わず、慌てた様子でサカツキに言う
「リュアちゃんが!リュアちゃんが死んじゃう!助けてください!サカツキさん!噂の蘇生術は使えませんか?私は何でもしますから、リュアちゃんの命は助けてください!」
「うるせえな。蘇生してやるから少し黙ってろ」
その頃、マリーヌとトリは戦っていた
こいつ、そこまで強くない?速度と防御は物凄いが、攻撃に関しては避けられる
「時間稼ぎはここまで。どうやらイヌタさん、失敗したらしいですからねえ。どうせ油断したんですよ、彼はそういう男ですから」
トリはその場から去った




