【00.06:00】
血の道標が不意になくなった。あれ、と足を止めて周囲を見回す。
不自然に途切れた道標は、しかし辺りには灯りのついた部屋などない、ただの廊下であった。
なにかしらの仕掛けで部屋が隠れているのだろうか。
麗月は壁を念入りに調べるが、何の変哲もない壁である。
ペタペタと触りながら調べてみるが、やはりただの壁であった。
ならばと近くの部屋に入って調べるものの、やはり何一つ、仕掛けは見つからない。
何か今までの道中で見落としがあったのだろうか――首を傾げて廊下へ出ていき、来た道を戻っていく。
戻る最中、部屋を見つければその部屋の中へ入り――それを数度繰り返して、気付く。
道標にしていた血や深淵の犬の残骸が、消えている。
しまった、と麗月は思う。
もう少し冷静に周りを見て行動していれば、きっと普段と同じように気づけていた変化だろう。
何もかもがきれいさっぱり――とまではいかないが、誰が見ても異変に気付くレベルの消失になるまで気づけなかったこと。
何かしらの手がかりを見つけなくてはと思うあまり、視野が狭くなっていた。
それは、手がかりを求めるのならばどんな小さな変化だって感じ取れないといけないと思う麗月にとっては、失敗以外の何物でもなかった。
焦れば焦るだけ視野が狭くなり、普段ならば気付く変化も見逃してしまう。
わかっていたことだ。それでも冷静になれずにこうも異変を見逃していたのだから、ため息しか出ない。
悪循環だなぁ、と麗月は深く息を吐き出し――頬を挟むように両の手で叩いた。
思ったよりも大きな音が廊下に響く。魔道具で存在を薄くしている意味がない。
麗月はまた失敗したなぁと苦笑し、危険がないようにその場を離れる。
とりあえず、向かう先は血の道標が不意に途切れた場所。
しかし――血痕も死体もほとんどなくなってしまった代り映えのない廊下は、冷静さを欠いて移動していた麗月を迷わせた。
行き過ぎたかも――そう思って振り返れば、あったはずの血痕や死体がない。
何か得体の知れないモノが近くにいて、回収しているのだろうか――そんな考えが浮かび、急速に頭が冷える。
完全に冷え切った頭は、冷えるを通り越して凍えたように震える体を動かせと命令する。
ゾワゾワと不快な鳥肌が立ち、心臓の音が早く鳴る。まるで警鐘のように頭に響く。
危険であり、関わらない方が良いというのは、頭ではわかっている。
それでも確認をしなければ、という考えに囚われ、麗月は階段のところまでフラフラと戻ってきた。
どのみち三階へ戻るにしてもここを通らなければならない。
だからこの場所を確認するのは必要な事――そう、自分に言い聞かせて。
ただ、少しばかり「来なければよかった」と麗月は後悔する。
廊下の変化はもちろんのこと、この吹き抜けも同じように変化があった。
血だまりはすでになく、何か激しく戦闘をしたのだろう――そんな痕しか、残っていない。
何かが近くに潜んでいる――そうとしか思えないこの状況に、麗月は緊張で体が強張った。
だから、だろうか。
背後から伸びた手が口と鼻を抑えられるまで、その存在に気付かなかった。
息を吸おうとすれば何か甘い匂いが広がり、急速に体の力が抜けて瞼が重くなる。
ここで意識を失ってはまずい――そう思うが、瞼は完全に閉じてしまった。
緊張で強張った体は緊急事態に反応することができず――麗月は、そのまま意識を手放した。
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