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いらっしゃい、非日常  作者: キリアイス
16/22

【00.05:15】

本日二話目の更新です。

 ――麗月が三階の部屋から抜け出した、その同時刻。


 深淵の犬を軽くあしらっていた優は、大袈裟にため息を吐いた。


「あー……麗月ちゃん、こっち来るのか。ってことは、三階も何かあったな……」

「るな……十鳥、さん? 来るのか、って……えっ、え?」


 大きなため息に体をビクリとさせた紅葉だったが、三階も何かあった、という優の発言を聞いて動揺する。

 二人が血の池に沈み、一人は呆然自失として動けないでいる中、地下にいた何か(・・)が起きたことによる脳のキャパシティーオーバー。

 そこに尊敬する笑や大学でも先輩である珠惠がいる三階でも「何かがあった」と聞けば、思考などまともにできやしない。

 ただオロオロと不安で、時々眼前に迫る深淵の犬の舌先に短い悲鳴を上げながら距離を取ろうとして失敗し、余計に腰が抜けるだけである。


 そんな紅葉の様子を横目で見ながら、やはり優は片手で深淵の犬をあしらいつつ地下にいたソレ(・・)を見る。

 ぶくぶくと膨れ上がり一階へと迫りくるソレは、時に体から触手を伸ばして生命を貪り喰らおうとしている。

 既に罠として張られていたはずの結界は喰われ(・・・)、少しずつではあるが上へと昇ってきている。

 触手が短いからまだ二階(ここ)には届いていないが、時間の問題であるのは明白だ。


「Onkaliskex」


 だから、優は手っ取り早く逃げるための魔術を発動させる。対象は【人の形以外の動いているモノ】。

 人間以外、でもいいのだが、それをすると被害に遭いそうな人物が血溜まりに沈んでいるので仕方がない。

 面倒臭いな、なんて思いながらも、助けてやろうと言ったのは己自身。

 ――といっても、最初から見捨てる気はなかったのだから、少々遊びすぎたかな、と現状を鑑みる。


 まあ、想定していたよりも組織に属する戦闘員の人間が弱かった、というのもある。

 恐らく、特異な能力に頼り切った戦闘員で、技量が戦闘員の基準より下だったのだ、と判断する。


 ――組織の戦闘員は質がだいぶ落ちたのか?


 深淵の犬の攻撃など意識しなくとも捌くことができる優は首を傾げる。

 本来ならば集中して発動させる魔術を、別のことを考えながらも発動させる。

 魔術は問題なく発動され、周りにいた深淵の犬も地下から這い上がっていたソレも、まるで床へ押さえつけられたかのように伏せ、ピクリとも動かなくなった。


「――さて、ヤタさん? モモモトの手を引っ張ってきてくんね?」

「えっ、な、なにが……」

「後で。それで、返事は?」

「あ、は、はい……」


 突然動きを止めた深淵の犬たちにおっかなびっくりとした様子の紅葉に、ただただ呆然と血溜まりにいる凜から視線を動かせない零香を頼んだ。

 優はというと、有理の傷をこれまた簡単に癒しの魔術を使用し塞いだ後、米俵を担ぐように肩へと担いだ。

 その後、凜の傷という傷を凜の応急処置と同じ方法――傷口を氷漬けにし、脇へと抱え持つ。


 ――しかし、ずっと凜を視点の合わない目で見ていた零香が唐突に正気に戻り、優へ食って掛かる。


「――ちょっと、凜ちゃんの持ち方! 乱暴にしないでよ!!!」

「るっせェなァ……正気に戻ったんならオマエが担げよ」


 そう言って少し雑に凜を零香へと押し付ければ、零香は癇癪を起こしたように優へと喚く。


 ――なるほど、正気に戻す道具(・・)くらいにはコレ(・・)はなるのか。


 視界に捉えた喚く零香を見て優はそう思考すると、興味を失う。

 未だに声を張り上げる零香を一切合切を無視すれば、有理を抱えたまま歩き出す。


 歩く先は三階へ戻る階段ではなく、廊下だ。


 二階にある点灯している部屋を、魔術の効果が及んでいる間に探し、避難しようという魂胆だ。

 ただ、優の後ろをついて行く二人はその説明をされていない為、進行方向に戸惑う。

 魔術で動かなくなっているとはいえ、深淵の犬が目視の範囲でも数十越えているその廊下を歩くのは阻まれる。


 ――それでも、二人で凜を支え、優の後を追う。

 置いて行かれれば自衛する手段を持たない二人は、先ほど味わった“死”の恐怖には勝てない。

 何もしてこない深淵の犬ですら恐ろしい――気付けば、ピタリと優の後ろを歩いていた。

 優が歩くのに邪魔だと判断した深淵の犬を蹴飛ばしながら歩くものだから、悍ましい道が出来上がってしまった。

 なるべく視界に映らないように伏せて歩いていた二人だったが、優が歩みを止めたのに気付き、背に顔をぶつけないように慌てて足を止めた。

 なぜ足を止めたのだろうかと優を見れば、優は二人のことなど見ておらず、ただ壁を見ていた。


「――ここ、部屋があるな」


 そうは言うが、優の視線の先にあるのは壁だ。

 ドアはない。部屋に繋がるような空間は、ない。

 二人が首を傾げ困惑しているのを他所に、優は何の迷いもなく視線の先にあった壁へと入って行った(・・・・・・)


「「――え……っ?」」


 二人して呆けた声が出る。

 目を丸くしていると、壁から優が顔だけ出して早く入ってこいと促した。

 二人は未だに脳の処理が追い付かない――が、それも見知らぬ声が聞こえた途端に吹き飛んだ。


「ちょ、ちょっと……あんた等、誰? いや、なんで、ここ、見破れてるの……っ」

「まーまーそー言わずに。こっち怪我人もいるんだって。細かい事情なんて後回しで休ませてくれよ」


 低めの少女の声と、飄々とした優の声が壁の中から聞こえる。

 少女が怒ったような声で、でも不安や恐怖も孕んだ声で優へと喋っているのを聞いて、紅葉も零香も慌てて壁の中へと突入した。


閲覧ありがとうございます。

魔術の文字列なんですが、いあいあでお馴染みのあの神話と同じで無理矢理発音するために当てはめた文字列だと思っていただければ、と思います。


このお話で年内最後の更新となります。皆様、良いお年を。

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