第59話 今度は俺が誘う
保留になっていた荷物を受け取れたのは、それから数日後だった。
受入れに必要な確認が終わり、施設側への引渡しまで済んだという。
俺たちが聞いたのは業務に必要なそこまでだった。
窓で見た動きから原因を決める説明は、報告へ足さなかった。
指定された受渡しの区画には箱を留めた台車があった。
物流側の担当者とマコが記録を持っている。
笹倉さんが受け取れる範囲を確かめ、俺と美緒は中の品目を照合した。
画面では灰色だった名前が、実物の袋に印刷されていた。
「こっちは、ここでいいですね」
美緒が台車の留め先を示した。
中身を出す前に置き場所を決める。
俺も順に番号を読んだ。
「揃いました」
マコが引渡しの記録を閉じた。
俺は見慣れた会社名のある箱を見た。
届いた時にはただ嬉しいと思うはずだった。
今日は袋を数える間、なかなか息が抜けなかった。
確認が終わってからマコへ礼を言った。
「ありがとう。受け取れた」
「俺だけに言うなよ。みんなで渡してるんだから」
隣の担当者にも向き直った。
向こうが笑って手を上げる。
マコは俺の手元の記録を指した。
「今度はそっちで使ってくれ」
「うん」
次の試験まで今日始めることにはしなかった。
数も日程も改めて相談する。
届いた物を机の上へ固定できたところで、その日の引渡しを終えた。
◇
勤務を終えてからマコへ連絡した。
『休み合う時に、窓へ行かないか』
送ってから読み直した。
仕事の見学先ではない。
地球の夜側が見える共用の窓だった。
『飯の前?』
『後でもいい。急がず見たい』
少しして都合の合う時間が届いた。
俺は自分の予定へ入れた。
仕事の欄とは別にした。
会った時、マコは黒い上着のポケットへ手を入れていた。
シャツも上着も身体の線が出ないくらいゆったりしている。
俺を見つけると片手を出し、窓の手すりへ掛けた。
「何か見つけた?」
「前に見たのと同じ場所だけど」
「それは分かる」
俺は隣に身体を留めた。
窓の向こうでは地球の暗い方に街の灯りが集まっている。
自分がいた街がどれかは分からなかった。
「今日はお前と見たかった」
言ってから外を見た。
ちゃんと顔を見て言うつもりだったのに、最後だけ間に合わなかった。
マコはしばらく何も言わなかった。
手すりに置いた手の向きが変わる。
俺は端末を出さずに待った。
「じゃあ、俺も」
「何が?」
「お前と見に来た。地球だけ見たいなら一人で来る」
俺は隣を見た。
窓の反射ではない方の顔があった。
いつもの軽口へ逃げれば楽だった。
今日はそうしなかった。
「来てくれてよかった」
「うん」
マコはもう外を向いていた。
耳のところへ髪を押し戻し、同じ手をまた手すりへ掛ける。
灯りを見ながら二人で黙った。
気まずくなる前に話題を探す癖が出た。
見つけたのは結局、地上の帰り道にあった店の話だった。
「あそこ、まだあるかな」
「帰ったら見に行けばいいだろ」
「うん。お前と」
マコは振り向かなかった。
でも、返事はすぐだった。
「そこは誘い直さなくていい。もう行くって言ってる」
地上で一緒に食べる約束は、まだ先に残っている。
俺は今夜の窓を写真に撮った。
マコは頼んでいないのに少し寄ってくれた。
撮った写真には俺の顔が大きく入り、地球が隅へ寄っていた。
消そうとするとマコに止められた。
「それも送って」
「地球、あんまり写ってないぞ」
「知ってる」
俺は撮り直す前の一枚を送った。




