第58話 できなかったところから
二回目の食事の記録が揃ったのは、翌日の夕方だった。
美緒は受け取ったままの回答を並べた。
後の食事を楽しみに仕事へ戻れたという人がいる。
その時になったら別の味にしたくなったという人もいる。
一度決めたからといって、後まで同じ気分でいられるわけではなかった。
札のことを自分で直していた人からも返事が来た。
『二つ目は向きを変えて留めておきました』
俺はその一行へ印を付けた。
直した後で使えた記録だ。
最初の図だけで使えた人の数へ足さない。
食べ終えた容器の戻し先についても一つ質問があった。
次の袋を留める場所と間違えかけたという。
食べ終えた後まで見たいと言ったのは自分たちだった。
本当に最後まで問題が出てきた。
「味の話、少ないな」
「今回聞いたことがそうでしたから」
美緒が答えた。
「でも、おいしかったっていう欄はあります」
「あるのか」
「あった方が嬉しいので」
彼女が見せた回答には、同じ味を続けて選びたいという短い感想があった。
俺はそれを先頭へ移しかけた。
思い直して札の写真を開く。
「これ、最初に付けるか」
「見えなくなった方ですか?」
「うん。図を読まなかった人の失敗に見えると、そこを直さず終わりそうだから」
美緒が俺の方へ向いた。
それから写真の横へ、帯に留めた時の向きを描き足した。
地上へ送る記録には六人で行ったことを大きく書いた。
十二人で六種類から選んだ結果ではない。
途中で案内を変えたことも隠さない。
送信を終えると、机の上は空になった。
練習の時は、空の容器だけでも手が足りなかった。
何もないと、自分の指まで余るようだった。
◇
美緒はすぐには席を離れなかった。
借りた物を返す一覧は終わっている。
俺は鞄を留め直し、彼女が閉じた画面を見た。
「何か残った?」
「いえ。今日の分は終わりました」
そう答えてから美緒は、自分の手を見た。
「あの札、私が読める方へ向けてたんです」
「うん」
「一度ちゃんと留めてみたのに。持って行く時には向きを変えるって、思いつかなかった」
美緒は俺が何か言う前に笑おうとした。
うまく笑えず、口を結び直す。
「悔しいです」
俺は頷いた。
いい結果だった、と先に言えば終わる話ではなかった。
「俺、最初の人が自分で直してたのも見逃した」
「相沢さんは聞き直してくれました」
「見逃したのは本当。次は自分で気づきたい」
美緒がこちらを見た。
「……私もです」
「うん」
それ以上の言い方が見つからず、俺は返却用の固定板へ手を伸ばした。
角に指が届いた時、美緒の手も同じところへ来た。
「私が持っていきます」
「俺も帰る方だから」
「じゃあ、そこまで一緒に」
今度の笑い方は無理をしていなかった。
俺は固定板を携行帯へ留め、美緒が鞄を持つのを待った。
通路で地上からの返信が来た。
札が隠れた写真を次の包装の検討に使いたいという。
見せてほしいのは、うまくいかなかった方だった。
画面を向けると美緒は一度止まった。
指で写真を大きくし、頷く。
「使ってもらいましょう」
声にまだ悔しさが残っていた。
俺はそのままの声で言ってくれたのがよかった。
二人で返却先へ向かった。
今日は何も発明していない。
でも地上で待っている人に渡せるものは、出勤した時より増えていた。




