第57話 次の夕飯の置き場所
白内障手術の経過が良くなってきた為、明日はお祝いに一挙に数話投稿しようと思いますm(__)m
「同じ魚を二つにします」
最初に来た参加者が言った。
俺は美緒を見ないようにした。
昨日と同じ話を自分以外の口から聞いた。
使う品目と数を確かめた後で、六人分の希望を受け付けた。
選べる範囲が変わることも含めて参加してもらう。
端末に出ている残数を見て別の組合せへ決めた人もいた。
確認用の区画には席ごとに固定具と容器の置き場所がある。
食事の扱いは施設の担当が受け持ち、俺たちは受け取りから使うまでを記録する。
食べ終える速さを競う会ではない。
最初の人は二食分を見て笑った。
「これ、家で買う時みたいですね。二つ買って片方を楽しみに残すの」
「残せます?」
つい聞いたら、美緒がこちらを向いた。
相手はもっと笑った。
「今日は仕事に戻るので!」
俺も戻ることにした。
参加者ではなく、自分の記録へだった。
二人目は別の品目を一つずつ選んだ。
袋の名前を確かめ、次に食べる方を指定の携行場所へ留める。
今食べる容器を机へ取り付けるまで、思ったより手を動かしていた。
俺なら途中で順番を間違える。
そう考えていたら三人目の手が止まった。
「こっちは、今のでしたっけ」
同じ品目を二つ受け取った人だった。
机に付けた方と携行帯へ留めた方を見比べている。
どちらもまだ開いていない。
俺は口を挟まず、何を見たか聞いた。
「同じ物だから、こっちを食べればいいと思ったんです。でも取り出したら札が見えなくなって」
美緒が記録する手を止めた。
担当の人と一緒に留め方を確かめる。
二回目の食事を区別する札が、固定する帯の下へ隠れていた。
机へ戻した方は次に使うつもりの袋だった。
今使う方を携行場所へ留めていた。
食べる順が入れ替わっても同じ品目だから見た目では気づかない。
「開ける前に聞いてもらえて助かりました」
俺が言うと、その人は少し首を傾げた。
「すみません。図は見たんですけど」
「見た後に分からなくなったところが欲しいんです。俺も図ではできそうでした」
美緒が空の容器を使って留める向きを確かめた。
俺が練習した時には札を正面へ向けていた。
持ち運ぶ時に手が掛かりにくい向きへ回すと、札は帯の内側へ入る。
正しく留めようとしただけだった。
担当の人と次の人の案内をいったん止めた。
まだ受け取っていない人へ事情を話す。
空いている席を使って待ってもらい、今渡した分を一つずつ確かめた。
誰かに急いで食べてもらって席を空ける必要はなかった。
最初に来た人が、自分の二つ目を指した。
「これも見ます?」
「お願いします」
その札も半分隠れていた。
本人は自分で向きを変えて読んでいたという。
「言っておけばよかったですね」
「今言ってもらえてよかったです」
美緒が答えた。
俺は最初の人の記録へ、迷わずできたと書きかけていた。
その一行を消した。
札の確認を案内へ追加してから、残りの受け取りを再開した。
途中で案内を変えたことは記録を分ける。
全員が同じ条件でできたことにはしなかった。
机へ固定された器の蓋が順に開いた。
温かい匂いが来る。
俺は腹を空かせたまま、誰が何をどこへ留めたかを書いた。
一人が食事を終えると、片づけながら携行帯の次の袋を見た。
「こっちも楽しみがあるのはいいですね」
俺は顔を上げた。
今日はまだ、その袋を食べてもらうところまで終わっていない。
でも明日のために残してある夕飯は、ちゃんとそこに見えた。




