第53話 届くまでの距離
おやおやおや・・・?
「仕事してるところ、見てみたいんだけど」
マコへそう送ると、返事が来るまで、自分の服を確かめたくなるほど間があった。
端末越しなので服は見られていない。
『何を急に』
『見学で、自分の知らない仕事が多いと分かった』
『俺が飯食ってるだけだと思ってたか』
そこは否定しておいた。
否定した後で夕飯を予約した。
案内されたのは前にも来た物流側の見学窓だった。
担当の人が入ってよい場所を確かめ、俺とマコは窓に沿った手すりへ身体を留めた。
操作をしている人たちの部屋には入らない。
こちらへ出ている表示も見学用のものだけだった。
窓の下にはステーションの大きな骨組みがある。
その向こうを探していると、マコが指で窓の縁を二度叩いた。
「少し右の方」
白い点があった。
星かと思ったが、見ていると骨組みとの位置が変わった。
近づいているという案内が出ている。
「あれが荷物?」
「荷物を運ぶ方。中身だけで飛んでくるわけじゃないんだ」
マコの説明でやっと形が分かった。
小さな灯りの間に暗い部分がある。
地上なら遠くのトラックを見つけたくらいの大きさだ。
窓の外には道がない。
担当の人は接近の様子を示してくれた。
受け入れる判断と、その後に荷物を引き渡す判断は別だという。
この窓へ来れば全部見られるわけではなかった。
「お前もあれを動かすのか?」
俺が聞くとマコは首を振った。
「運航は運航の人。俺が勝手に迎えに行ったら邪魔だろ?」
「窓を開けて呼ぶわけにもいかないしな」
「・・・地上でもやらないでくれよ?」
点だったものが少しずつ大きくなる。
俺は自分がどこを握っているか確かめてから、窓へ顔を寄せた。
マコは時々見学用の表示を見ていた。
横顔が真面目で、声を掛けるのをためらった。
向こうから先に気づかれた。
「どうした?」
「何を見てるのかと思ってね」
「今は同じものを見てる。俺、休憩中だよ?」
「あぁ・・・そうだった」
誘った時に勤務の合うところを聞いたのは俺だった。
仕事の場所に来ると、相手まで仕事の人にしてしまう。
受け入れが進んだという案内が出た。
船体のような形は窓枠の下へ隠れ、見えなくなった。
最後まで一つの動作を眺められる場所ではなかったらしい。
俺はしばらく窓の下を見ていた。
「袋になると小さいのにな」
「小さいものも、ここまでは運ばないと届かないから」
机の上の夕飯だけを見ていると、その距離を忘れる。
足りなければ棚の奥から出てくるような気がしていた。
マコが手すりから片手を離し、俺の目の前で握ったり開いたりした。
「力入ってるぞ」
俺は自分の手を見た。
見ているだけで荷物を引っ張り込むつもりになっていた。
指を緩めるとマコが笑った。
「また見たい?」
「うん。でも次は、見る前に誘う方を俺がやるぞ」
「今日もお前からだっただろ」
言われて思い出した。
仕事の用事を聞いただけのつもりになっていた。
「じゃあ、次も俺から」
マコはすぐに答えず、もう一度窓を見た。
「そこ、忘れないでよ?」
暗い窓ガラスに口元が映っていた。
俺は端末を開かなかった。
今の言葉まで記録に任せるのは、さすがに違うと思った。




