第51話 おかえりのある場所
あれ・・・様子が・・・?
同じハッチを戻ると、手すりの間隔まで懐かしかった。
来る時には鞄をぶつけた。
帰りは先に鞄を寄せ、それから身体を送った。
覚えたことが一つあるだけで帰り道は短く感じる。
笹倉さんと借りた物と記録を確かめた。
説明を受けたところと、自分たちが試したところを分けて残す。
あの小さな容器は開けていない。
味の欄は空いたままにした。
「お疲れさまでした」
共用通路で笹倉さんと別れた。
美緒は鞄の留め具を直してから俺を見た。
「相沢さん、この後は?」
「マコと飯だよ。小宮さんは?」
「私も夕飯です。今日は一人で、何も記録しないで食べます!」
「それ・・・仕事の人に言っていいのか?」
「相沢さんに言ってるので」
言い返す言葉を探しているうちに笑われた。
美緒は自分の予約を見た。
俺も端末を開く。
見学から戻ったことと、予定の時刻に行けることをマコへ送った。
「報告は明日で大丈夫ですよね」
「うん。覚えてるうちに忘れそうなところだけ書いておく」
「それ、全部になりません?」
俺は鞄の中の手帳を押さえた。
美緒の手帳もまだしまわれたままだった。
◇
マコは食堂の席で待っていた。
机の上には飲み物だけが留まっている。
まだ食べていないのかと聞きかけて、自分の予約時刻を見た。
俺が少し早かった。
「戻ったぞ」
「見れば分かるよ」
マコが隣の空いた席を指した。
俺は身体を留め、鞄を机の下へ固定する。
いつもの動作を終えるまでマコは何も聞かなかった。
「どうだった?」
「机が狭かったなぁ」
「第一声がそれかよ」
「器は入るんだ。でも二人で使うと腕が当たるんだ」
見学先の名前や資料は出さなかった。
自分が座って困った話をした。
マコは自分の腕を横へ出しかけ、隣の俺を見て止めた。
「なるほどな。俺はお前に当たる!」
「俺はお前の飯を取る!」
「そっちは器のせいにするな!!」
二人分の夕飯を受け取って戻ると、さっきの話を思い出して容器を寄せすぎた。
今度は自分の飲み物へ手が届かない。
マコが黙って指を差す。
俺は容器を元へ戻した。
「明日の報告に書くか?」
「今のは書かない」
「成長が早いな」
俺は袋を開けた。
温かい匂いが近くまで来た。
船では最後まで何も食べていなかったから、一口目がいつもより大きくなった。
「ゆっくり食えよ?」
「うん、分かってる」
まだ熱かった。
マコの顔を見ないで噛んだ。
しばらくは二人とも食べていた。
窓の向こうには来た時と同じ地球がある。
俺がどこへ行ってきたかを話さなくても、隣に座ることはできた。
「楽しかったんだな」
マコが言った。
「分かる?」
「お前、さっきから飯を見てない時も笑ってるぞ」
俺は口元を触りそうになった。
食事中だったのでやめる。
「帰ってから話す相手がいるのも、よかったんだと思う・・・」
マコのカトラリーが止まった。
俺は続きを食べた。
今の言い方を冗談へ変えるほど器用ではなかった。
「・・・そうか」
短い返事の後でマコが俺を見た。
「おかえり」
帰った時には言わなかった言葉だった。
俺も食べる手を止めた。
「ただいま」
それだけ言うのに喉が詰まった。
辛い料理を選んだわけではない。
マコは何もからかわず、自分の夕飯へ戻った。
俺は飲み物を取った。
今度はちゃんと手の届くところにあった。
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