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40歳、宇宙出張。 ~食品会社の普通のサラリーマンですが、会社命令で宇宙に行くことになりました~  作者: 綺羅星の猫


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第48話 故郷を持っていく

リセさんが説明室へ来た時、机にはリンカの試作品がなかった。


設備の点検中はこの作業を休む。

今日は別の説明室で、記録と取り付け方だけを話すことになっていた。


美緒は二つ目のカードを彼女へ向けた。

俺が開ける順を逆にしかけた方だ。

包装の担当から届いた図では、小袋が最初から本体へ留まる案になっている。

まだ作って試したものではなかった。


リセさんは図を読んでから俺を見た。


「今度は迷わずにできそうですか?」


「触ってみないと分からないです。昨日の夕飯で、疲れた時の自分をもう一回見たので」


俺は臨時の窓口で冷たい方を選んだ話をした。

他の人が何を食べたかや、設備の詳しい記録は付け足さない。

俺がどう食べたかの話だった。


「温かいものを待たなかったんですね」


「待つ方も選べました。でも、その時は早く食べる方を」


リセさんはしばらく黙った。

カードの赤い印を指先で辿っている。


「私もあります。帰った時の料理を待てない日が・・・」


美緒が顔を上げた。


「懐かしい料理でも?」


「はい。懐かしい時ほどすぐに食べたくなることもあるんです」


俺は自分の部屋の小さな机を思い出した。

会社の飯ではなく、昔から食べ慣れた味を食べたくなり、結局近くの店で済ませた夜がある。

帰りたいのか食べたいのか、どちらだったのだろう。


「リンカはそういう料理なんですか?」


リセさんが頷いた。


「小さい頃の食卓を思い出します。でも、いつもリンカだったわけではないんですよ」


俺は一覧の一行にした料理をもう一度見た。

名前の向こうに、別の夕飯がいくつもある。

まだ一つしか教わっていなかった。


美緒は図を閉じた。


「食べる場所のことも聞かせてもらえますか」


その質問でリセさんの指が止まった。


「食べるものから先にお願いしてしまいましたね」


「使い方が違うと今の図も変わってくるので」


彼女は笹倉さんの方を見た。

俺たちもそちらを向いた。


    ◇


リセさんが見せた画像には、細長い机があった。

横へ固定するものが並んでいる。

席の後ろは狭く、手すりに沿って出入りするように見えた。


「船では、この区画で食事をしています」


俺は画面へ顔を近づけた。

さっきまで図の線だったところが、人の使う場所になっている。


「ここの席でリンカを?」


「持って行けるものを、ここで食べます。作業の時間によって、揃って食べられないこともあるんです」


美緒が机の取り付け位置を聞いた。

リセさんは答えられるところを示し、図面の確認が必要な部分は窓口へ戻した。


俺は画面の机を見直した。

試作の器をそのまま持って行っても、あの席では使いづらいかもしれない。

相手の机を見ないうちから、こちらの器へ合わせてもらうつもりになっていた。


「使うところを見せてもらえたら、分かることがありそうです」


言ってから笹倉さんを見た。

また間違って扉の前へ行く話ではなかった。


笹倉さんは見学として扱える範囲と担当の確認が要ると言った。

今ここで乗る約束にはしない。


リセさんは頷いた。


「こちらの食事担当にも聞いていただきたいことがあります。窓口を通して相談してもよろしいでしょうか?」


美緒が俺の方を向いた。

俺は先に自分の言葉で返事をした。


「行ける範囲なら・・・見たいです!仕事の方も会社へ聞きます」


「私もです!」


美緒が続けた。


リセさんは笑った。

自分が見せたい場所を、ようやく話せた顔だった。


面談を終えた通路で俺は手すりを掴み直した。

マコと窓から見た船には灯りしか見えていなかった。

今はその中へ食卓が一つ増えた。


外へ出るわけでも、操縦するわけでもない。

それなのに勤務表を開く手が、最初の出張の時とは違っていた。


「相沢さん」


美緒が呼んだ。


「顔、楽しそうですよ」


俺は隠そうとして、隠す理由がないと気づいた。


「うん。楽しみなんだと思う」


そう言ったら美緒も笑った。

まだ乗れると決まっていない船へ、二人分の返事が先にできた。

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