第45話 見ないふりの下手な男
マコから来た写真には俺が写っていなかった。
小さな花が一つ増えている。
この間の窓から撮ったものだった。
『二つになった』
俺は花を見て、次に連絡の届いた時刻を見た。
マコが知らせてくれた終業予定を過ぎている。
俺はまだ仕事の記録をまとめていた。
返事を作っている途中で別の連絡が入り、先にそちらを開く。
気づいた時には花の写真を閉じていた。
俺は戻って一行を送った。
『今確認した。次は俺も見るよ』
すぐに既読にはならなかった。
俺は手帳へ戻り、同じ行を二度読んだ。
仕事に集中できていない理由を、今日の作業量のせいにはしなかった。
◇
翌日の短い休憩でマコと会った。
食堂の端の席へ収まると、俺より先に容器を留め終えたマコが聞いた。
「仕事、長かった?」
「昨日はね・・・」
「今日も同じ顔してる」
俺は片手で頬を触った。
マコは笑わなかった。
「花、見たぞ」
「返事は読んだ」
それで話が済んだように飲み口へ手を掛ける。
俺は自分の容器へ伸ばした手を止めた。
「昨日、俺の返事を待ってた?」
マコがこちらを見た。
「寝る前に一回見ただけ」
「悪い」
「仕事の途中ならいいんだよ」
マコは飲み物を一口取った。
俺も飲もうとしてやめた。
今は話を途切れさせたくなかった。
「仕事中じゃない時も、お前の話を後回しにしたことがある」
マコの手が戻ってきた。
ふたを閉じるところで止まっている。
「・・・何の話?」
俺は机の縁を見た。
ここでは指を放しても身体は流れない。
返事を後回しにする理由はなかった。
「お前が言ったこと。昔から知ってるから、また聞けばいいと思ってたんだ」
「全部覚えてなくていいじゃないか」
「覚えてなくていいのと、聞かなくていいのは違うだろ」
マコが視線を外した。
隣の席は空いている。
そちらを見る用事があったわけではない。
俺は黙って待った。
たくさん言えば今までの分を埋められる、というものでもない。
「お前・・・何かあった?」
「花の写真が来た」
「・・・それだけ?」
「あと、俺が写ってる写真をお前が持ってた」
マコは口を開きかけて閉じた。
ふたに置いていた指を机へ戻す。
長く知っている顔だった。
知らない顔でもあった。
俺はそこへ名前を付けるのが怖い。
違っていたら困るし、違っていなかったらもっと困る。
その間を親友という言葉でずいぶん長く渡ってきた。
でも今、困る方だけを相手に渡したくなかった。
「次に何か見つけたら、ちゃんとお前を呼ぶから。二人で見たいと思ったら、そう言うよ」
マコは俺の顔を見た。
「飯じゃなくても?」
「うん」
「その時、俺が仕事でもか?」
「空いてる日を聞く」
マコの口元が動いた。
笑うまでに少し時間が掛かった。
「そこは覚えたか」
「前に怒られたからな」
「怒ってないって」
「じゃあ、教わった!」
マコが笑った。
容器を留め直してから机へ片手を置く。
俺も手を出した。
指先が触れた時、今度はマコを見ていた。
「呼んだら、来てくれる?」
「あぁ、行くよ」
すぐに返事があった。
それからマコが付け加えた。
「行きたいって言ってるんだぞ?」
俺は頷いた。
ここでいつもの冗談を返したら、また聞かなかったことになる。
指が離れた後も、顔を見ていられた。
休憩の終わりが近づき、マコが先に固定具を外した。
俺は端末へ何か見せられるものがないか探しかけた。
やめた。
昨日の写真へ、急いで写真を返す必要はない。
仕事のついでではなく、会いたいからマコを誘う。
次はそうしようと思った。




