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40歳、宇宙出張。 ~食品会社の普通のサラリーマンですが、会社命令で宇宙に行くことになりました~  作者: 綺羅星の猫


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第42話 二人分の寄り道

マコが呼んだ場所は食堂ではなかった。


『夕飯の前にちょっと寄るか』


仕事の見学かと思ったら、指定されたのは共用区画の小さな窓だった。

俺もマコもその日は休みだった。

受け取る夕飯の時刻までは空いている。


マコは鞄を持っていなかった。

黒い上着の下にゆったりしたシャツを着て、手すりに片手を掛けている。


「何が見えるんだ」


「まだ見せてない」


「地球?」


「地球は反対側」


マコは俺が隣で止まるのを待った。

窓の向こうは宇宙ではなく、灯りを落とした栽培設備だった。

閉じた区画の中で細い茎が列になっている。


葉の間に小さな花があった。


「咲いてる・・・」


「昨日、戻る時に見つけたんだ。ここの通路は使っていい」


育てているものを触れる場所ではない。

窓へ顔を寄せると、自分の鼻の反射が先に見えた。


マコが笑った。


「近すぎ」


俺は少し離れた。

花の向きが地上の鉢植えと違う。

根元の容器から伸びた先が、窓の方へ横に続いていた。


「休みの日に、植物を見に来るとは思わなかった」


「お前、俺を何だと思ってたんだ」


「飯に誘う人」


「今日は誘っただろ」


もっともだった。

飯の前に何か見ようとしたことまで、俺は予約の途中に入れていた。


「見つけてすぐ来たかった?」


俺が聞くとマコは窓の縁を見た。


「昨日は戻った」


「疲れてたか」


「お前、今日休みだって言ってたから」


俺は花を見たまま返事を探した。

見つけたものを、今日まで取っておいてくれたらしい。


俺の顔が窓に映っている。

隣にはマコの顔があった。


「二人で見る方がいいな」


言うとマコがこちらを向いた。


「今さら?」


「今、分かった」


「遅い」


そう言いながら窓へ戻る顔は笑っていた。


    ◇


夕飯を受け取り、二人用の席へ収まった。

俺は魚でマコは肉だった。

食べ始める前に、さっきの花を端末で見せ合う。


俺が撮った写真には自分の手が大きく入っていた。


「花、小さいな」


「本物も小さかった」


「お前の手を撮りに行ったんじゃない」


マコは自分の写真を俺へ送った。

花がちゃんと写っている。

画面を閉じる前に、二枚目の二人の写真が端へ出た。


俺はそちらを見た。

マコは端末をすぐにはしまわなかった。


「それ、他の人に見せた?」


「いや、見せてないな」


「そうか」


俺も同じ写真を持っている。

別の人へ送ることは考えていなかった。

何となく、俺とマコで持っている方がよかった。


「見せないで取っておくの、嫌?」


マコが俺を見た。


「嫌じゃない」


返事が早かった。

俺は自分の魚の袋へ手を戻した。


何か言い足すと、今の答えを聞かなかったことにしてしまいそうだった。


食べ始めるとマコが一口目で眉を寄せた。


「どうした?」


「熱い!」


「急ぐから」


「お前にそれを言われる日が来るとはな・・・」


俺は笑いかけ、自分も同じことをやった。

魚の味より熱さが先に来る。

マコはもう笑っていた。


地上にいた頃なら店の机を挟んでいた。

今は容器も身体も留めてある。

それでも二人で飯を食うと、知っている時間が戻ってきた。


全部が前と同じではなかった。


袋を留め直した俺の袖をマコが摘まんだ。

緩んでいるところを直す指ではない。

俺は顔を上げた。


「次に何か見つけたら、お前も呼べよ」


「うん」


「飯じゃなくても!」


指が離れた。

俺は取っておくものを一つ増やした。

まだ何も見つけていないのに、見せる相手は決まっていた。


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