第40話 今度は食べる側へ
今日の記録を送った翌朝、笹倉さんから面談の案内が来た。
追加の質問ではない。
先方から俺と美緒へ相談したいことがあるという。
笹倉さんが俺たちの机へ来たところで、最初に担当範囲を聞いた。
「新しい食品の説明ですか」
「今の評価とは分けた相談です。詳しい内容は面談で、ご本人から」
笹倉さんは続けて、出席することと仕事を引き受けることは別だと言った。
会社へ戻す確認が必要なら、その場で返事をしなくていい。
前に出張を命じられた時は、半年後の日付が先に出た。
今回は俺が返事をする欄が空いている。
美緒へ連絡すると、彼女も同じ案内を持っていた。
「行きますか」
俺が聞いた。
「聞きたいです。前に話していた食卓のこともまだ分からないので」
「仕事になるかどうかは、その後?」
「はい。全部を私たちで決める話なら持ち帰ります」
美緒は案内へ出席すると返した。
俺も自分の端末で返事をする。
次の予定を空ける前に、今日終える仕事を見た。
印刷した版の照合が残っている。
俺は自分の画面だけを見て済ませず、窓口へ出るものまで確かめた。
七食を止めた日のことがまだ役に立っていた。
あの日へ戻るためではなく、今日の机を閉じるために。
◇
面談に使うのは前と同じ共用の説明室だった。
美緒と通路の手すりを辿り、ハッチの前で案内を確認する。
今回は笹倉さんが俺たちを呼んでから扉が開いた。
リセさんは中の机にいた。
俺は身体を固定し、鞄を脇へ留めた。
美緒も隣へ収まる。
机の上には俺たちの食品一覧がなかった。
リセさんが小さな端末を留めていた。
画面はまだ閉じている。
「先日は、ありがとうございました」
彼女が言った。
美緒は礼を返してから、使ってみて困ったところはなかったか聞いた。
リセさんは指の疲れ方の話をし、美緒は前の記録へ付け加える。
俺はそのやり取りを聞いた。
会うたびに最初から同じ説明をしなくてもよくなっている。
リセさんは美緒の手帳が閉じるのを待った。
「今日、ご相談したいのはほかの食事のことです」
俺は鞄へ手を伸ばしかけた。
品目の資料を出すつもりだった。
彼女が首を横に振った。
「みなさんの料理ではありません。今度はこちらの食事を」
美緒が顔を上げた。
リセさんは閉じていた画面を開く。
そこには俺たちの袋とは違う器が映っていた。
中身の名前は読めなかった。
白いものと、透き通ったもの。
器の縁に沿って細い色が重なっている。
地上の店の料理にも見えたが、どこの店なら出てくるかは分からない。
「きれいですね」
美緒が言った。
「ありがとうございます。持って行く時には同じようにはできないことがあります」
リセさんは別の画像へ切り替えた。
食べ物の色は似ている。
器の中ではなく、運ぶための容器に収まっていた。
俺は袋の写真を先にした日のことを思い出した。
どこへ運んでも、並べた例と同じになるわけではない。
「こちらも保存や扱い方を変えるのですか」
美緒が聞いた。
「必要になります。でも、食べる前に諦めるところを減らしたいのです」
彼女は俺たちの顔を順に見た。
「食べていただいて聞きたいことがあります」
俺は画面へ目を戻した。
綺麗なものを綺麗だと言うだけなら、さっき美緒が言った。
食べられるかどうかを俺が写真から決めることはできない。
「確認をする担当の方にも見てもらうことになります」
美緒が先に言った。
「はい。そのための相談も窓口へお願いしています」
笹倉さんが頷いた。
試食を始める話ではない。
必要な説明と担当を揃えるところから進めるという。
俺は手帳を開いた。
何を聞かれるのかは、まだ分からなかった。
それでも、食べる人へ一方的に名前を送る話ではなくなっている。
「相沢さん」
リセさんが呼んだ。
俺は顔を上げた。
「召し上がる方になっていただけますか」
宇宙へ行け、と言われた時は嫌ですと答えた。
袋を渡す窓口の前では、夕飯を取りに来たと答えた。
今は俺の返事を、三人が待っている。
「食べていいと確認できたら、ぜひ」
そう答えてから俺は付け足した。
「できれば・・・その料理の名前も教えてください」
リセさんが笑った。
「はい。名前からお話しします」




