第39話 箱から出てくるもの
器が届いたのは説明会の翌日だった。
便の受入れが許可された後も、貨物が全部同じ扱いになったわけではない。
保管記録を確かめられなかった食品は今回の評価へ回さない。
器は別の確認を終え、洗浄と準備をする担当へ渡された。
届いた数の欄に、使える数が別にある。
俺は両方を読んでから受領の記録を閉じた。
物流側のマコから来た連絡は、昨日の一行より長かった。
仕事の話なので、今度は全部読んだ。
『準備が済んだら、使うところを見たい。業務として』
最後をわざわざ書いてある。
俺は美緒へ転送する前に一度読み直した。
転送しても困るものはなかった。
◇
試食を始める前、作業台へ器を三つ並べた。
洗浄を終えたものを固定トレイへ取り付け、担当者が食品を収めた。
蓋を開けるところから評価する。
開口部とカトラリーの保持を確かめるまでは、見栄えの感想を取らない。
俺と美緒は身体を作業台の固定具へ収めた。
マコは横の手すりで身体を止め、見学する位置から覗く。
俺の前には白いご飯と鶏肉がある。
別の器の野菜が、袋の中で食べていた時より鮮やかだった。
手を離しても器は動かなかった。
固定されているのだから当たり前だが、目の前のものを全部、自分の指で支えていなくてもいい。
蓋を開ける順番を確かめ、鶏肉を一口取った。
保持するための器の形に手首を合わせる。
慣れた袋より時間が掛かった。
「少し、取りにくい」
俺が言うと美緒は位置を記録した。
「最初に試したところと、同じですか」
「器が本物になったら、持つ方を見ちゃった。食べ物より先に」
マコが横から俺の手元を見た。
「それ、最後まで届く?」
俺は器の奥へ先端を寄せて確かめた。
途中で角度を変えれば届く。
ずっと同じ持ち方のままだと、縁へ当たった。
美緒が聞いたこととマコが見たことが別々の欄に残る。
三人で同じ感想を書く必要はなかった。
食べ進めると、どれを次に取るか目で選べた。
ご飯の次に鶏肉を取り、野菜の方へ手を伸ばす。
袋の名前を思い出して選ぶのとは違った。
「どうですか」
美緒が聞いた。
「これ、地上の机に持って帰りたい」
「器ですか」
「全部並んでる方」
彼女は俺の前を見た。
笑うより先に、蓋を開けた器と閉じた器の写真を取る。
今日の扱い方で見えたものを残していた。
マコは俺が食べ終わるまで横で見ていた。
「箱を開けた時は、皿だと思った」
「皿だろ」
「今は、夕飯に見える」
美緒がマコを見た。
「次は高瀬さんにも、評価に入ってもらえたら」
「仕事の予定を確認してからな」
マコは笑って答えた。
俺は最後のご飯を取った。
最後の一口では、持つ角度を自分で変えられた。
◇
片づけの後、マコと俺は同じ通路へ出た。
美緒は今日の記録をまとめてから戻る。
俺も自分の欄を送るため、一度仕事の机へ寄ることになっていた。
窓のところでマコが止まった。
「写真、撮ってよかった?」
「器の? 記録の分は担当に聞かないと」
マコは俺を見た。
「この間、二人で撮った方」
俺は鞄を手すりへ留めた。
すぐに端末を出せる位置にある。
でも、その写真を見ながら返事をする必要はなかった。
「よかった。撮ってよかったよ」
「地球、あんまり入ってなかった」
「お前が入ってた」
マコは窓の方を向いた。
今は昼の地球が見える。
青い縁が白い雲へ続いていた。
「また撮る?」
俺が聞くと、マコは頷いた。
「次も、俺を先に入れろよ」
俺は端末を出した。
二人とも手すりへ掴まってから画面を確かめる。
地球は前より大きく入った。
マコがその端へ顔を寄せた。
今度は身体が流れたせいではなかった。
俺は画面の中だけでなく、隣を見た。
「これでいい?」
「いい」
シャッターを切った。
写真を送るとマコは自分の端末で開き、そのまま鞄へしまった。
それぞれの勤務先へ分かれる前に、俺の袖を一度だけ摘まむ。
「地上の飯の約束、忘れるなよ」
「忘れてない」
宇宙で二枚目の写真を撮っても、地上の約束は別に残った。




