第35話 窓の向こうで待っている
次の便は、まだ接続していなかった。
朝の連絡では一部の貨物の保管記録を確認しているとあった。
運航自体と食品を使っていいかどうかは、別の欄になっている。
俺は昨日の器の行を開いた。
器だけ先に取れないか、と思ってから荷姿の画像を見直す。
同じ便に載っているからといって、窓口で好きな箱だけ抜けるわけではなかった。
笹倉さんが机の表示を更新した。
「こちらから受入れを催促しても、接続の判断は変えられません。今日の評価は延期です」
美緒が予定表を閉じた。
「試食分は、準備前です」
「ありがとうございます。先方へも変更を出します」
先方、という言葉で俺は顔を上げた。
「食べる方も、来る予定だったんですか」
「評価への参加希望がありました。まだ、みなさんへの案内を出す前です」
美緒の指が手帳の端で止まった。
俺たちは袋の開け方や説明を確かめていた。
食べる本人が目の前に来るところまで、今日の机には載っていなかった。
笹倉さんは新しい予定が決まったら参加範囲を説明すると言った。
相手のことは、その後だった。
今は届かない器より、知らなかった予定の方が頭へ残った。
◇
午後、変更になった書類を届けに物流側の打ち合わせ区画へ行った。
入室の確認を済ませると、マコが机に三つの記録を並べていた。
俺が近づいても、最初は顔を上げなかった。
「延期した分。確認してもらった版」
俺は指定の固定板へ端末を留めた。
マコがそこでようやく頷く。
「受け取る。こっちも確認が済んだら返す」
机の向こうの窓に、細い光が見えた。
昨日は空いていたところに機体の一部がある。
接続設備からはまだ離れていた。
「来てるんだ」
「ああ」
マコも窓を見た。
「そこまで来て入れないのか」
「入れてから困るものがあれば、そこで止められる方がいい」
俺は画面へ戻った。
地上なら配送の人を倉庫の前で待たせているように思ってしまう。
実際には、窓へ手を伸ばしても何も届かない場所だった。
「中の人の飯は?」
マコが俺を見た。
「運航側と生活側で確認してる。今回の貨物を開けないと食えないという扱いではない」
「そうか」
そこまで聞いて、やっと窓から目を離せた。
別の連絡が来てマコは記録へ戻った。
俺は邪魔にならない位置で、自分の端末が受領済みへ変わるのを待つ。
打ち合わせ区画の壁に、地上へ出す訂正の項目があった。
貨物の一部は予定していた評価に使えない可能性がある。
受け取れた数を揃えるより、使ってよいものを確かめる方が先だった。
「今夜、遅い?」
マコが俺の画面を戻した時に聞いた。
「遅い。今は終わりの時刻を言えない」
「飯の予約、変更するなら忘れるなよ」
「それ、俺の台詞」
マコは笑ったが、すぐに次の連絡を開いた。
俺は返された端末を鞄へ留めた。
何か手伝う、と言いそうになった。
今の仕事を横から代われるほど俺はここの手順を知らない。
「終わったら、一行でいいから知らせて」
「何を書くんだ」
「終わった、でいい」
マコがこちらを見た。
「お前、先に寝ていいからな」
「寝る。朝、読む」
返事がなくても待ち続けるぞ、という約束にはしたくなかった。
マコは短く頷いた。
その後で、俺の鞄の留め具を確かめる目になった。
「今日は大丈夫」
俺が先に言うと、ようやくいつもの笑い方をした。
帰りの通路で窓をもう一度見た。
機体の灯りはまだ同じところにある。
止まって見えるものの中でも、人は仕事を続けている。
俺は自分の持ち場へ戻った。




